地名や普通名称の部分を除くと互いに称呼が同一となる2つの文字商標の類否に関する最近の審決例の判断傾向
1 「地名や普通名称などの識別性の弱い部分」を除くと互いに称呼が同一となる2つの文字商標の類否に関する審決例・異議決定例
従来より、「地名や普通名称などの識別性の弱い部分」を除くと互いに称呼が同一となる2つの文字商標の類否に関する審決例・異議決定例は多数、存在しています。
そこで、それら審決例・異議決定例の判断傾向を探るべく、「地名や普通名称などの識別性の弱い部分」を除くと互いに称呼が同一となる2つの文字商標の類否に関する特許庁の最近の審決例(及び異議決定例)を纏めてみたので、以下にその各引用の一部などを示します。
(1)不服2023-016646審決
不服2023-016646審決は、次に示す本件商標の構成中、「東京」という識別性の弱い地名(販売地)を捨象、除外して、残された「ほろほろ。」だけを分離、抽出すると引用商標「ほろほろ」と称呼が同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
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「2 本願商標
本願商標は、「東京ほろほろ。」の文字を標準文字で表してなり、第30類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として登録出願されたものである。
3 原査定の拒絶の理由(要旨)
原査定において、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、本願の拒絶の理由に引用した登録第6502032号商標(以下「引用商標」という。)は、「ほろほろ」の文字を標準文字で表してなり、令和2年3月24日登録出願、第30類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として、同4年1月20日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
4 原査定の拒絶の理由(要旨)
原査定は、本願商標の構成中、「ほろほろ」の文字部分を分離抽出し、これと引用商標とが類似する商標であるから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとしたものである。
5 当審の判断
本願商標は、「東京ほろほろ。」の文字を標準文字で表してなるものであり、いずれの文字も同色、同大、同一書体で、等間隔に表されているものであるから、外観上、一体的に看取し得るものといえる。
また、本願商標全体より生じるといえる「トウキョウホロホロ」の称呼は、8音と冗長とはいえず、無理なく一連に称呼し得るものである。
そうすると、かかる構成においては、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標全体を一体不可分のものと認識、理解するとみるのが相当であって、他に構成中の「ほろほろ」の文字のみが、本願の指定商品に係る取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。
したがって、本願商標の構成中「ほろほろ」の文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。」
(2)不服2023-014534審決
不服2023-014534審決は、次の画像中に示すような、本件商標「ふるさと牛乳」中の「牛乳」という識別性の弱い商品の内容・品質表示(普通名称など)に当たる部分を捨象、除外して、残された「ふるさと」だけを分離、抽出すると引用商標「ふるさと」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735833042-Bk7KPqS6JFGImD3hintf4T0Y.jpg?width=1200)
「5 当審の判断
(中略)
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
本願商標は、別掲のとおり、赤色の四角形の中に、「ふるさと牛乳」の文字(以下「文字部分」という場合がある。)と、当該文字部分の上部に円弧状の曲線を表してなるところ、文字部分と円弧状の曲線は、いずれも白抜きで表されている上、円弧状の曲線が文字部分全体を覆うように、当該曲線の中心と文字部分の中心を揃えて、配されていることから、外観上、まとまりよく一体的に表されているものといえる。
また、文字部分は、「牛乳」の漢字がやや大きく表示されているものの、いずれも同じ書体で、まとまりよく表されており、一体的に看取され得るものである。
そして、同文字部分から生じる「フルサトギュウニュウ」の称呼は、格別冗長というべきものでなく、無理なく一連に称呼し得るものである。
そうすると、本願商標の構成中、「牛乳」の部分が、商品の普通名称を表す語であるとしても、本願商標の上記構成及び称呼からすれば、これに接する取引者、需要者をして、本願商標の構成全体をもって一体不可分のものと理解、認識されるものとみるのが相当である。
してみれば、本願商標は、その構成全体として一体不可分のものであり、その構成文字中「ふるさと」の文字部分を分離、抽出し、該文字部分を他人の商標と比較すべきものではないといわなければならない。
したがって、本願商標の構成中「ふるさと」の文字部分を分離、抽出し、その上で本願商標と引用商標とが類似するものであるから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。」
(3)不服2023-016367審決
不服2023-016367審決は、次の画像中に示すような、本件商標「WAVE CHARGING STATION」中の「CHARGING STATION」という識別性の弱い商品の内容・品質表示(普通名称など)に当たる部分を捨象、除外して、残された「WAVE」だけを分離、抽出すると引用商標「WAVE」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735833183-j4y0ZJXkVrOxziIg762vF1An.jpg?width=1200)
