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文通〔3〕🐳

〒ためりさんへ


たった今、12:00になりました。なのでまた前回同様サムネイルと投稿日にずれがありますが、ご了承のほど。


全ては夢だったという感じです。今は。
発熱しているというのもあるけれど、これが夢でないと信じるには、あまりに現実味がないのです。



僕が泊まっている家はそれなりに大きなお屋敷で、二階の一室が僕の部屋です。ダブルベッドくらいの大きさのベッドのまんなかにひとりで寝ています。天井にはところどころ割れたシャンデリアのような電灯があり、発熱してからは日がな一日スマホと電灯を交互に眺めたり、あとは食べるか、寝るかしています。本当に退屈です。



庭には洋梨や林檎、桃の木があり、庭で採れた桃は本当にあまくて、果物嫌いの僕でも美味しいとわかりました。あとは、メロンも美味しいです。(といっても、頑張って食べてることには変わりないのですが。)庭には猫もいます。これは飼い猫ではないのですが、餌付けされているのでしょっちゅういて、僕にもなつきました。たぶん相当汚いです。



この国の衛生観念は遅れていて、家のキッチンのみならず飲食店にも当たり前のようにハエがぶんぶん飛んでいます。食べ物の上にとまっても誰も気にしません。このあいだ行った屋外のレストランでは席で喫煙している集団がいました。いちおう、公共の場での飲酒喫煙を禁止する法律があるのですが、全く機能していません。他にも、交通ルールなどもあまり機能していません。道をわたるのも命がけです。道路の舗装もガタガタで、時々全く舗装されていません。マンホールは陥没しており、踏むなと言われています。そういうのも、だんだん慣れますが。



ここの名産品ははちみつで、家でもはちみつが出るのですが、この間出されたはちみつには蟻の死骸がどっさり入っていました。が、ホストファミリーは何も気にする様子がありませんでした。


あとティッシュがないです。


生まれた場所や時代がその人を決定づけるとは必ずしも思わないけれど、少なくとも生活の質は多少決定づけると思いました。


全てが浮ついた夢のようです。まだ馬に乗れていません。このまま乗れずに帰るかもしれません。でもまあ、それでいいです。もうたくさん馬を見れたし、もう疲れました。元気になるための元気が少なすぎるのです。今日は3日ぶりくらいにシャワーを浴びました。水圧の弱い、温度調整の最中に絶対やけどする、突然冷水になるシャワーです。ないよりましです。発熱しているときはシャワーを浴びるなというホストファミリーの反対を押し切って浴びたシャワーです。本当にいい人たちですが、今の僕は日本に帰りたいです。


僕ほどの弱々しい生命体が今日まで死なずに生きていることがどれほど奇跡なのかということを実感し、日本の医療技術と公衆衛生と国民皆保険制度に感謝せずにはいられません。し、日本を離れてもまだ死んでいないことは、誇っていいと自分に言い聞かせます。


いろいろ言っているけど、ここに来てよかったと心から思っています。それは、すごく寂しいとか、苦しいとか、そういうのもひっくるめて、死なずに日本に帰れたら、僕というちっぽけないきものがちょっとだけ賢くなれる感じがするからです。死んだら意味ないです。死なないように生きます。鬱のときみたいな、辛さはありません。僕はずっと幸せになれたと思います。それは君のおかげです。僕自身のおかげでもあります。が、それは少しです。
ありがとう。







僕がいつから「僕」になって、君がいつから「君」になったのか、考えようかと思ったけど、それはまた今度にします。


2024-09-07 0:44 異国より

まり


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