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留学して最初の1か月、語学学校はお昼までだったから、午後からは自由時間。お昼を食べて、昼からは宿題をする。気分によって宿題をする場所を変えた。家に帰ってすることもあったけど、お天気の良い日は、路地道の教会の階段、ボボリ庭園のベンチ(2000年当時は無料で入園できた!)、アルノ川沿いなど、外に座って宿題をすることもよくあった。宿題の合間に、目を瞑って開けて、真っ青な空を見上げて、ああ私は今イタリアに住んでいると深呼吸をしたものだ。一度あまりにも気持ちよくて、ボボリ庭園のベンチで昼寝してしまい、日本人観光客に怪訝な顔をされたこともあったっけ。

暮らすうちにお気に入りの道や場所が出来た。

Piazzale Michelangeloミケランジェロ広場の上にあるSan Miniato al Monteサンミニアート教会、いつ行っても静寂で、神聖で。無宗教であっても教会の中に入ると安堵を感じる事ができた。

アルノ川の向こう側、San Niccolòサン二コロ地区、中心地からすこし離れているだけで地元っぽい雰囲気がしている地区だった。道にテーブルを出したカフェ、塀(門)の向こう側Fuori Portaって名前だったかな。ここで30歳のお祝いもしてもらった。同じPalazzoに住んでいる大学生のメンバーから、分厚いイタリア料理のレシピ本をプレゼントしてもらった。イタリア料理を学んでね、とウィンクされて。この地区からミケランジェロ広場まで歩いてあがれる坂道は季節の移り変わりを感じることができる素敵な散歩道だった。

バスで行くFiesoleフィェーゾレという丘の上の町もお気に入りだった。フィエーゾレでは時々骨董市が開かれていて、古代劇場の入り口わきには古着屋さんがあって。同居人のCristinaのおしゃれジーンズの着こなしの秘訣は、ここの古着屋さんだった。真似して張り切って行ったはいいけど、古着に慣れない私にはなかなか上手く選べなくて、最終的にはシンプルなリーバイスのGジャンを一着買っただけ。あれから約20年がたった今、なかなか着ることはなくなったけど今でも保管している。総革のキャメルのコートはSan Lorenzoサンロレンツォの市場で値切って、値切って、買った。値切れた事に大満足していたけれど、今思えばもともとの値段が吹っ掛けられてたような気もする。でもそんなことはどうでも良かったのだ、たぶん。一人でシュミレーションしたmi potresti fare un po' di sconto? ちょっと負けてくれない?が通じただけで私は有頂天だった。何をするにも言葉が重要で、楽しくお喋りしてなんぼの国イタリアは、私の性格に合っていたのだと思う。

ある日、小さな工房のような所で自転車を修理しているおじさんがいた。中を覗くと2台ほどの自転車が置いてある。連日のバスの待ち時間と券売所探しにうんざりしていた私は、mi scusiすみません、この自転車買えますか?と、その場で中古の自転車を買った。その日から私はいつでも自転車と一緒だった。自転車と一緒に必ず必要なのはずっしり重いチェーン。自転車の取っ手にジャラジャラかけて運転、駐輪場なんてなくても、その辺にある手すりや鉄の柵にジャリジャリッと巻いて鍵をかけ自転車を固定する。中古でガタが来ている汚い自転車にも関わらず、うっかりチェーンをうちに忘れた日には、あっさりと姿を消していた。探しても見つからないので、また工房のおじさんの所に行く。その場にある中古自転車からまた1台を選ぶ。しっかりチェーンはかけていたのに、サドルだけが無くなっていたこともある。あっぱれ!困った時はおじさんの所だ。mi scusiすみません、サドルはありますか。ありますよ。無骨で固い黒いサドルを探してきて付けてくれる。おじさん、泥棒さんとお友達ではないですよねと言いたくなる、まるでコントのような展開だったけど。急な雨に備えてビニール袋を自転車に括っておくというのも学んだな、雨で濡れたサドルに上からかけて座るために。原始的な方法だが有効。自転車があれば、フィレンツェのような小さな町は自由自在。しばらく経てば、人通りの少ない路地はここ、石の凸凹が少ない道はこことマイルートが出来た。一方通行の道を自転車で逆行してしまっていて、後ろから警察官に笛を吹いて止められたことや、スーパーに自転車で買い物に行ったはいいが、重すぎて漕げず、自転車を押して帰ってきたこともあったけど。自転車で街を廻ることは、私にフィレンツェの住人であることを感じさせた。

イタリアでは川の流れる街は美しいと言われる。川の流れる土地には文化があり、景観も良い所が多い。フィレンツェはそのトップにある街だろう。朝日の黄金、真昼の太陽、夕方の艶、夜の蒼、刻刻と色を変える景色を橋の上から何度眺めた事だろう。毎日眺めるうちに、イタリアという国、フィレンツェという街が、私の身体に染み込んでいくようだった。

ここに暮らしていると実感させてくれた大きな存在は、Latte macchiatoラッテマッキャートを毎日飲みに行った、学校の前のバールのおじさんだった。授業の合間に、毎日同じバールに行く、毎日同じ飲み物を頼む。ある日、おじさんのほうから、come al solito? いつものかい?とウィンクされた時の嬉しかった事。

もう日本でもお馴染みかもしれないが、イタリアのカフェには実に沢山の種類がある。

caffèカフェと言えば、小さいカップのエスプレッソコーヒーの事。

caffè macchiatoカフェマッキャートは、マッキャートの意味は染みがついたという意味だから、コーヒーに少しのミルクの染みがついたという意味で、エスプレッソに泡立てた少量のミルクを加えたもの。

latte macchiatoラッテマッキャートは逆で、latteミルクに少しのコーヒーの染みがついたという意味で、温めたミルクに少量のコーヒーを加えたもの。ちょっと日本のコーヒー牛乳っぽい。(昭和な飲み物かしら?)

caffè latteカフェラッテは、染みでもなんでもないから、コーヒーとミルク半々。日本でいうカフェオレですね。

cappuccinoカプチーノ(ミラノではcappuccioカプッチョ)は、もうお馴染み、大きなカップのコーヒーに泡立てたたっぷりのミルクを加えたもの。たいていのバールで、 cacao o canella?カカオとシナモンはどうする?と聞かれます。最後にパラパラっと振りかけてくれるのだけど、片方だけかけてもらっても良し、欲張りな人は両方と言っても大丈夫。どちらもいらないときは、no grazie か、liscioリッショでというと何も追加なしという意味になります。

caffè doppioカフェドッピオはエスプレッソのダブル

caffè americanoカフェアメリカーノはそのままアメリカンコーヒーという意味だけど、エスプレッソにお白湯を足して伸ばしただけの所がほとんど。

caffè correttoカフェコレットはリキュール入り。

caffè shakeratoカフェシャケラートは、冷たくて夏場に大人気。エスプレッソにバニラリキュールと氷を一緒に入れて、シェーカーでシェイクした飲み物です。ワイングラスのようなグラスで出してくれる所もあります。シェーカーで泡立ったカフェが氷でキンキンに冷やされてバニラの香りがふんわり、夏にイタリアに旅行されたら、ぜひ試してみてほしい飲み物です。

お気に入りのカフェを決めたら、毎日同じバールで同じものを頼んでみよう。3日以降には、何も言わなくても目の前にあなたのカフェがさっと置かれるはず!小さいバールを選ぶのがコツ。お気に入りのカフェが見つかるのって、旅行中でもきっと楽しい。おっと、大事なことを言い忘れていた。住人のようにバールを使うときは立ち飲みが原則です!

★macchiato 染みがついた
★macchia 染み

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