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なぜわが子には探求心が芽生えないのだろう……『科学の力で無人島脱出ゲーム』監修者、羽村太雅さんにインタビューしたら、原因は保護者のわたしであることがわかりました。

今回、2022年3月発売の『科学の力で無人島脱出ゲーム』監修の羽村太雅さんにインタビューする機会をいただきました。
 
アイテムを使ってサバイバル課題を解決しながら、制限時間内に協力して無人島を脱出する本商品。
 
化学や物理、さらに天体などの知識を遊びながら身につけられる」といった商品の魅力をお聞きするつもりが、仕事を忘れて保護者としての疑問をぶつけてしまいました。
 
子どもを伸ばすために保護者ができることのヒントをたくさん聞いてきました。ぜひご覧ください。

羽村太雅さん
科学コミュニケーター、手作り科学館Exedra(エクセドラ)館長慶應義塾大学理工学部物理学科を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科で惑星科学を専攻。隕石の衝突を模した実験を通じて生命の起源を探求した。研究の傍ら柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)を立ち上げ、KSEL 会長として現在も活動を牽引。国立天文台広報普及員を経て、現在は江戸川大学や昭和薬科大学で非常勤講師も務める。メディア出演・掲載歴多数。東京大学大学院新領域創成科学研究科長賞、千葉県知事賞(ちば起業家 優秀賞)、他多数受賞。訳書に「くもんのSTEMナビサイエンス」シリーズ(くもん出版)。科学監修として『科学の力で無人島脱出ゲーム』の制作に携わる。

これからの未来を生きていく子どもたちにとって大切な力とは?

――羽村さんは、子どもたちにとって大切となる力、身につけていくべき力をどのようにお考えになりますか。
 
羽村:
「なにが起こるかわからない、答えがない中、どのような生き方をするか自分で決めることができる力」ですね。

わたしは大学教員もやっていますが、先生に答えをもらわないと動けない大学生は多いですね。生き方も価値観も多様化しているいまこそ、子どもたちには「自分で考えて選択できる力」を身につけてほしいと思います。
自由に選択することには責任も伴うため、不利益も含めて考えられる思考力も大事です。答えのない問いを自らたて、それにチャレンジし続けることで、思考力を育んでほしいですね。
 
――どうすればそのような力を身につけることができますか。
 
羽村:
わたしは、自然体験や原体験を積むことが大切だと考えています。
 
学校から帰ってくるときに捕まえたオタマジャクシを家で育てる。
夏、夜になったら蝉の羽化を見に行ってみる。そのとき空一面の星を見る。
 
自然がそばにある環境は、「多くのことを学び、問いを立てて探求していく姿勢」を育んでくれます。
 
ますます都市部に人が集まる中「わざわざ見に行かないと見られなくなってしまった」そのような環境に、意識的に目を向けることが大事だと思います。
 

――わたしの娘が通う学校でも雪国体験のようなイベントがありました。貴重な自然体験、原体験が、子どもたちにとってどのように「身につけたい力」に繋がるのでしょうか。
 
羽村:
わたしは、「体験=きっかけ」だと思っています。
本当になにかを学び、身につけるためには体験だけではとても足りません。しかし、机の前に座って勉強しているだけでも、その勉強がなにに繋がっているのかわからないでしょう。
 
たとえば虹を見たことがない人が、虹のできる原理を説明されても、ぴんと来ないと思います。
 
一方、虹を見たことがある人、さらには、「あれはどうやってできるのだろう」と考えたことがある人だったら、原理の説明は有意義な学びの時間になります。
つまり体験とは、その後の学びをより具体化したり、身につけさせたりするきっかけであり、多くの学びは、このような「体験と学習の有機的なつながり」だと思います。
 
――お話を聞き、保護者として反省しています。わたしは都市部で育ち、自然体験ができていないからか幅の狭さを感じます。保護者が未体験なところに対する、子どもの導き方を教えてください。
 
