用語集
エイブラムスについて取り上げる当ブログ(?)ですが、読んでいると時々わからない単語が出てきて困る!という方もいらっしゃるかと思います。
というわけでエイブラムス関係の用語集が今ここに爆誕!!
<車体・砲塔構造物>
バスル
砲塔後部の出っ張った部分。エイブラムスのバスルには弾薬庫、風速センサー、アンテナ、雑具箱、荷物用ラック、補助動力装置などが付いています。
BRE
Bustle Rack Extentionの接頭語。イラクの自由作戦での荷物用スペースが足りないという意見から製作された折り畳み式のカゴで、荷物用ラック(バスルラック)に装着して使われます。
スポンソン
履帯上の張り出した部分。M1エイブラムスのスポンソンには雑具箱、燃料タンク、エンジン吸気口、加圧式NBC防護装置、そしてM1A2SEPでは補助動力装置が入っています。
グリルドア
車体後部にある開閉式エンジングリル。中央が排気口で、その左右にはオイルクーラーがあります。
隔壁
エンジン区画、スポンソン、燃料タンク、弾薬庫と乗員区画を隔てている鋼製の壁。
砲塔バスケット
砲塔と連動して動くいわば砲塔の床部分です。ここに車長・砲手・装填手とコンピュータ類や砲塔昇降用システム等が乗っています。
<兵装・弾薬関連>
※特殊な弾薬については専用の記事で取り上げる予定
KE
物理エネルギー(Kinetic Energy)のこと。運動エネルギーを使い装甲を貫徹する兵器はKE弾(KE munition)と呼ばれます。
CE
化学エネルギー(Chemical Energy)のこと。化学エネルギーを使い装甲を貫徹する兵器はCE弾(CE munition)と呼ばれます。
スポーリング
装甲をKEもしくはCE弾が貫通したときに、破片と化した装甲の一部が車内に飛散する現象。無数の破片(BAD)が銃弾並みの速度で車内に散布されるため、乗員にもたらされる被害はこれらと侵徹体によるものが多いです。
APFSDS
Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabotの接頭語。長いんじゃい! 戦車砲から発射される、現代において最も一般的な徹甲弾(運動エネルギー弾)のひとつ。ダーツの矢のような形で、主に弾体、安定翼、そして装弾筒(サボ)から構成されています。非常に高い初速で発射され、空気抵抗によってサボは分離しお尻に安定翼がついた弾体が極超音速で飛翔していきます。目標に命中すると弾体にある長〜い侵徹体(ペネトレーター)が運動エネルギーによって自らを削り減らしながら装甲を貫徹し目標を破壊します。ペネトレーターは密度が高い金属でできているものが多く、タングステン合金や劣化ウランがポピュラー。サボはアルミ製が主流ですが、近年ではカーボン繊維複合材でできているものも登場しつつあります。M1エイブラムス では配備当初から現在に至るまでこのAPFSDSを重装甲目標を破壊する手段として使用しています。
SABOT/セイボー
APFSDSの愛称。英語圏においてしばしば使われます。
HEAT
成型炸薬弾(shaped charge warhead)のこと。High Explosive Anti Tankの接頭語で、ヒートと読みます。戦後から現代において非常にポピュラーな化学エネルギー弾であり、対戦車兵器(ロケット弾や無反動砲弾、対戦車ミサイル)の弾頭は十中八九HEATであるといっても過言ではありません。弾頭内部には「ライナー」と呼ばれる円錐型に加工された薄い金属がと炸薬、信管が入っております。これが標的に命中すると炸薬が爆発し、ライナーは高圧の細長い金属ジェットとなり(ノイマン効果)エネルギーが尽きるまで装甲を貫徹し目標を破壊します。M1エイブラムスでは配備当初からHEAT弾頭を有するM830シリーズが長らく使われてきましたが、今後はAMPに置き換えられる予定です。
BAD
Behind Armor Debrisの接頭語で、ペネトレーターが装甲を貫徹したときに飛散する装甲やペネトレーターの破片。BADはあらゆる種類の弾頭が装甲を貫徹したときに発生し、銃弾をはるかに超える速度で車内コンポーネントや乗員に対して損害を与えます。
MPAT
M830A1 多目的榴弾の愛称。Multi Purpose Anti Tankの接頭語で読み方は「エムパット」で、近接信管により地上標的だけでなくヘリコプター等の空中標的にも対応できます。
HEP
