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英語で気持ちを伝えたい、という気持ちのまま動いたら好きなものが見えた

「はじめまして。」

英語のイントネーションたっぷりの日本語で先生は自己紹介してくれた。私の塾にアメリカ人の先生がやってきた。中学2年の時だ。

飛行機にも乗ったことのない田舎育ちの私にとって、初めて会う外国人だった。

先生はまさに欧米人、というような大きながっちりとした体形で強そうなのに、私たちの目の前で何度もハンカチで汗をぬぐい、顔を赤らめて立っていた。
黒板の英語の文字を読むときは、緊張しているのが子供心にも伝わってきた。そして、その一生懸命な姿に先生の人柄の良さも伝わってきたのだった。

先生に何か伝えたい

先生は日本語が全く話せなかった。
塾の入口で他の日本人の先生が生徒たちに囲まれて話している横で、いつもポツンと立っていた。でも顔は下を向かず、前をしっかり向いて堂々と姿勢よく立っていた。私はその堂々とした風貌の中にどこか寂しさを感じた。

ある日、家で英語を勉強しているとき、ふとその先生のことを思い出した。言葉も話せない外国の地で、どんな思いで過ごしているんだろうか。
教えている生徒からも話しかけられなくて、どんな気持ちだろう。
と同時にあることに気づいた。

あ、そうか、私が話しかければいいのだ。

でも一体なんて言ったらいいんだろう?当時の中学2年の英語レベルで話せることはそう多くはない。
How are you ? I'm fine. とかじゃなく、何か先生を応援してますっていう気持ちを伝えたい。

私は何度も何度も辞書を引いて調べて、先生を応援するような言葉を探した。でも、何を言えばいいのかよくわからなかった。こんなこと言ったら変だろうか、間違っていたら、伝わらなかったらどうしよう、という不安の波が何度も押し寄せた。

いろいろ考えた結果、自分の気持ちをただ伝えることにした。当たって砕けろだ。とはいっても、英語力が全くないので、辞書のフレーズをそのまま暗記した。
文章を紙に書いて、絶対に伝えたい、という思いで何度も練習した。

ついに決戦の日

塾の日。ちょうど塾の休みが重なって、久しぶりに先生に会えるというタイミングだった。

先生はいつものように塾の入口に立っていた。いつも通り堂々として、どこか寂し気な表情で。
私は手に念のため見る用の紙を握りしめ、唇がカサカサになりながら先生の前に立つと、先生は言った。

How are you ? 

この時だとばかりに意気込んで言った。すべて棒読みだったと思う。

It's been a while to talk to you. I’m happy to talk with you.
(お久しぶりです。お話出来てうれしいです。)
My name is Kumako. I’m interested in English. 
(私の名前はくまこです。英語に興味があります。)

先生は一瞬きょとんとした表情だったが、すぐに笑顔いっぱいになった。先生の顔が一瞬赤くなって、喜んでいるのが伝わった。

当時の記憶では先生が何を返してくれたのか、さっぱり覚えていないし、理解していたのかもわからない。でもとにかく伝えた!そして先生が笑顔になった。それだけで胸がいっぱいだった。

手に握った紙は汗でボロボロ、文字も見えなくなっていた。

その後

私が中学卒業と共に塾を卒業した後、先生がどうしているかは全くわからない。日本にいるのかさえもわからない。

当時を振り返ると、よくわからないけど興味があって、居ても立っても居られない、そういう状態だったのかもしれない。

それがその後の英語や異文化への興味の始まりだった。気持ちのままに動いてみたら、好きなものに気づけた。

もしまた先生に会えたとしたら、伝えたい。

私に英語が好きになるきっかけを与えてくれてありがとう、あなたのおかげで今の私がいます。

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