
見知らぬ人にふと話しかけたら、世界が少しだけ優しくなった
日替わりで提供者が変わるいつもの食堂のシェフとすっかり顔なじみになった金曜、その足でいつものコワークスペースにやってきた。
到着すると、よく見かける清掃&管理のおねえさん(とはいえおそらく同世代)がいた。
基本会話禁止の静かなコワークスペース。私はいつも黙々と仕事をされているその後ろ姿しか見たことがないし、彼女はここに同僚も知り合いもいないからしゃべっている姿を見たこともなければ、私から話しかけたことも、面と向かってお顔をよく見たこともなかった。
しかし今日、私がここに通い始めてはや数年、ずっと束ねられていた彼女の髪がおろされ、セミロングになっていた。
たまたまお昼どきでその小さなオフィスに利用者はおらず静かだった。私はあまり悩まずに「髪、切ったんですね」と話しかけた。
そしたら彼女は「フワァ!」っと音が聞こえそうなくらい明るい表情を見せ、掃除の手をとめてマスクの上からびっくりしたように口に手を当てた。目をまん丸くして私を見つめるその顔は「まさかここで誰かに話しかけられるなんて?!」「しかも髪を切ったことに気づく人がいるなんて!?」と言っているようだった。
なんと返していいかわからない、といった感じで無言で立ち尽くし私を見つめる彼女に私は「髪、ずっと長かったですよね」と伝え、ニコリとあいさつして席に着いた。
ああ、なんだ、笑ったらあんなにかわいい人だったのか!と私はその人のお顔をはじめてちゃんと見てそう思った。ここはしゃべっちゃいけないスペース。だから基本的にみんな無表情。
彼女は複数のオフィスを担当しているので(隣町のオフィスでも見たことがある)いちユーザーの私のことを知っていたかどうかは定かではない。多分知らなかったと思う。仮に知っていたとしても、彼女の目にうつる私も、きっと無表情で黙々と働くサラリーマンに過ぎなかったと思う。
なんか、話しかけてよかったな。って。
一見無表情に見える人でも、笑顔を隠し持ってる。それを引き出すのはちょっと勇気出して発する、意外と簡単な「一言」なのかも。
私だって髪切って誰かが気づいてくれたら嬉しいもんな。
次にあなたが誰かに声をかける時、世界が少しだけ優しくなるかもしれません。勇気出せたらぜひ。
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