「4 当審の判断
本願商標は、上記1のとおり、「WAVE CHARGING STATION」の文字を標準文字で表してなるところ、「WAVE」と「CHARGING STATION」の文字の間に1文字分のスペースを有するとしても、その構成文字は、同書、同大で、外観上まとまりよく一体に表されており、その構成全体から生じる「ウエーブチャージングステーション」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。
そして、たとえ、本願商標の構成中「CHARGING STATION」の文字部分が、「充電ステーション」を意味するとしても、本願商標の上記構成及び称呼からすれば、取引者、需要者は、構成中の「CHARGING STATION」の文字部分を捨象して、「WAVE」の文字部分のみに着目するというよりは、むしろ、その構成全体を一体不可分のものとして、看取、把握するものとみるのが相当である。
また、本願商標の構成中の「WAVE」の文字部分のみが独立して、自他商品の識別標識として認識されるものとみるべき特段の事情は見当たらない。
そうすると、本願商標の構成中「WAVE」の文字部分を分離、抽出した上で、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するとした原査定の判断 は、妥当なものとはいえない。
他に、本願商標と引用商標とが類似するというべき事情は見いだせない。 したがって、本願の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務との類否について検討するまでもなく、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。」
(4)不服2024-006985審決
不服2024-006985審決は、次の画像中に示すような、本件商標「KINS BIO DRINK」中の「BIO DRINK」(バイオテクノロジーを利用してなるドリンクという意味)という識別性の弱い商品の内容・品質表示(普通名称など)に当たる部分を捨象、除外して、残された「KINS」だけを分離、抽出すると引用商標と称呼同一になる事例において、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735833264-1xN5cCzSHZbWBfRmAVivKYdy.jpg?width=1200)
「5 当審の判断
本願商標は、「KINS BIO DRINK」の文字を標準文字で表してなるものであり、いずれの文字も同色、同大、同一書体で横一列に表されているものであるから、外観上、まとまりよく一体的に表されているものといえる。
また、本願商標から自然に生じる「キンズバイオドリンク」の称呼は、10音とやや冗長とはいえ、無理なく一連に称呼し得るものである。
そうすると、かかる構成においては、本願商標に接する取引者、需要者は、「KINS BIO DRINK」の文字を一体不可分のものと認識、理解するとみるのが相当であって、構成中の「KINS」の文字のみが、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。
したがって、本願の指定商品と引用商標の指定商品の類否について判断するまでもなく、本願商標の構成中「KINS」の文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。」
(5)不服2024-005257審決
不服2024-005257審決は、次の画像中に示すような、本件商標「THE CLASSICA」中の「THE」という識別性の弱い定冠詞を捨象、除外して、残された「CLASSICA」だけを分離、抽出すると引用商標「CLASSICA」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735833342-9TkrUp67wcn0DKhEFSmj4JxX.jpg?width=1200)
「(前略)他方、本願商標の構成中、顕著に大きく表された「THE CLASSICA」の文字部分は、同じ書体で、「THE」及び「CLASSICA」それぞれの頭文字をやや大きく、それ以外の文字は同じ大きさで、外観上まとまりよく一体的に表されているものであり、当該文字部分に相応して生じる「ザクラシカ」の称呼は無理なく一連に称呼し得るというべきである。
また、「THE CLASSICA」の文字部分のうち、「THE」の文字は英語の定冠詞であり、他方、「CLASSICA」の文字は「伝統のある試合」等の意味を有するイタリア語(「伊和中辞典第2版」株式会社小学館)であるが、我が国において一般に広く知られているとはいい難く、特定の意味を有しない一種の造語として認識されるものである。そして、これらを組み合わせた当該文字部分全体としても、辞書等に載録されている既成の語ではなく、その指定役務との関係で直ちに特定の意味合いを想起させるともいい難いから、造語として看取されるものである。
してみれば、当該文字部分は、上記の構成、称呼からすれば、殊更に「CLASSICA」の文字部分のみが着目されるというよりは、当該文字部分の構成全体をもって、一体不可分のものとして認識し、把握されるとみるのが相当である。
(中略)
ウ 本願商標と引用商標1との類否について
本願商標及びその要部と引用商標1を比較すると、外観においては、図形の有無やその構成文字において、明らかな差異があるから、容易に判別することができる。
そして、称呼においては、構成音数及び構成音が異なるから聴別は容易である。
また、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから、比較できない。
そうすると、本願商標と引用商標1は、観念において比較できないとして、外観及び称呼において判別及び聴別は容易だから、両商標は非類似の商標というべきである。」