羽村:
どんな原体験をさせるといいですか?」とよく聞かれます。
この質問をされる方は、なにから手をつけたらいいかわからない人がほとんどなので、最初の一歩につながるような体験をおすすめすることが多いです。
たとえば、「フルーツ狩り」とか、「野菜の収穫体験」などです。身近なところから始めることが大切だと考えています。海水浴や潮干狩り、スキーやキャンプなどを楽しんだり、登山や天体観察、磯遊びや化石探しなどの体験にステップアップしても良いですが、まずは肩の力を抜いてお手軽なところから挑戦してみてはいかがでしょう。
 
――保護者の体験が少なくても、ちょっとしたきっかけを使って、子どもと一緒に楽しみながら、できることからやっていくというのがいいですね。

子どもに自発的な学びの姿勢をつけるには

――もう、新商品に関するインタビューではなく、保護者会みたいになっていますね(笑)。
羽村さんが運営されている千葉県柏の科学館(※「手作り科学館Exedra」)にも、たくさんの子どもが来ると思いますが、自発的に探究する子どもやその保護者にはどんな特徴があるのでしょうか。
 
羽村:
まず、自発的な子どもの保護者には「一歩引いているな」と感じることがよくあります。
その子の行きたい場所に連れていくなど、子どもの「やってみたい!見てみたい!」に躊躇なく答えていく姿勢が見られますが、現場では最低限のサポートだけで、子どもに好き勝手やらせている印象です。
 
「わたしはもうついていけなくて……」
 
みたいな話をされることが多いですね。もちろん、つまずいていそうなところで手助けしてあげたり、探求の道の迷路で明らかに間違った方向に行きそうだったら、ちょっと軌道修正してあげたりはすることはあります。
 
子ども自身に関しては、特定の分野が大好きになり過ぎて、そこにしか興味を持てなくなってしまうケースには注意が必要です。わたしは、そのような子どもに対して視野が広がるような声掛けをしています。
 
――なるほど。もう一つ「子どもの自発的な学びの姿勢」を育てる方法をお聞きしたいです。わたし自身、頑張って機会を提供したという思いはありますが、消極的というか、深く潜ろうという探求心も芽生えてこなかったと感じています。
 
「保護者のアプローチによって、子どもの自発的探究心を育む方法」については、正直まだ答えを持っていません。

しかし、少なくとも「あれはダメ」「これはダメ」と言わないことが大切だと思います。自由に、好き勝手やらせてあげることが探求心の成長には必要なのかなと思っています。

科学館で子どもに「こんな実験やってみたら」と提案すると、後日「お母さんに危ないからダメと言われた」とか、「キッチンが汚れるからやめてと言われた」とか、よく聞きます。わたしも子どもがいるので、それを言った保護者の気持ちはとてもよくわかりますが……
 
――気をつけたいと思います。振り返ると、たくさん「ダメ」と言っていますね……


子どもの心をときめかせることが大切

――そもそも、羽村さんご自身が科学への興味を強めたきっかけはいつでしょうか。
 
羽村:
わたしには、「微生物でもなんでもいいから、とにかく地球外に住んでいる生物を、死ぬまでに手のひらに乗せてみたい」という夢があります。

「どうやって見つけるか」を考えたとき、「科学的な根拠をひとつずつ踏まえ、1番確率の高い、効率のいい探し方をしよう」と思ったことが、この道に入った理由です。
わたしにとって、科学は夢をかなえる手段・道具の1つで、実はそれ自体にはあまり興味はありません。
 
――ちょっとまってください。地球外生命体を手の上に乗せたいという夢は、いつ、どんなきっかけで持つようになったのですか。
 
羽村:
その夢を見つけるのに2つの過程をふみました。

1つ目は高校時代ですね。高校では、教科書に名前が載るような人になりたいと思っていました。
物理の成績だけすごくよかったので、物理の教科書を見ていると、ガリレオ、ニュートン、アインシュタインがいました。なんと三人とも、宇宙を研究している物理学者でした。そこで自分も物理を学んで宇宙を研究してやろうと思いました。
 