High Explosive Plasticの接頭語で、弾頭部分が柔らかく薄い金属でできています。これはホプキンソン効果を利用した化学エネルギー弾で、HEPが金属製の装甲に命中すると弾頭部分が潰れて装甲面に密着し爆発します。このときに発生した衝撃波が装甲を伝わり装甲内部を大きく剥離させ、BADを発生させます。M1エイブラムスにおいては、かつて105mm砲搭載型で運用されていました。HESHや粘着榴弾とも呼ばれます。
キャニスター弾
弾頭の容器(Canister)の内部に数千個の金属球を有した対人・対軽装甲用の砲弾の総称。さしずめ戦車砲から発射できる散弾のようなものと言えば分かりやすいでしょうか。
同軸機銃
主砲と並行に配置される機関銃。固定されているため主砲が狙っている方向にしか射撃できませんが、主砲用の高性能なFCSで射撃ができるため歩兵などに対し非常に有効な武装です。余談ですが、陸上自衛隊では連装銃と呼ばれています。Coaxial machine gunを略して"coax"(コーアックス)とも呼ばれます。
M240
アメリカ軍において広く使われている汎用機関銃で、原型は世界的ベストセラーであるFN MAG。M1エイブラムスでは同軸機銃と装填手用機関銃として計2挺が装備されています。使用弾薬は7.62x51NATO。
CWS
Commander‘s Weapon Stationの接頭語。直訳すると「車長用兵装ステーション」ですが、実体は銃架と照準器付きの車長用キューポラシステム。M1、M1IP、M1A1シリーズに装備されています。
ICWS
Improved Commander’s Weapon Stationの接頭語。上記のCWSの改良版で、M1A2以降に装備されています。
↑CWS(左側)とICWS(右)
バトルキャリー
戦闘前にあらかじめ装填しておく砲弾のこと。基本的に軟目標と装甲目標の両方に対処できるM830やM830A1がバトルキャリーに適しています。
リジッドボディペネトレーション(Rigid-Body penetration)
徹甲弾が想定より遥かに薄い装甲に当たり、ペネトレーターがほぼ完全な形を保ったまま突き抜けてしまうこと。BADがほとんど発生しないため乗員や車内コンポーネントに対し理想的な被害を与えることができません。
モビリティキル
戦車の機動力が無力化されること。主に燃料システム、エンジン、変速機、起動輪、履帯などを破壊することで機動力を奪うことができるとされています。
ファイアパワーキル
戦車の火力が無力化されること。主に主砲、砲塔旋回装置などを破壊することで戦車の火力う奪うことができるとされています。
カタストロフィックキル
攻撃によって戦車が完全に破壊され、修理が困難な状態になること。搭載弾薬の誘爆、大規模な火災が発生することでカタストロフィックキルという判定がなされます。
<防御・装甲関連>
劣化ウラン装甲
文字通り、非常に密度が高い劣化ウランを利用した装甲。M1A1HAから装備され現在まで改良を重ねながらエイブラムスの防御力を支えています。劣化ウラン装甲の表面には黒鉛のコーティングが施され、ステンレス製の容器に封入されているようです。
バリスティックスカート
車体側面を守るサイドスカートで、特殊装甲が封入されています。M1エイブラムスの両側第1〜第3サイドスカートまでがバリスティックスカートで、斜め前から攻撃を受けたときに乗員区画と車体弾薬庫への被害を減らすような配置になっています。
CIP
Combat Identification Panelの接頭語。湾岸戦争の戦訓から開発された敵味方識別用のパネルで、これを熱線映像装置で見るとこれが四角く浮かび上がって見えます。とてもハイテクに聞こえますが、アルミ合金にサーマルテープを貼った簡素なもの。
ドッグハウス
砲手用サイト(GPS)を保護するためのカバー。従来は鋼製でしたが、現在ではチタン合金製(Ti-6Al-4V)になっています。名前の由来は文字通り犬小屋のように見えるからで、公式資料にすら“Doghouse”と表記されています。
ブローオフパネル
車体とバスル弾薬庫の一部分を覆っている金属製の板。弾薬誘爆時にはこれが吹き飛ばされ、強烈な爆炎を車外に逃します。バスル弾薬庫のブローオフパネルは現在ではチタン合金製(Ti-6Al-4V)になっています。
VEESS
Vehicle Engine Exhaust Smoke Systemの接頭語で、エンジン排気口に燃料やオイルを直接噴射することで煙幕を発生させる装置です。
アクティブ防護装置
APS(Active Protection System)とは発射されたミサイルやロケット弾などの脅威を排除するための装置。ソフトキルとハードキルに二分され、前者は強力なIRジャマー等によってミサイルの誘導機能を無効化し、後者は弾丸などによってロケット弾や砲弾等を迎撃、破壊します。イラク戦争でアメリカ海兵隊がM1A1に搭載していたAN/VLQ-6やAN/VLQ-8はソフトキルAPSに分類されます。
