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能 狂言 『鬼滅の刃』

今回は舞台の感想です。伝統芸能です。
能 狂言 『鬼滅の刃』を観劇してきました。
初演から興味あったもののチケットが取れず、2年ぶり?の念願の観劇です。

僕は自己紹介でも書いた通り役者をやっているのですが、伝統芸能はやった事は勿論、知識もど素人です。過去に愛之助さんが出演されていた歌舞伎を1度生で、あとは映像で講談や落語をほんの少し観たことある程度が僕の伝統芸能ステータス。あ、過去に舞台で能楽師の方や講談師の方と共演させていただいて、間近でその技術を拝見させていただいた事があります。

あと、今公演の台本原案を担当された木ノ下裕一さん。この方は僕の大学/学科の何代も前の卒業生です。木ノ下裕一さんはウチで教鞭も取られていて、僕は実際に木ノ下さんの伝統芸能の座学を受けました。木ノ下さんは木ノ下歌舞伎という団体も主宰されており、歌舞伎を始めとした伝統芸能を現代ナイズし、古典芸能に馴染みの無い方を始め、老若男女に楽しんでもらえるような"新しい古典芸能"を創作されています。木ノ下さんは恐らく僕の名前も顔も覚えていらっしゃらないでしょうが、僕は木ノ下さんが、木ノ下歌舞伎がとても好きです。「古典芸能にも興味あって受講したものの、眠くならないかな...」なんて思ってた僕、頭ぶち抜かれるくらい分かりやすくて面白い授業でした。昨年の木ノ下歌舞伎『勧進帳』は昨年観た舞台で1番面白かったです。木ノ下さんLOVEです。

『鬼滅の刃』自体は原作読破、アニメは無限列車まで、2.5次元は無限列車と遊郭は観たという感じです。

では、今作『鬼滅の刃』、鑑賞してみた感想は...
""面白すぎるッッッ!!!!素晴らしいッッッ""
でした。ロングランなこともあってか、スタンディングオベーションはまばらだったのですが、僕は生まれて初めて、自分の意思でスタンディングオベーションしました。本当に痺れた。今年1、いやもしかしたらこの先数十年の観劇作品で1番の面白さになるかもしれない。

ここから先は詳しく書きますが、他の映画や演劇と違って、古典芸能ということでほぼ知識が無い状態で今の心のホクホク感のまま書くので悪しからず。

まず、2.5次元舞台が"原作に舞台が寄せていく"とするならば、今公演は"古典芸能に原作を落とし込む"といった感じです。2.5次元や実写映画はミュージカルや古典芸能に比べると、確固たる作り方などがなく、非常に自由度の高いコンテンツなんですよね。故に「如何に漫画を再現できるか」という組み立て方になっていくのが一般。だから2.5次元とか実写映画って絵のキャラクターが生身の人間に置き換わっただけで、物語の進行ややってる事は原作とほぼ同じ。しかし、古典芸能の場合、昔から脈々と伝承されてきた型や技法、演目の組み立て方がある。それを「如何に原作と同じようにできるか?」というアプローチで作ると、能や狂言の独自性は失われ、多分2.5次元と同じような感じになってしまうんですよね。だから、あくまで「お弁当箱は能 狂言で、そこに鬼滅の刃というおかずを、どこの仕切りに入れていくか?どう盛り付けるか?」という作り方なんですよ。今公演で言えば、「五番袖」という能の伝統的な上演形式で仕立ててあります。そう、日本の古典芸能にはこれ!といった上演形式が決まっているんです。「五番袖」でいえば、始めに「翁」という祝祭儀礼の幕があり、次に「脇能物」という神々が登場する幕があるetc...と行った感じにラインナップが決まっています。これは絶対なんです。絶対に崩すことの出来ない能のオリジナリティなんです。だからそこに「鬼滅の刃」という現代の漫画を当てはめていくと、自ずと「この幕にはこの場面が使えそうだな...」となっていき、原作と物語の進行が少しずつ変わってくるわけです。ね?面白くないですか?2.5次元や実写映画だと基本1巻〜原作通りに場面が進行するじゃないですか。それが古典芸能だと違うんですねぇ。だから、原作では初め、死んだ禰豆子を背負った炭治郎が「どうしてこうなった...!?」といいながら、家族が鬼に殺されるまでを回想する...といった導入なのですが、今公演では「翁」...神々が舞い、言祝ぐという幕なので、炭治郎が亡き父と共にヒノカミ神楽を舞い、伝授するという所から始まるんです。どしょっぱつから違うんですよ!原作だとヒノカミ神楽は累に追い詰められた場面で初めて炭治郎が咄嗟に繰り出すんですが、今公演では祝祭儀礼という形で冒頭に配されています。勘違いして欲しくないのが、「え?じゃあ時系列が色んな所に飛んで、一貫性の無い感じなの?」と思われるかもですが、そうではありません。今公演は主に原作1巻〜5巻(那田蜘蛛山まで)を取り上げており、基本は原作通りの時系列で進んでいきます。しかし、先述した「翁」のように原作の時系列通りに行くとどうしても形式と沿わないような所は他の巻や場面などからピックアップされています。驚いたのがパンフレットを見るに恐らく木ノ下さんは原作は勿論、公式ファンブックやノベライズ、アニメ全て鑑賞しているっぽいんですよね......。だから、他にもどこの場面を取り上げるか悩んだ際に巻末のおまけページなどからピックアップしてるんですよ.....。この狂気っぷり(褒め言葉)。以上の事から同じ漫画の実写といえど、2.5次元や映画とは一線を画す、独自性溢れる演目に仕上がっているわけです。