(6)異議2024-900080決定
異議2024-900080決定は、次の画像中に示すような、本件商標「Liquid Hell」中の「Liquid」(液体の意味)という識別性の弱い商品の内容・品質表示(普通名称など)に当たる部分を捨象、除外して、残された「Hell」だけを分離、抽出すると引用商標「HELL」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
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「第4 当審の判断
1 商標法第4条1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「Liquid Hell」の文字を標準文字で表してなるところ、「Liquid」と「Hell」の文字の間には空白を有するものの、該文字は、同じ書体、同じ大きさで表されているものであって、外観上、まとまりよく一体的に看取されるものである。
そして、本件商標の構成中、「Liquid」の文字は「液体」の、「Hell」の文字は「地獄」等の意味を有する英語(いずれも「新英和(第7版)中辞典」株式会社研究社)であるものの、これらを結合した「Liquid Hell」の文字全体としては、辞書等に掲載のあるものではなく、特定の意味合いを認識させることのない一種の造語として認識されるものである。
また、本件商標の構成全体から生じる「リキッドヘル」の称呼も格別冗長なものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
さらに、本件商標の構成中「Liquid」の文字部分は、上記のとおり「液体」の意味を有するものの、当審において職権で調査しても、当該部分が、取引者、需要者に対し、本件商標の指定商品との関係において、商品の出所識別標識としての機能を果たし得ないものと認めるに足りる事情、又は「Hell」の文字部分が、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認めるに足りる事情も見いだせない。
してみると、本件商標の上記構成及び称呼からすれば、これに接する取引者、需要者は、「Hell」の文字部分にのみ着目することなく、本件商標の構成全体をもって、一体不可分の造語を表したものとして認識し、把握するというのが自然である。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して、「リキッドヘル」の称呼のみを生じ、特定の観念は生じないものである。
(2)引用商標
前記第2の1ないし3のとおり、引用商標1は「HELL」の欧文字を横書きしてなり、引用商標2は「HELL」の欧文字と「ヘル」の片仮名を二段に横書きしてなり、引用商標3は、「HELL ENERGY」の欧文字及び「ヘルエナジー」の片仮名を二段に横書きした構成からなるところ、「HELL」の文字は、上記(1)のとおり、「地獄」等の意味を有する英語(前掲書)であるから、引用商標1からは、その構成文字に相応して、「ヘル」の称呼を生じ、「地獄」の観念を生じるものである。
また、引用商標2の「ヘル」の片仮名部分は、「HELL」の読みを表したものと容易に認識されるから、引用商標2からは、その構成文字に相応して、「ヘル」の称呼を生じ、「地獄」の観念を生じるものである。
さらに、引用商標3の「ENERGY」の文字は、「エネルギー」等の意味を有する英語(「新英和(第7版)中辞典」株式会社研究社)であり、「ヘルエナジー」の片仮名部分は、「HELL ENERGY」の読みを表したものと容易に認識されるから、引用商標3からは、その構成文字に相応して、「ヘルエナジー」の称呼を生じ、「地獄のエネルギー」程の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標を比較すると、外観においては、「Liquid」又は「ENERGY」の文字の有無という明らかな差異があることに加え、本件商標が欧文字の大文字と小文字から構成されるのに対し、引用商標の欧文字部分は、いずれも大文字のみから構成され、引用商標2及び3とは、片仮名の有無という差異もあることから、両者は、外観上相紛れるおそれはない。
次に称呼においては、本件商標から生じる「リキッドヘル」の称呼と、引用商標から生じる「ヘル」又は「ヘルエナジー」の称呼とは、「リキッド」又は「エナジー」の音の有無という明らかな差異を有し、この差異音が称呼全体に及ぼす影響は大きく、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、語調、語感が異なることから、両者は、称呼上相紛れるおそれはない。
さらに、観念においては、本件商標からは特定の観念を生じないから、両者は、観念上相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのないものといえるから、両者は紛れるおそれのない非類似の商標である。
(4)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定商品が、引用商標の指定商品と同一又は類似のものを含むとしても、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。」
(7)不服2023-018374審決
不服2023-018374審決は、次の画像中に示すような、本件商標「三栄シャッター」中の「シャッター」という識別性の弱い商品の内容・品質表示(普通名称など)に当たる部分を捨象、除外して、残された「三栄」だけを分離、抽出すると引用商標「Sanei」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
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「5 当審の判断
