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桜が綺麗だと夢のようで怖くなる。

春。一目惚れして、意気揚々と買ったものの履けないまま傷んでしまったエナメル素材で薄い桜色のパンプスを思い出す。
わたしは普段、パンプスなんて履かないのに、履いたこともない7センチの細いヒールに釘付けになって、次の瞬間にはもうレジにいた。
なにかと衝動的になって後から後悔することについて、わたしはかなり経験豊富だ。わたしにとって、春は怖い季節。何かを、やってしまう季節。何か、取り返しのつかない何か。

わたしは漫画を描いている。世間一般で言うところの少女漫画や女性漫画というカテゴリで、恋愛や女性の自立、生活や感情の機微を描く。こと恋愛については疎いわたしがこんな世界で生きていけるのか…。。わたしが描きたいものはなんなのか。わからないまま、今年も悪夢のような春が来る。他の漫画家や作家は描きたいものや自分の武器が明らかに有り、それは素晴らしい。とても羨ましい。

だが今年は気づいたのだ。春。
わたししかないものが、もしかしたらあるのかもしれない。
それは、【どうしようもない人を描くこと】。かもしれない。

ハッと気づくと、わたしの周りはいつも『どうしようもない人』であふれていた。
母親、母親の姉、祖母、祖父、妹、そして父。
ネタに困らないと今は思う。
この世の中はどうしようもない人とどうにかなっている人で回っていると切実に思う。

わたしは好きなのだ。
結局、どうしようもない人が。
飲み屋で人に絡まりまくるおっさんの、迷惑極まりないその行為に含まれた寂しさを知りたい。
不倫に溺れてしまって家庭内には愛がなくなったのに、子供を捨てることもできずに家の外でタバコをふかしている女性の諦めとか。

わたしの知っている人はだいたい、『どうしようもない人』。でも、どうしようもない人は、深い。広くない、深い。ものすごく深い。
そこを知りたい。
そう思って、最近では漫画に活かせるとは思わないけど、『どうしようもない人』を求めて飲み屋を巡って酔っ払いに話を聞いたりしている。
驚くほど足が軽い。もっと知りたい。
自分が対峙している人間がどう生きてきたのか、もっと知りたくてたまらない。

そんな気持ちで、2019春。

またまたまた。やってしまった。
衝動的に『世間的にはドン引きされる場所』に取材したいと直接電話をして、飛び込んでみた。たくさん断られた所もある。

そもそも、取材なんてしたこともないし、編集部という後ろ盾もないのでかなり危険なことをしている気もする。
だが、楽しい。こんなに楽しいことは知らない。毎日不特定多数の人に出会う。

拙いながらも話を一生懸命聞く。
この、出会った人々に聞いた濃い話を…少しずつ描いていけたらと思う。

この衝動を後悔するのかどうなのか、わたしはきっと後悔はしないだろう。でも、見届けたい。
『どうしようもない人』を求めているわたしこそ、一番『どうしようもない人』なのだろう。

#エッセイ
#石原由果子


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はじめまして!背水の陣で生きてます。石原由果子 名義で漫画を描いています。常に自分の身を切って物を書きます。たまに「苑子」という名前を使います。
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