2つ目は、大学時代です。進路について漠然としている頃、太陽系外惑星の写真が撮れたという、その頃の1番ホットなニュースがありました。ここから世界が広がりそうな予感がして、宇宙人探しの旅に出ようと決めました。
訪れた東大大学院の研究室の先生が、「好きなことを研究するのがよい」とおっしゃったので、その研究室に入りました。宇宙人を探す研究を続ける中で、自分にとっては「触れてみる」という目標の方が心がときめくと思い、研究の道が収れんしていきました。
 
――「自分にとって心がときめくこと」を探す、見つけることが1番なのかなとすごく感じ入りました。保護者としても、自分自身も楽しみながら「子どもが心ときめくものを発見する」ためのサポートをするという意識が大事ですね。
 

▲手作り科学館Exedraのようす

『科学の力で無人島脱出ゲーム』について

――今回、仕事を忘れて保護者の立場から相談してしまいました。最後に、監修いただいた『科学の力で無人島脱出ゲーム』について、いいところや、ゲームを通して子どもたちにつく力について教えてください。

▲ミッションカードに書かれた課題を、手に入れたアイテムで解決しながら、制限時間内に無人島脱出を目指します。

羽村:
このゲームのいいところは、大人が楽しめるところです。
この部分、実はとても重要で、「大人が本気になって一緒に遊んでいる」姿というのは、子どもたちにとってはそれだけ魅力的です。

子どもは吸収が早いので、ときには大人より上手くなることもあるでしょう。そのときに大人を越えた感動も味わえると思います。
子どもだけでやらせていたら、この感覚は味わえません。大人が楽しめなかったら、やりましょうと言ってもやりません。でもこのゲームの場合は大人が楽しめます。大きな魅力ですね。

子どもたちの学びの切り口で考えてみると、理科の知識が学べるのに加えて「リアルな現場のシチュエーション」と「教科書に載っている知識」が繋がりうるところがポイントだと思っています。
「理科の教材」とか、「無人島から脱出するマンガ」とかは、いっぱいあります。しかし、体験と学びが有機的に繋がっているものは結構珍しいと思っています。
 

▲羽村さんとご友人が試作品で盛り上がっているところ


――監修作業などをおこなう上で苦労されたところ、気をつけられたところはありますか。
 
羽村:
そうですね、リアルなアウトドア体験、取り組みから得られる目線での指摘を丁寧に行いました。この部分がこだわりだと思っています。
正直、リアルな現場を無視して理科の知識に寄せるほうが簡単だと思います。しかし、この商品はリアルさがあるからおもしろいものになったと思います。
 
わたし自身、サバイバル的な登山も多く体験しました。最小限の食糧だけ持って2週間山で暮らすといった経験です。

あっという間に天気が崩れ、時には誰かが体調を崩し、気を抜くと水が足りなくなる……

そういう経験から、本商品にも「こういう教科書的なシチュエーションはないよ」「現場ではもうちょっと違う対応をするよ」といった指摘をたくさんさせていただきました。

▲ミッションカード 手に入れたアイテムカードでミッションをクリアするとポイントがもらえます。

たとえば、ミッションカードの中で「食料を手に入れるために狩りをする」というカードがあります。狩猟免許を取った経験から、「トラバサミが違法猟具だから使ってはいけない」というコメントをしたのを覚えています。

あと、前職の国立天文台で扱っていた天文現象や、登山の際に学んだ気象の知識なども役立ちました。
いろんなことをやってきた経験をフルに活かせて楽しいなと思いながら、ご一緒させていただきました。 ぜひ、楽しんでいただけたらと思います。
 
 
今回は、羽村さんに子どもを伸ばすヒントをたくさんいただきました。その羽村さん監修の『科学の力で無人島脱出ゲーム』もぜひ手に取っていただけると嬉しいです。

無人島脱出ゲームの詳細はこちら
(写真:羽村太雅さん PIXTA くもん出版撮影)