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ピエモンテ州でお世話になっているアグリツーリズモのご夫妻の家には、犬が3匹、猫が2匹、羊にやぎに豚ちゃんがいる。いろいろ居るねえと話していたら、昔、孔雀もいたのよと。

え?くじゃく?あの尻尾の長い羽根を広げる? そうよ。

昔、北イタリアピエモンテ州のアグリツーリズモには2羽の孔雀がいました。外国から連れてこられたその孔雀はお年寄りに飼われていたのですが、ある日世話が出来なくなって飼い手をさがしていたのを、引き取ったのです。

美しい孔雀は雄と雌でした。雄は雌の気を惹こうと羽根を広げてはその雄姿と美しさを堂々と披露し、雌にアピールしましたが、雌は一向に興味を示さず、つがいにはなりませんでした。

見て見て、俺、かっこいいでしょう。色とりどりの羽根の美しいこと!良かったら、羽をひとつちぎってプレゼントしてもいいんだぜ。俺とお話しない?

私、そういう事に全く興味ないんです。庭を一人で散歩しているのが好きなの。

毎日毎日、雄は雌にアピールしようと、泣き叫び、羽を広げましたが、効果はありませんでした。雄はとても悲しくなりました。俺は美しくないんだろうか。仲良くしたいだけなのに。

ある日雄がさみしく一人で羽を広げていると、目の前にぴかぴか光る孔雀が大きな羽根を広げていました。羽根を広げた孔雀は見たこともないほどの美しさでしたので、雄の孔雀は息をのみました。そして、彼なら友達になってくれるかもと思いました。

やっと友達ができるかもしれない。羽根を広げて僕の雄姿を見せよう。すると向こうも同じように羽根をひろげるじゃありませんか。

ああ、きって彼も僕に好意をもって羽根を見せてくれているのだな。それにしてもなんて美しい姿なんだ。こんな美しい孔雀仲間は見たことがないぞ。

何度か羽根の広げ合いをした後、近づこうとしましたが近づけば近づくほど向こうは遠ざかってしまうのです。しかも柔らかい羽根の身体ではなく固くてなんだか黒光りしているのです。爪で触ってみようと爪を立てたとたん嫌な音とともに孔雀の姿に線がはいりました。

大人たちが大声を出して雄の孔雀に近づいてきます。なんだか怒っているようです。雄の孔雀は残念に思いながら、その場を離れます。そこにあったのは黒光りする大きな車だったのです。

車に傷をつけた孔雀を置いておくことはできません。2羽の孔雀は別の家庭にもらわれることになりました。新しい家庭にもらわれてすぐ雌の孔雀は道路に飛び出して、車に当たって死んでしまいました。雄はたった一人ぽっちになりました。

さみしいなあ、さみしいなあ。雌もいなくなったし、黒光りした友達もあの日以来見ていない。僕はずっと一人ぽっちなのかなあ、こんなに綺麗な羽根を持っているのに。

しばらく経ったある日、雄の孔雀はまた新しい友達を見つけます。今度は逃がさないように、しっかりとすぐに近づかなくちゃ。前回みたいに黒光りもしていないし、勢いをつけて近づいて友達になろうっていうんだ。羽根を広げて走っていくぞ。

新しい飼い主は裏庭からものすごい音がしたのでびっくりして出ていきました。そこには粗大ごみとして捨てられた大きな鏡に体当たりして横たわる雄の孔雀がいました。その見事な羽根を広げて、彼は鏡の中の友達と抱き合うように血を流していました。

友達がほしかっただけなんだ。




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