見出し画像

【1日目編】第71回 日本デザイン学会 春季研究発表大会に初参加しました

2024年6月21日〜23日まで第71回 日本デザイン学会 春季研究発表大会が、九州産業大学にて開催されました。
今年初めて参加させて頂いたのですが、カルチャーショックでした。マクロス風だとヤック・デ・カルチャーな事が色々起こりました。
※こちらは番外編で書きます。

そもそも、学会は高貴な立場の方(教授や有名大学出身者)が日々高度な研究をしているのを発表する場であり、入り口で入室不可の宣言をされてしまうのではないかとずっと思っていました。
しかし、Xデザイン学校という私塾に2022年からお世話になっていて、先生からの進めもあり、“まずは拝見させていただきます”という気持ちで今年初めて参加させていただきました。
同じくXデザイン学校からの発表者と、個人的に気になった方の発表に軽く触れさせていただければと思います。

デザイン思考プロセスにおける手描きポンチ絵の可能性

チームワークにおける創発的行動を誘発しうる手描きポンチ絵の資性と構造

学会の勝手がわからず、写真撮影を控えた為この写真しかありませんでした….

発表は並行して複数の教室で一斉に開始され、15分の口頭発表その後5分間の質疑応答の時間が用意されます。
まず最初に選んだのは「デザイン思考プロセスにおける手描きポンチ絵の可能性」と題して京都芸術大学 大学院 学際デザイン研究領域の先生や学生の発表でした。
ポンチ絵とは、製品のイメージを伝えたり設計の構想を示す、手書きの絵のことですが、現代ではCADを使ったりPCを使ってポンチ絵を書くことなく簡単に図化出来てしまいます。
簡単に綺麗につくれてしまうために、まとまっているように見えてしまい創発にならない。問を立て相互対話が必要なシーンでは、ポンチ絵の方が本質を伝えるうえでは有効なのではないかという問いで、下記2点の観点で研究されていました。

  • 創発的行動との関係

  • デザイン思考プロセスでのチームへの影響

特にポンチ絵のもつラフすぎるゆえの余白が何であるかを仮説を立てられれ、ツールを使ってしまうことにより情報が過多になることで、創発的な行動が出にくくなる。一方ポンチ絵は完成されていないがゆえに、他者から見ると「足りない」情報のズレが生じ、好奇心が芽生え創発的な行動が誘発されるという話はとても納得感がありました。

普段私もオンラインで仕事をしていますが、メンバーとアイディアを発想するときに、CTOがペンタブとMicrosoft OneNote を使って、設計を器用に手書きしてくれます。このポンチ絵がきっかけで色々なアイディアがでてきて合意形成が進むと感していましたが、ポンチ絵の持つ「足りない」情報のズレにより創発された行動なのだと納得しました。

共通認識を学ぶ教材の開発事例

2つ目の発表はXデザイン学校の水野悠子さんが、実際に職場で行った体験を元に発表された「共通認識を学ぶ教材の開発事例」を拝見しました。

余談ですが、デザイン学会では15分口頭発表、5分質疑応答なのですが、次の発表まで休憩がありません。なるべく多くの発表を見ようとすると教室間を走り回る必要があります。(T_T)

水野さんは、障害者の就労支援を行う企業に努めており、特に精神障害者の企業定着率の低さを実感されていました。そこで就労支援を行っている関係者にから課題を抽出し「ふつう」という表現が、就労支援を行う側、就労支援を受ける側で隔たりがあることを発見しました。

「ふつう」を定義し、支援を行う事業所として一貫性のある支援を行うことは勿論、コミュニケーションのギャップを生むことが無いように、大きく2つの"ふつう"を定義されました。

  • 良い人間関係を築くために必要な"ふつう"(社会人の共通認識

  • 会社員として求めら れる"ふつう"(評価の基準

またカリキュラム作成では就労で課題となることを、コンセプトワークで抽出した内容を分類して、就労前に13の項目を習得する必要性を明確にしました。そして教材へと落とし込まれていました。

個人的には、障害のある方が社会共通認識の幸せを望みながらも、就労への問題を抱えている現実を知らなかったので、課題を認識するきっかけとなった発表でした。

「ここちよい近さ(近接)」近接のデザインはまち(地域/都市)、ケア、企業、デジタル、経済を変えるのか?