NBC防護装置
大量破壊兵器の使用下において戦車乗員を保護するためのシステムで、Nuclear Biological Chemicalの頭文字を取っています。汚染された空気を浄化して乗員に供給するものです。車内の気密性が保たれていなければ効果は望めません。
スモークディスチャージャー
戦車に搭載される掩蔽手段で、専用のランチャーから発射されます。濃密な白煙により視界を遮るスモークグレネードや、真鍮粉等による対IRグレネードの他にも様々な種類の弾種があります。
AFES
Automatic Fire Extinguishing System(自動消火装置)の接頭語。
<動力・駆動関連>
パワーパック
エンジン、変速機、ラジエーター等のコンポーネントを一つのコンポーネントにまとめたもの。どれかが故障してもパワーパックを丸々取り替えるだけで済むため整備性に優れています。
AGT1500
エイブラムスシリーズのエンジンです。出力1500馬力の熱交換器付きガスタービン。
起動輪
履帯にしっかりと噛み合うことで戦車を動かすために必要な歯車。ドライブスプロケットとも。
APU
補助動力装置。アイドリング時の燃費が劣悪なエイブラムスにとって欠かすことのできない相棒です。
アクセサリギアボックス
AGT1500エンジンの前方下に付いている部分で、エンジンの力を油圧ポンプに伝えるためのものです。
<射撃統制システム関連>
GPS
Gunner‘s Primary Sight(砲手用主照準器)の接頭語で、車外に突き出ているセンサー部から砲手の目の前にある操作盤と照準眼鏡まで統合されたシステム。衛星測位システムと混同しちゃいますよね。
GPSE
Gunner`s Primary Sight Extensionの接頭語。砲手がGPSで見ているものと同じ映像を出力するアイピース付きの照準眼鏡で、GPSから車長席まで伸びています。
↑M1A2の砲手ステーションと車長ステーション
GAS
Gunner’s Auxiliary Sight(砲手用補助照準器)の接頭語。GPSが損傷したり故障して使えない場合や、200m以内の至近距離での交戦時に用いられる。GPSとは違い、こちらはあくまで補助用なのでサーマルイメージャはおろか微光暗視装置すらありません。
GPCH
Gunner‘s Power Control Handlesの接頭語で、これは砲手が使う主砲/同軸機銃用操行ハンドルです。左右に傾けると砲塔が連動し、グリップ部分には発射トリガーと測距ボタンが付いています。
CPCH
Commander’s Power Control Handlesの接頭語で、これは車長がCITV(後述)を操作する際、またはオーバーライドを実行する際に使用されます。当初はボタンが一つだけ付いている簡素なモノでしたが、近代化が進むと倍率切り替えスイッチなどが追加され手に馴染みやすいデザインのものに置き換えられました。
ブラスティングマシン
砲手用非常用撃発装置の愛称。砲塔への通電が断たれたときや主砲弾が不発だったとき用いられるダイナモ式撃発装置で、赤いT字型ハンドルのような見た目をしています。これを二回捻ることで主砲を撃発させることができます。
FOV
視野角(Field Of View)のこと。通常、NFOV(Narrow FOV)は高倍率時でWFOV(Wide FOV)は低倍率時のことを指します。
CCP
Computer Control Panelの接頭語。砲手席の右側にある機器で、レーザー測距装置が破損や故障で使用できない場合に手動で距離を入力できます。
GCDP
Gunner`s Control and Display Panelの接頭語です。旧式化したCCPを置き換えるもので、砲手の右側に配置される液晶ディスプレイ付きの操作盤です。
MRS
Muzzle Reference Systemの接頭語。砲身の歪みを不可視レーザーで計測するためのデバイスで、エイブラムスの高い主砲命中率を支えています。
<乗員関連>
戦車長(Tank Commander)
他のクルーに指示を出し行動や戦闘を指揮する者で、全周の警戒・索敵、スモークディスチャージャーの発射、戦術マップやデータリンクシステムの確認、重機関銃または主砲による攻撃も行います。アメリカ軍においてはTCと略されます。
砲手(Gunner)
砲塔と主砲、同軸機銃を操りエイブラムスの火力面を担う者で、砲塔前方の警戒・索敵も行います。GNRと略されるときがあります
装填手(Loader)
