なぜ突然鳩に! 第675話・11.28
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なぜ突然鳩に! 第675話・11.28

「え、な、なんで?」不思議なことが起こった。突然俺の体に異変が起こっている。足の先が赤く染まり、指が三本伸びていた。いやそれだけではない。両手が無くなってるし。目が横に向いたまま。それに正面の口の先に固い突起物のようなものがくっついている。
 そういえば前傾姿勢でうまく立てない。なぜか常に首が前後に小刻みに動いているような気がした。見えないから断定できないが、お尻のあたりに何か長いものがついているような気がする。俺は声を出す。だが言葉が出ない。音は出る。そしてそれはどこかで聞いたことのある鳴き声。「もしや」俺は歩きながら手だった部分を伸ばす。「やっぱりそうだ」俺は突然鳩になっていた。「なぜ、訳が分からない」

 俺は頭が混乱した。「これは夢だろうか? いや夢に違いない」おれは顔をひねってみようとした。だが手ではなく羽根になっているから無理。足も人間の時代と違い、短足だから顔に当てることができない。あ、これは人間のときも同じだ。
「いやまてよ、夢だから体の動きがぎこちないってこともあるんだ。よし、 
 鳩なら飛んで木にでもぶつかったらどうだろうか?」俺は木を探したが見当たらない。
「あれは電柱? ならば」俺は思い切って手を伸ばした。電柱にぶつかろうとする。すると確かに羽根が出て、見よう見まねで動かしたら体が宙に浮かんだ。だがすぐに落下。というより自ら地上に戻る。なぜならば宙に浮かんだ体を見て急に恐怖を感じた。そうなんだ、俺は人間のときは高所恐怖症。高いところが苦手だった。

「確認しようがない。どうしたものか?」俺はどうやら池の前にいる。目の前にはカラフルな錦鯉が泳いでいた。「錦鯉......」俺は錦鯉を見ると、少し前の記憶がよみがえってくる。
「そうだ、俺は錦鯉を眺めていたんだ。そのときだ」

ーーーーー

 俺の記憶はこうだ。「もう絶望だ、この先どうやって生きよう」あのときは何か漠然とした不安で仕方がなかった。そして歩いていたら池があって、そこで錦鯉が泳いでいたから眺めていたんだ。「いいなあ、錦鯉はのんびり泳いでいるだけで不安とかないんだろうなあ」
 俺は、錦鯉がうらやましくて仕方がない。錦鯉はゆっくりと泳ぐ。それぞれがカラフルな恰好をしている。そして口を大きく開けてアピール。そして餌を与える人がいるのだろう。その餌を見るとお互い競い合いながらそれに食らいつく。
「多分何も考えていない、俺も錦鯉になりたいよ」
「だったら、ならないか?」「え!」俺は錦鯉が語り掛けてきた気がして耳を傾ける。すると全体が白っぽくて、頭のあたりが人面のように見える錦鯉から声が聞こえた。

「久しぶりだ。僕のこと覚えてるか?」「あ、」俺は声としゃべり口調で分かった。声の主は1年前に事故で亡くなった親友。
「マジで、本当にお前?」「そうだ。驚いただろう。僕は事故で死んだが錦鯉に転生したみたいなんだ」「ええ? 錦鯉、本当か」
「本当さ、だから君も僕みたいに錦鯉になろうよ」「なろうって、どうやって」「ここに飛び込むのさ。飛び込めばその場で人間から錦鯉になれるんだぜ」

「そうか」親友は1年前の朝に、池におぼれて死亡しているのを発見された。 
 当時警察は、事故と自殺の両面で捜査が行われたが、事故性がないと判断していた。「でも、なんでお前飛び込んだんだ」
「今の君と同じだ。人間に絶望して錦鯉がうらやましくなった。それで飛び込んだら本当に錦鯉になったんだ。錦鯉はいいぞ、優雅に泳ぐだけでいいんだから」

「よし、分かった。俺も今からそっちに行くよ」俺は飛び込もうとした。飛び込んだら、親友と再会できて一緒に錦鯉になってのんびり過ごせると。だが飛び込もうとした瞬間、突然頭に激痛が走り、そこで記憶が飛んだ。

ーーーーー

「そして目覚めたら、俺は鳩になった。錦鯉ではなく鳩なんて望んでいなかったのに......」 
 俺は肩を落とした。と言っても鳩に肩などない。
「鳩のまま飛び込めよ」また親友の声が聞こえた。「え、鳩のまま飛び込んでも錦鯉になれるのか?」「なれるとも、僕が保証する」「本当なんだな」「ああ、ただし飛び込んでも、絶対に手を伸ばすなよ。伸ばしたら、今の君なら羽根が開いて空に飛んでしまう」

「そっか、分かった」俺は池に向かった。「手を広げたらダメなんだな」よし、俺は覚悟を決める。赤い両足を小刻みに動かし、そして首を前後に動かしながら池の前に来た。
「行くぞ」俺は一鳴きして、そのまま池に飛び込んだ。だが飛び込んだ瞬間、落ちていく重力を感じながら強い恐怖が俺を襲う。「うわぁ!」思わず水面の直前で両手を伸ばした。すると水面から体が浮かんだ。「あ、しまった」俺は、伸ばしていた手を引っ込める。そうしたら体が重力に逆らわず水面下に落ちていった。「よしそのままだ」すると水面にぶつかったのか、突然体が激しく動く。

 すると突然視界が変わった。「あ、あれ?」ここはどこかの部屋。「あ、」視界から見る限り、俺は白いベッドの上で寝ている。「家ではない。で、ここは」周りを見ると色んな計器が見えている。

「あ、意識が戻られましたね」
 見知らぬ女性の声。「看護師?」どうやら俺は病院で記憶を取り戻したらしい。しばらくすると威厳のある白衣を着た男性が視界に入ってきた。「意識が戻った。もう大丈夫ですよ」「へ、い、意識が、あなたは? 俺はいったい」
「私はあなたの主治医です。実はあなた池の前で血を流して倒れていたところを発見されて病院に運ばれました。手術では頭を縫いましたが、致命的な量の出血でもなかったので、意識さえ戻ればというところだったんです」

「先生ありがとうございます。おい、大丈夫か!」「あ!」医者の次に俺の前に来たのは友達だ。「おい、びっくりしたよ。1年前にあいつが亡くなったところで、お前が血を流して倒れていたから。多分あいつがお前をあの世に呼び込もうとしたんだ」
「そういうことか」あの錦鯉の声は間違いなく親友だ。「でも俺、なんで途中で鳩に?」 その答えは結局わからないままだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 675/1000

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旅野そよかぜ@旅と歴史と東南アジア小説 フォロバ100
旅人・文筆家。2020年からほぼ毎日のペースで掌編・短編小説を執筆中。スキを押してくれると嬉しいです。またツイッターでも54文字など短い小説つぶやいています。https://twitter.com/2018kumakuma