本願商標は、別掲1のとおり、横長の黒色長方形内に、やや特徴的な書体からなる「三栄シャッター」の文字を、白抜きで又は白抜き風に表してなるものであるところ、いずれの文字も同色、同大、同一書体で、等間隔に、同一の黒色長方形内にまとまりよく表されているものであることからすると、これらは外観上、一体的に看取し得るものといえる。
また、「三栄シャッター」の文字より生じる「サンエイシャッター」の称呼は、8音と冗長とまではいえず、無理なく一連に称呼し得るものである。
そうすると、かかる構成においては、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標全体を一体不可分のものと認識、理解するとみるのが相当であって、他に構成中の「三栄」の文字のみが、本願の指定商品及び指定役務に係る取引者、需要者に対し、商品役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。
したがって、本願商標の構成中「三栄」の文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。」
(8)不服2024-001011審決
不服2023-018374審決は、次の画像中に示すような、本件商標「ギフト訪問看護ステーション」中の「訪問看護ステーション」という識別性の弱い商品の内容・品質表示(普通名称など)に当たる部分を捨象、除外して、残された「ギフト」だけを分離、抽出すると引用商標「Gift」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
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「4 当審の判断
(1)本願商標について
本願商標は、別掲のとおり、上部に太い輪郭線で表された白抜きの半円及び右下の角を丸めた黒色の略長方形の図形を配し、その下部に「ギフト訪問看護」の文字と、それに比してやや小さく表された「ステーション」の文字を二段に表してなるものである。
本願商標の構成中、図形部分と文字部分とは、いずれも重なること無く間隔を空けて配置され、視覚的に分離して観察されることに加え、構成中の図形部分は、直ちに特定の事物を想起させるものではなく、文字部分との観念的な関連性も見いだすことはできないから、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く、図形部分と文字部分とが、それぞれ要部として自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。
そして、文字部分についてみると、その構成は、同じ書体で中心を合わせてバランスよく配置されていることから、視覚的にまとまりよく一体的に表された印象を与えるものであって、構成中の「ギフト」の文字は、「贈り物」等(「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)の意味を有する語であり、また、その構成中の「訪問看護ステーション」の文字は、「看護が必要な高齢者が在宅で安心して療養生活を送れるように、1991年から創設された老人訪問看護制度の拠点。」(「現代用語の基礎知識2017」株式会社自由国民社)の意味を有する語であるところ、本願商標の役務を取り扱う業界において、構成文字全体として特定の訪問看護ステーションの名称を表したものと認識し、把握されることも少なくないというのが相当であり、他に構成中の「ギフト」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見出せない。
そうすると、本願商標は、その構成中の要部の一つである文字部分に相応して、「ギフトホウモンカンゴステーション」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものの、特定の訪問看護ステーションの名称を表したものとの印象を与えるものである。
(2)引用商標について
引用商標は、「Gift」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して、「ギフト」の称呼を生じ、「贈り物」等(「ベーシックジーニアス英和辞典第2版」株式会社大修館書店)の観念を生じるものである。
(3)本願商標と引用商標との類否について
本願商標と引用商標とは、外観においては、その全体の構成文字において、明らかな差異があるから、図形部分の有無も相まって、両商標は、外観上、著しく相違するものである。
次に、称呼においては、本願商標から生じる「ギフトホウモンカンゴステーション」の称呼と、引用商標から生じる「ギフト」の称呼とを比較すると、両称呼は、それぞれ構成音数及び構成音が相違し、両称呼は明瞭に聴別できるものである。
また、観念においては、本願商標は、特定の観念は生じないものの、前記のとおり、特定の訪問看護ステーションの名称ほどの印象を与えるのに対し、引用商標は、「贈り物」等の観念を生じるものであり、両商標は、観念上、互いに紛れるおそれはないものである。
そうすると、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(4)まとめ
以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標ではないから、その指定役務について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。」
(9)異議2023-900231決定
異議2023-900231決定は、次の画像中に示すような、本件商標「オリンピア鍼灸整骨院」中の「鍼灸整骨院」という識別性の弱い役務の内容・質の表示(普通名称など)を捨象、除外して、残された「オリンピア」だけを分離、抽出すると引用商標「OLYMPIAN」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735833744-0mOsw9S5JxuIHCleQUq3hVBL.jpg?width=1200)