20kgを超える主砲弾を装填することが主な役割ですが、左側面から後方にかけての警戒・索敵、無線機の操作、主砲の安全装置の操作、車載機関銃による攻撃も行います。LDRと省略されるときがあります。
操縦手(Driver)
車長の指示通り的確に戦車を操るのが主な役割ですが、車体前方の警戒・索敵、エンジン等の管理、VEESSや消火装置の操作も行います。DVRと省略されるときがあります。
CVCカバーオール
クルー全員が身に着ける戦車乗員用のツナギ型ユニフォームです。難燃素材でできており、内側には負傷した際に引っ張るための掴みが縫い付けられています。
CVCヘルメット
クルー全員が身に着けるヘッドギアで、イヤーマフとインターコム付きのメッシュ生地製インナーシェルとケブラー製アウターシェルから構成されています。アウターシェルはレベルIII-A(.44マグナムまでの拳銃弾を防ぐ)相当の防護力があり、BAD等から頭部を保護します。
<光学機器・視察装置関連>
ペリスコープ
反射鏡およびプリズムを用いた潜望鏡のことで、戦車の視察装置にも用いられます。
熱線映像装置
熱赤外線を可視化する装置です。サーマルイメージャー(thermal imager)とも。昼夜や天候に左右されることなくクリアな映像を出力することができます。
CITV
Commander`s Independent Thermal Viewer(車長用独立熱線映像装置)の接頭語です。M1A2シリーズの砲塔左上に搭載されているタワー型のセンサーで車長席からのみ使用することができます。CITVの搭載によって、M1A1では車長がGPSEでしか悪天候時や夜間の視界を得られなかった、という欠点を克服しハンターキラー能力も付与されました。CITVは車長のオーバーライド実行時の照準装置としても使用できます。
FLIR
Forward Looking Infrared、熱赤外線を可視化する装置です。
DVE
Driver`s Vision Enhancerの接頭語。操縦手が前方視界を確保するための熱線映像装置で、車外のセンサー部とその映像を出力する10.5インチ液晶ディスプレイで構成されています。微光暗視装置とは違い、環境や突発的な光に影響されることなく良好な前方視界を操縦手に提供します。
<その他>
CID
Commander`s Integrated Displayの接頭語。M1A2の車長席にある表示装置でIVISの情報やCITVの映像を表示できます。
CDU
Commander`s Display Unitの接頭語。M1A2SEPの車長席にある上下二つの多機能統合ディスプレイで、CROWSやCITVの映像や戦術マップ、BFT、FBCB2の作図機能や情報などを表示できます。
DID
Driver`s Integrated Displayの接頭語で、多機能統合ディスプレイを備えた操作パネルです。エンジンrpmや車速、バックビューカメラの映像、その他情報を表示します。
IVIS
InterVehicular Information System(車両間位置情報システム)の接頭語で、M1A2から搭載されたシステムです。操縦記録による車両ごとの位置情報やレーザー測距装置との連動による標的の正確な位置、その他情報を共有できるネットワークシステムです。
FBCB2
Force XXI Battle Command Brigade and Below(フォース21旅団以下部隊戦闘指揮システム)の接頭語で、IVISを原型に戦闘車両以外の友軍部隊との情報共有を可能にした戦術データリンクシステムです。
BFT
Blue Force Tracking(衛星測位システムを利用した友軍追跡システム)の接頭語です。
TMS
Thermal Management Systemの接頭語です。TMSとはMEGGITT社により開発された強力な空調システムで、電子機器が発する熱から快適な車内環境を保つためにM1A2 SEPから搭載されました。TMSはVCSUとAHU、そしてその2つを繋ぐ装甲化された冷媒管から構成されています。
VCSU
Vapor Compression System Unitの接頭語で、冷媒(プロピレングリコール)の循環とその熱交換を行うためのユニットです。油圧を動力として用いており、M1A2 SEPシリーズのバスルラック左側に搭載されています。
AHU
Air Handling Unitの接頭語で、VCSUから循環される冷媒によって冷やされた空気を乗員区画に送風するためのユニットです。
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