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『正欲』朝井リョウ、作家生活10周年記念作品!多様性が礼賛される社会の違和感を描く

どえらい作品に出合ってしまった。

かゆい言い方をすると、読みながら全身が泣いてた。鳴いてた、という方がしっくりくるかも。辛くて、でも嬉しくて。それ以上の明確な理由は、読み終わったばかりの今はまだわからないけど。

さて、あなたは今の「多様性を礼賛する社会」に対して、どんなスタンスですか?

わたしは、多様性、ダイバーシティの時代だという今の社会、SNSで気軽に自分を発信できるようになった状況を考えたら、当然の流れだと思うし、同時に「気持ち悪いな」って思う部分もある。

今日は、そんな多様性をテーマにした小説のご紹介をしたいと思います。

自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな。

3月26日に発売されたばかりの、朝井リョウさんの『正欲』

多様性が礼賛される今の社会を舞台に、登場人物それぞれが、自らが生き延びるためにもがく姿が描かれています。


朝井リョウ、作家生活10周年記念の書下ろし作品


『正欲』は、『桐島、部活やめるってよ』の著者、朝井リョウさんの新刊です。作家生活10周年記念の書下ろし作品として発表された2作のうちの1作。1作目の『スター』は白版、今回の『正欲』は黒版と銘打たれています。

デビューして十年という節目に、雰囲気の異なる二つの長編が生まれました。読み心地に合わせて白版、黒版と名付けましたが、どちらも、私の中で白黒つけられないグレーなテーマを扱っています。二作とも楽しんでいただけますように。
――朝井リョウ『正欲』挿し紙より抜粋

どっちも良かったけど、わたしは黒版が好き。

「多様性」って、私自身も付き合い方を模索していたテーマだけど、このあたりは周りと気軽に話せないし、小説の中だけでも、自分とは違う視点に触れられて嬉しかった。

ほかにもいるんじゃないかな?ダイバーシティ、みんなが生きやすい社会、だれも取り残さない社会。そういった言葉にモヤっとしてる人。そんな人に、ぜひ読んでいただきたい。

内容に対して感じたことは、時間をかけて整理したいので、別記事にする予定。『スター』も読み返したいし。

今日は、読後の勢いそのまま、あなたに「読もうかな」と感じてもらいたくて書いています。いちばん印象に残ったところだけ抜き出したので、よければお付き合いください。

「私もう早よ降りたいんよね、いろいろ中途半端なこの状況から」

わたしが、いちばん心にずしん、ときた言葉。

彼氏の子どもを妊娠できず、結婚ができなくて、もう働きたくないけど、きっかけがないから、仕事がやめられない。個人的には、全く好きになれない登場人物が発した言葉なんだけど、今の自分の状況から「降りたい」って感情は、痛いほどよくわかる。

「降りたい」今を抱えながら生きてる人って、多いんじゃないかなぁ。

いま生きている限り、1秒後に自殺しようとしている状況じゃない限り、そこには生き延びようとする動機があるわけで。

この作品で何度も出てくる言葉に「繋がり」って言葉があるのですが。その「繋がり」こそ、人間が生き延びようとする動機のひとつだと思うのよ、良くも悪くも。

「繋がり」って、救いにもなるし足かせにもなると思うの。だからこそ、「降りたい」今を作り出してるよなあって。生き延びようとする動機のせいで、生きることが苦しい。

どうしたって降りられないこの世界で、あなたに遭えて、よかった。

人間ってままならないなぁ、と思わされる。

あ、上の話は、ぜんぜん物語のメインじゃないところから抜き出しました


でもいいよね。なんとなく見たおすすめ本の記事で、がっつり「多様性とは」って語られてもね。そこは、読んでみてください。キャッチコピーにもあるのですが、ページを開いたら最後、もう、読む前のあなたには戻れない。ぜひ。


■他にも、おすすめ揃ってます!
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