パンフレットにて野村萬斎さんが述べていたのですが、能は映像の無い時代から存在しており、無駄な物を削ぎ落とした引き算の演出。そこに存在しない水を表現する。観客の想像力をバーチャルに刺激するetc...ホントそうなんです。僕はこの文章を読む前から、鑑賞中に「あ、ここあの場面だ」と漫画やアニメの映像が脳内に蘇りました。バトルシーンもアニメや2.5次元に比べると全然遅いし、殺陣とはまた違って当たってるようにも見えない。しかし、何故かカッコイイし、緊迫感が伝わってくる。それと、無駄な物を削ぎ落とすという言葉通り、全てがコンパクトでスピーディーに進んでいき、あっという間に公演が終わる。でも、決して重要な所が流れていくわけではなく、能 狂言の力ならばそれぞれの場面はあの短い尺でいいのだ。アニメなら1話かけて、2.5次元でも15分くらいかける場面を5分で最大限表現仕切ることが出来る。本当にすぐに終演を迎えました。

あと、藤襲山の最終選別の場面。ここ凄く興味深かったです。炭治郎が最終選別に向かった直後、鱗滝の元に選別を終えて帰ってくるという演出がされており、非常にコミカルで会場でも笑いがチラホラ。僕は「あ、最終選別飛ばすんだ」と思ったのですが、実はそうではなくて、炭治郎の回想によって最終選別の様子が展開される。勿論これも、原作ではそんな事無く、実際に炭治郎が最終選別に望むのと同じ時間で進行します。ここ!僕、大学で木ノ下さんの授業受けててよかったぁ...って思ったポイントなのですが、能の形式の1つ・夢幻能っぽい!って思ったんです。夢幻能とは簡単に言うと霊的な存在が過去の出来事を回想するという物です。炭治郎は死んでは無いので、厳密には夢幻能では無いのかもしれませんが、パンフレットにて木ノ下さんが「この演目は死者へ捧げるレクイエム」と述べているので、どこか夢幻能を意識したのかもしれません。あくまで予想です。ちなみにここで登場する手鬼は木ノ下さんの推し鬼だそうなので、こだわった場面なのでは無いでしょうか?だからこそ夢幻能のようなスパイスを入れたのでは無いでしょうか?何にせよ、能独特の演出技法に現代の漫画を落とし込んだ、凄く面白い場面でした。

鋼鐵塚さんの場面、めっちゃ良かったすっよねぇ?この場面は恐らく鋼鐵塚のキャラクター性を意識して完全に木ノ下さんが1から書き上げた場面だと思われます。登場人物が1人しか出てこない「1人狂言」という形式の元、10分くらい?鋼鐵塚さんの刀漫談のような物が繰り広げられます。狂言はそもそも喜劇なので、この場面も非常にコミカルになっており、オノマトペや天どんなど古典的な技法ながら会場中の笑いをかっさらってました。そして、そんな鋼鐵塚さんがだんだん可愛く見えてきた。狂言で言うとその後の鎹鴉たちの場面もコミカルで可愛らしかったですね。