1日目最後はオーガナイズドセッションを拝見しました。オーガナイズドセッションとはオーガナイザーがテーマを決めてテーマに沿って数名が発表を行うセッション形式です。

「ここちよい近さ(近接)」という視点から街、地域、都市のシステムとケア、そしてコミュニティや経済。そしてデザインの様々な視点からパネリストに発表いただきました。

オーガナイザーのXデザイン研究所の山崎和彦さん

まず最初にオーガナイザーの山崎さんに「近接とはなにか?」について説明が行われました。
元々はソーシャルイノベーションの第一人者、エツィオ・マンズィーニが書いた「Livable Proximity: Ideas for the City That Cares」がベースとなっており、そこにポストコロナにこそ、「近接」という視点やアプローチが必要になるというお話をもらいました。

また、具体的にミラノでの事例、そして山崎さんや他のメンバーが行った日本での事例を解説いただき、イメージが具体的になりました。

広い視野で、前進させるイタリアデザインの70年(安西さん)

安西さんの発表では、イタリアのデザイン史特徴やデザインの対象の広さ、そしてデザイン史の中でエツィオ・マンズィーニはどの位置にいるか。
例えば、Ettore Sottsass(エットレ・ソットサス)の世界一有名なタイプライターolivetti valentineは問題解決をcarltonは意味の形成をそれぞれ専門家が行ったデザイン。

一方エツィオ・マンズィーニ著「Design, When Everybody Designs」は非専門家のデザインに分類される。

特に面白かった話は、ベルガンディの三角形と呼ばれる図で、20世紀はテクノロジーに貢献するために人々が動いていた。(下記画像左)21世紀は本来の目的を取り戻し、人のためのテクノロジーでなければならない。(下記画像右)この考え方は前者がアメリカ的で後者がヨーロッパ的である。という内容に深く共感しました。

近接経済のデザイン(澤谷さん)

近接には2つの側面があり、1つは機能的な近接(生きるために必要なものを近接の中で手に入れる)と、もう1つは関係的な近接(物理的に近くにいることで新しい関係が生まれやすい)だそうです。
特にケアには両方の近接が必要だけれども、現代社会はマシン化している。
受ける側、提供する側に分かれてしまっている。
それを強く意識させてくれたのはコロナだったそうです。

一方的にケアを受けるのではなく、あらゆる人がケーパビリティを持っているという前提でケアを受ける人、ケアする人に分けるのではなく相互にケアする組織にする必要があると訴え、イギリスのサークルという団体の取り組みを例にとって説明してくれました。

ポイントは、新しい物を作るのではなく今有るシステム活かす。
既存のカフェに市の検索できるシステムを入れる。カフェに置くほうが人が集まり相互に役割が入れ替わったりハイブリット化してく。

「好ましい条件」のための介入とはなにか?マンズィー二と福井県鯖江市での実践と荒天から考える(森さん)

マンズィー二は一貫して「誰もがデザイン能力をもつデザイナーであり、誰もが日々の暮らしの中プロジェクトを立ち上げて生活を前進させる能力を持っている」と語っています。森さんも受ける側、提供する側、問題を抱える人、問題を解決する人などのような二項対立は限界をむかえているのではないかと訴え、そういった中で必要になるのが行為を発露(プロジェクトを立ち上げ)するための「好ましい条件」を整える事。それこそがデザイナーの役目ではないかと仰られました。

そこでご自身の経験した福井件鯖江市での活動からプロジェクトが立ち上がるために必要な「好ましい条件」を構築する5つの要素を提示いただきました。

  1. 集い、関わるための「旗」=関係的オブジェクト

  2. 自分で意味づけし多様な実践を行うことを後押しする装置/舞台

  3. 多様な形式の参加を可能にする参加の枠組み

  4. コミュニケーション/コラボレーションを生み出す設計

  5. 垂直・水平に広がるネットワーク形成

それぞれの視点からの「近接のデザイン」そして、実際に実践している内容を伺う事ができ勉強になりました。
今回の発表は一部書籍にも収録されています。

1日目の発表全ては書ききれませんでしたが。非常に沢山の発表を伺う事ができました。2日目も引き続きまとめたいと思います。

基調後援編は下の記事から見ることが出来ます。


いいなと思ったら応援しよう!