商標の類似とは何でしょうか?

商標出願したら数ヶ月から約1年後に特許庁から登録査定か拒絶理由通知が来ますが、拒絶理由通知の多くは他社の先行登録商標と類似しているから商標法4条1項11号により登録できないという拒絶理由を指摘するものです。

このように、出願した商標が他社が既に商標登録している登録商標(かつ出願に係る指定商品・役務と類似関係にある商品・役務を指定している登録商標)と類似すると消費者が混同・混乱するので、商標登録が認められません。

では、他社の既存の登録商標(以下「先行商標」といいます)と類似しているというときの「商標の類似」とは何でしょうか?
商標の類似は、特許庁審査でも裁判でも、①称呼の類似、②外観の類似、③観念の類似の3つの観点から検討されています。

まず、①称呼の類似とは、商標の読み方が類似する場合です。
例えば、先行商標が「みかさ」で本願商標が「MIKASA」である場合、両者とも読み方は「ミカサ」です。
よって、この場合、両者を共に登録させると、例えば、消費者が店舗に電話で「ミカサを3個送ってください」と注文したとき、どちらか紛らわしくて混同してしまう不都合が生じます。

次に、②外観の類似とは、眼で視たときの印象が類似する場合です。
例えば、先行商標が「大森林」で出願商標が「大林森」である場合、両者の読み方は明確に違いますが、外観が似ています。
よって、この場合、両者を共に登録させると、例えば、消費者がネット通販を利用して「大森林」を注文しようとする場合、画面に「大林森」が表示されたとき「大森林」だと混同して注文してしまう可能性があります。
なお、この「大森林」に関しては、「大森林」の商標登録を保有する会社が同種商品で「大林森」という名称の商品を販売していた競合他社を相手に商標権侵害訴訟を提起した「大森林事件」がありまして、平成4年9月22日最高裁判決は、「大森林」と「大林森」の類否については文字の比較だけでは類否の判断が十分にできないので取引の実情をも考慮して判断すべきだとして高裁に差し戻しました。

さらに、③観念の類似とは、商標から認識できる意味(観念)が類似する場合です。
例えば、先行商標が「ライオン」で出願商標が「図形(ライオンの絵)」である場合、両者の外観などは明確に違いますが、観念(意味)が似ています。
よって、この場合、両者を共に登録させると、例えば、親から「ライオンの歯磨き粉を買ってきて」と頼まれた子供が店舗に行って、「ライオン」の文字は表示されていないのに「ライオンの絵」が描かれている歯磨き粉を、「ライオンの歯磨き粉だ」と混同して買ってきてしまうという不都合が生じ得ます。

商標の類似(類否)は、以上のような①称呼の類似、②外観の類似、③観念の類似の3つの観点を総合して判断されます。

ところで、以上だけでしたら教科書を要約したようなものですので、次に、①称呼の類似、②外観の類似、③観念の類似の相互関係などについて私が弁理士としての実務の中で感じていること考えていることを、私見として書きます。

①称呼の類似、②外観の類似、③観念の類似の3つの軽重としては、昔(20年以上前)は①称呼の類似が最も重要視されたと思います。当時は未だネットがそれほど一般的ではなく「電話(=称呼)」などでの取引が多かったからです。
しかし、その後、今はネット上での取引が一般的となって「画面(=外観)」での取引が多くなったので、②外観の類似も同じかそれ以上に重要視されています。

そのため、今は、あくまで私見ですが、大雑把に図式化すると、①称呼の類似が40%、②外観の類似が40%、③観念の類似が20%という程度の軽重になっているのではないかと思います。

単純化していいますと、商標Aと商標Bとの間で、(i)称呼40%と観念20%がともに類似している(類似していない)ならば全体(合計60%)として類似する(類似しない)、(ii)外観40%と観念20%がともに類似している(類似していない)ならば全体(合計60%)として類似する(類似しない)、となることが多いように感じます(特に特許庁の審査・審判などで)。

つまり、称呼は類似するが外観は異なる、又は外観は類似するが称呼は異なるなどの、称呼の類似と外観の類似が互いに相反している場合は、観念の類似の有無が決め手となります。

難しいのは、商標Aと商標Bが「造語」などのため観念(意味)が生じない場合です。この場合、観念の類否は問題とならないので、称呼は類似するが外観は異なる又は外観は類似するが称呼は異なるなどの、称呼の類似と外観の類似が互いに相反する場合、決め手がありません。

よって、この場合は、より詳細にみて称呼又は外観がどれだけ違うのか、取引の実情(消費者・取引者は実際にどのように称呼しているか、どのように見ているか)をも考慮するなどして判断することになります。

なおさらに、文字と文字が結合、または文字と図形が結合されてなる結合商標についての類否判断はより複雑です。例えば比較対象となる先行商標が文字商標の場合は、比較対象となる文字商標と結合商標の一部の文字部分との間での類否だけでなく、結合商標においてその中の一部の文字部分だけを他の部分(他の文字部分、他の図形部分)と分離・抽出することが妥当か否かも問題になります(例えば「つつみのおひなっこや事件」に関する平成20年9月8日最高裁判決)。

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