「4 当審の判断
(前略)
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、植物でできた冠を頭に載せたとおぼしき人間の上半身の図形と、その図形の下部に「オリンピア鍼灸整骨院」の文字を横書きしてなるものである。
そして、本件商標の構成中、前記図形部分と文字部分とは重なり合うことなく、また、当該図形部分は文字部分と比較して大きく表され、色彩も有していることから、両者は、視覚上分離して観察されるものである。
(中略)
してみれば、本件商標は、その要部の一つである文字部分に相応して「オリンピアシンキューセーコツイン」の称呼を生じ、特定の鍼灸整骨院の名称を表してなることを連想させるものの、特定の観念は生じない。
(中略)
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標の要部と引用商標とは、片仮名及び漢字と欧文字という文字種の相違や文字数において差異を有することから、両者は、外観において明確に区別し得る。
また、称呼においては、本件商標の要部から生じる「オリンピアシンキューセーコツイン」の称呼と引用商標から生じる「オリンピアン」の称呼とは、構成音及び音数が明らかに相違し、明瞭に聴別されるから、称呼上相紛れるおそれはない。
さらに、観念においては、本件商標は、特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは、「オリンピック出場選手」の観念が生じるから、観念上相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念において相紛れるおそれはない非類似の商標である。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務との類否を判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。」
(10)不服2023-018499審決
不服2023-018499審決は、次の画像中に示すような、本件商標「ちょこっとリモコン」中の「リモコン」という識別性の弱い商品の内容・質の表示(普通名称など)を捨象、除外して、残された「ちょこっと」だけを分離、抽出すると引用商標「ちょこっと」と称呼同一になる事案に関して、以下に引用のとおり述べて、本件商標は引用商標に類似しないと判断しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1735833828-AaXHjTOpbFQ8k9rsBigNE0RS.jpg?width=1200)
「4 当審の判断
本願商標は、「ちょこっとリモコン」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成は、各文字が、同書、同大、等間隔に外観上まとまりよく一体に表されており、本願商標の構成全体から生じる「チョコットリモコン」の称呼もよどみなく一連に称呼し得るものである。
(中略)
そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、本願商標の構成文字全体をもって、一体不可分のものと認識、把握するものとみるのが相当であるから、本願商標は、その構成文字に相応して「チョコットリモコン」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
してみると、本願の指定商品が、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品であるとしても、本願商標の構成中、「ちょこっと」の文字部分を分離抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するとした原査定の判断は、妥当なものとはいえない。
他に、本願商標と引用商標とが類似するというべき事情は見いだせない。
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。」
2 地名や普通名称などの識別性の弱い言葉を含む商標と含まない商標との間の称呼類否に関する審決例・異議決定例の判断傾向
(1)最近の多くの審判実務(及び異議申立の審理実務)においては、識別性の弱い地名や普通名称などの部分(言葉・文字列)を一部に含む文字商標とそれを含まない文字商標との間での称呼などの類否に関しては、特に文字商標及び図形商標などの複数の要素が上下方向などに纏まり良く並べられてなる対象商標(結合商標)の中にそのような文字商標が含まれる場合に関しては、まず(A)それらの上下方向などに纏まり良く並べられた複数の要素中の一部、特に文字商標だけを分離、抽出することが需要者・取引者の立場から妥当か否かを検討しています(第1の検討。上記「1」中の「(8)不服2024-001011審決」及び「(9)異議2023-900231決定」など参照)。
そして、その上で、(B)上記「1」での計10個の審決例・異議決定例内容のように、上記(A)において分離、抽出した文字商標に対してその中の識別性の弱い地名や普通名称などに当たる文字部分を捨象・除外して、残りの文字部分だけを分離、抽出することが妥当か否かを需要者・取引者の立場から検討し(第2の検討)、上記(A)及び(B)の各検討の中で共に妥当と判断されたとき、上記(B)の分離抽出された文字部分と引用商標の各称呼を対比して類否を判断するようにしています。
(2)また、上記(B)の分離、抽出した文字商標部分に関する判断においては、文字商標部分の全体を需要者・取引者が一体不可分のものと認識して一連に称呼することが自然か否かを、(a)文字商標部分を構成する文字がいずれも同色、同大、同一書体か否か、等間隔に表されているか否かなどの観点から、外観上、一体的に看取し得るものといえるかどうか、並びに(b)文字商標部分の全体の称呼の音数が比較的少なくて冗長とはいえないか否か、全体の称呼は無理なく一連に称呼し得るか否かなども踏まえて、判断しています。