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「北方のバラ」ことタイ・チェンマイの成り立ち

「王様ついにドーイ・ステープ山に見事なワット(寺院)が完成しました」完成したばかりの真新しい仏教寺院。黄金の仏塔が、青空の光に照らしだされその魅力的な光を放つ。
 その光を浴びながら側近に言われた王・クーナーは満足げにうなづいた。
 これは1383年、タイ北部に存在したラーンナータイ王国。その首都チェンマイの郊外にあるドーイ・ステープ山に建てられていた寺院である。
「王様の御力により、我が国始まって以来の大繁栄。誠に目出度きことにございます」

 ランナータイ王国の6代目にあたるクーナーは口元を緩める。「フッフウフフフウ、我が国の繁栄は私の力というより、やはり仏陀のお加護があればこそ。だから私は南のスコータイからラーマン派を取り入れたんじゃ」
「これぞ王様が、まことの仏教へのお気持ちがあるからでございます。ラーマン派はより純粋な仏教と伝わっておりますれば」
 側近はひたらすら王を崇めるイエスマン。王はますますご機嫌に、饒舌となっていく。

「そう、我が国はあの蒙古・元の朝貢国として長く苦しめられたが、向こうも力が衰え新しい国・明が誕生するなど、混乱しておる。だからが今が独立と勢力拡大のチャンスだな。ハハハハッハ!」
 クーナーは自らの力を鼓舞するかのように大きく笑った。

「さらに、登城内に建築されたワット・ブッパラームをはじめ、仏教施設を次々に建築。今はまさしく仏と共存した町になりました」
「そう、そしてこのドーイ・ステープこそがその集大成だ」「まことに。ここからチェンマイの王都が見下ろせますが、まるで町が光り輝いて見えておりますぞ」と、相変わらず王を持ち上げる側近。

 だがここで王は笑わず、少し真顔に戻った。そして視線を眼下に広がる碁盤の目状に整然とした都市チェンマイに向ける。
「そうだな。それより、これであの王都を作られた我がご先祖、初代マンラーイ(メンラーイ)王も喜んでおられるに違いない」

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「王様、首都にふさわしい場所をみつけましたぞ」「どこだ!」荒々しい声を出したのは、初代王のマンラーイ。
「それはドーイ・ステープ山のふもとでございます」

 マンラーイは、現在のゴールデントライアングル近くヒランナコーングンヤーンという場所で1238年に生まれた。ラーオチョン王家の25代目の君主とされるが、当時は非常に小さな勢力である。だが彼は周辺の小さな勢力に同盟を持ちかけ、結果的に自らの勢力を大きくした。

「ほう、これはなかなか良い場所だな」家臣が見つけてきた場所まで足を伸ばして来たマンラーイは嬉しそうにつぶやく。ドーイ・ステープ山の横に広がる平原地帯は広い。ここであれば、今までにない規模の町が建設できると直感した。
「とにかく北のモンゴルが厄介だ。少しでも南に首都があるほうが安心。ハリプンチャイの旧勢力への睨みも聞く。平地になっているところも今のところよりは広いから立派な街が作れそうだ。よしここにしよう」
 当時はモンゴル帝国が急拡大して周辺諸国を支配していた時代。すぐ北側の中国雲南地域にもモンゴルの触手が伸びていた。

 現在の北タイ地域の一大勢力となっていたマンラーイは、1262年に首都を故郷のヒランナコーングンヤーンカラ少し南。『マンラーイの街』という意味をもつチェンラーイに遷都した。
 ここにくると、南のラムプーン地域にあった小国ハリプンチャイ王国との摩擦が激化。すいにこの国への攻撃を開始。マンラーイからすれば、北のモンゴルへの脅威に備えるため南に勢力を伸ばしたのだ。

 ハリプンチャイ王国は、西暦661年から存在していた古いモン族の国家であった。だが1281年以降マンラーイの攻撃を受け続けるとどんどん力を失っていく。そして1292年ついに占領されてしまう。結果的に国を持っていたモン族が、現在のミャンマー・バゴー(ペグー)に追いやられた。

 南に大きな支配勢力を持ったマンラーイは、しばらくこの地域に君臨する。だが元々の拠点である北側の地域との間あたりに、良い場所がないか探している最中。このときそれが見つかった。

「よしここに新しいランナーの王都を作ろう!」マンラーイは、ドーイ・ステープ山やら見下ろせる平野部に王都建築の命令を出す。

 こうしてマンラーイがハリプンチャイ王国を滅亡させてから4年後、新しい町を意味する新首都「チェンマイ」が完成。当時では珍しい碁盤の目状に建てられた。こうして再度ランナータイ王国の都が移される。国はやがて現在のタイ王朝に吸収されてしまった。だが街自体は『北方のバラ』と呼ばれる古都として現在も繁栄を続けている。

 ちなみにマンラーイは末永く発展してほしいとの思いから、天文学者や占い師が選定した時間に遷都を敢行した。そのタイミングは記録によれば、グレゴリオ暦の1296年4月12日午前4時だという。それはいまから725年前の話である。


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