演者さんに注目すると能 狂言なので、勿論男性の演者さんしかいません。真菰や禰豆子などの女性キャラクターも全て男性が演じています。しかし、それも流石というかなんというか、ホントに女性にしか見えないんですねぇ。中身はおじさんのはずなのですが、幼い少女にしか見えない。不思議ですねぇ。あと、確か能では女性や死者は皆面を付けて演じるんだっけかな?そこもポイントです。累なんか座組1番の大ベテランの大槻文藏さん、失礼ながら言うとまぁおじいちゃんが演じているのですが、ホント若い少年、それも累のあの透き通ったアンニュイな雰囲気がしっかり出てるんですよ。ホント凄い。あと僕が1番凄いと感じたのは善逸を演じた野村裕基さん。いや、ホントに喉に下野さん飼ってる?ってくらい善逸でした。能 狂言なのにだよ?めっちゃ善逸なのよ。すり足なのに、あの落ち着きの無い善逸らしさが凄い!そんなワチャワチャ感から打って変わって静寂の中放たれる「霹靂一閃・六連」、文字通り痺れた。カッコよすぎた。決してアニメや2.5次元に比べるとゆっくりだし、立ち回りもシンプルなんだよ。だけどとてつもなく痺れたね。ここは照明も相まって凄くカッコよかった。

前項で照明について少し述べましたが、今回は普通の演劇で使うような劇場での公演という事で、照明や舞台装置など現代的なアプローチの演出とのコラボレーションも光ってましたね。僕は映像で少ししか観た事ないのですが、恐らく本来の能楽堂とかだと照明や音響による演出は一切ないですよね?今回は能楽堂のような舞台装置が組まれていながら、そこに照明による現代的なアプローチ、それに後方には能楽堂とは別に普通の舞台が組んであり、そこでも演技が披露されるといった、恐らく本来の能 狂言では味わえないような画期的な演出が見られました。ちなみに音響による演出はそんなにありませんでした。鬼舞辻無惨が現れるシーンは音源で三味線の音が流れていましたが、その他は狂言方、笛方、太鼓方、小鼓方による伝統的な演出がなされていました。それもまた気持ちよかった。

そろそろ〆にかかろうかと。これから今作を始め、伝統芸能をご覧になる方には1点注意がございます!能、狂言、歌舞伎などは非常に静かな演目です。現代芸術とは違い、ずっとBGMがなってたり、大きな音響が流れたり、照明が常にビカビカ変化したりなどはありません。盛り上がるシーンでは鼓や狂言方の声が響きますが、それでも普通の演劇などに比べると静かです。故に些細な音でもめっちゃ目立ちます。今公演でも、隣の人と喋る声、飴を舐めようと袋を開ける音、最悪なのはスマホの通知音......めっちゃ気になりました。僕の隣の席の方はそれが気になったのか休憩時間に怒ってました。遅れ客やトイレ退席も凄く目立ちます。時間厳守、トイレも事前に済ませなるべく我慢するのが良いでしょう。1番残念だったのは、座席後方で卓に居たスタッフ......。恐らくインカムで調光室に指示出てたんじゃないかな?仕方ないかもだけど、めっちゃ気になった。凄い聞こえてた。何度も聞こえてた。いや、ホントこればっかりは仕方ないのかもだけど。1回「早い...」って聞こえた時は1番残念でしたね。失敗したんだってのが分かっちゃったんで。

あと、今公演に関してはパンフレットは絶対購入しましょう。インタビューは勿論、台本が丸々載っており、木ノ下さんによる能 狂言の説明、台本各所の解説、面の解説など......これだけ入ってたったの2000円!絶対買いましょう。公演はさることながら僕はパンフレットに感動しました。パンフレットが1番感動したかもしれない。僕みたいに古典芸能に馴染みのない人は特に買って損は無いです。

今回はこんな感じで。本当に素晴らしかった。いやぁいつも古典芸能も勉強として観なきゃと思いつつ、現代劇に比べてチケット料金が高いのと、能は特に何言ってるか分かんないのもあって重い腰が上がらんのです......。でも、今作を鑑賞して、もっと古典芸能観たい!と確実に思いましたね。最高の公演でした。皆さんも、ぜひ。

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おわり。

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