『綾ちゃんはナイショの妖精さん』とはこんな話 小説のワンシーンを切り取りました 1巻その1
少女漫画『綾ちゃんはナイショの妖精さん』は投稿小説サイト「エブリスタ」で公開中の長編小説を作者が自力でコミカライズしたものです。
元の小説版のタイトルは『ナイショの妖精さん』。本編9巻と短編集1巻の10巻分ありますが、その小説のワンシーンを切り取ってご紹介したいと思います。
漫画派の方にはネタバレになります。ご注意ください!
★ 花畑にて 16ページ ★
「おい、和泉っ!! 」
低い声に呼ばれて、ハッとふり返った。
いつの間にか、二十メートルくらい、花畑を進んでた。
登山道のところで、木の幹に片手をついて、中条がこっちを見ている。
琥珀色の目と、目が合う。
……あの目……っ!
胸の奥で、なにかがカチッとつながった。
★ ぜえぜえ 35ページ ★
「いいよっ! お父さんに会わせてくれないなら、校内放送で『中条葉児は、ベイランドのオバケ屋敷でも怖がるビビリだ!』ってさけんでやる~っ!! 」
「う、うわぁああっ 待て、待て、待てぇ~っ !!」
あたし、肩で息をついて、ぜえぜえ。
中条もこめかみから汗を流して、ぜえぜえ。
★ 洗礼 58ページ ★
……ヘンなの。
そよそよ風が吹く芝生の真ん中に、あたし、目をつむって、中条と寝ころんでる。
学校では一言もしゃべらないような他人なのに。今は、肩がふれるほどそばにいる。
「……和泉、ごめん。とうさんのこと、おまえに押しつけようとして」
「……え?」
となりに寝そべる中条の顔の上に、パッと腕が置かれる。中条の右腕に隠れて、ほおしか見えない。
「う、ううん。あたしはただ、妖精に興味があるから……。勝手にフェアリー・ドクターになりたかっただけ」
だからそんな、中条の家庭にわり込むみたいな、重い気持ちじゃなかったのに。
「あ、あたしこそ、ごめんね。あたしもしかして、なんにも考えないで、勝手に人の家のことに首つっこんでた?」
「それが、和泉だろ?」
「え?」
「アホっ子だから、なんも深く考えない」
あっ! ムカッ!
「なによっ! 人のこと、アホとか言わないでよ !!」
ぷっとふきだす声がした。
見たら、腕の下で、中条が体を震わせて笑ってる。
……あれ……?
ほっぺた赤い。桃みたいにやわらかそう。
「……まぁ、たしかに、和泉の言うとおりかもな。球が見えないのは、オレのせい。和泉はいっつも自然に自分を出せてる。外面ばっか気にして、自分を出してこなかったのは、オレだから」
なにそれ……。
こんな素直な中条、あたし知らない……。
心臓バクバク。なんか中条のいるほうの右肩が、ガッチガチにかたまってるし。
そっと、横目で相手を見たら、腕を顔からおろして、目を閉じてた。
あ……ほっぺた、まだ桃みたいなピンク色。
口元がふわっと笑ってる。
そっか……これが自然……。
あたしももう一度、目を閉じて。
ドクンドクン。自分の心臓の音に耳をすませて。
ふっと体のまわりに、澄んだ空気が広がった。
円状にとりまくパウダーの上を、すーっと、虹色の光が伝ってく。
虹色の光は帯状に、あたしと中条を取り巻いて、まあるい円になる。
円から、ぽわっと、虹色の光の壁が立ちのぼった。
壁は半透明に光りながら、あたしたちをドーム状に包み込んでいく。
★ 腕枕 60ページ ★
「……え?」
重みを感じて、お腹の上を見たら、太い右腕がのっかってた。
まくらにしてた丸太みたいなものも、よく見たら、だれかの左腕。
「な、な、な、なにすんだっ!? 」
「し、知らないよっ!! それはあたしのセリフだもんっ!」
長くなるのでとりあえずはここまで。
漫画でもこの辺りのシーンはもう描いています。
どうやったら、幻想的に描けるだろう?虹色をモノクロでどう表現したらいいだろう?とても迷いながら紡ぎました。
漫画の試し読みページも作りました。