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sexuality

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変わりゆくセクシュアリティについての断片的な記憶。
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黒帯の女

容姿端麗。バキバキの筋肉で大勢の男どもを薙ぎ倒す。冷静な身のこなしで。けれど、そんな万能刑事の彼にも秘密があった。
「女に、なりたい」

アクション×トランスジェンダー という組み合わせ。女になりたいけれど、男に引き戻される運命が、切ない。韓国映画『ハイヒールの男』

ところで私は、合気道をやっていた。小2から八年間。黒帯を目指していた。絶対にそれまではやめないもんだと思っていたから、二度

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『友達の詩』

中山中さんの『友達の詩』を聴いて。

尊敬するしかない。涙を見せずに歌い切るだけでも、それまで幾度の涙をのんだか、私は何度聴いても今でも、初めて耳にした二年前からずっと、自分の中の糸が切れたように枕を濡らすはめになるから。理性も勉学も生活も知らない。好きな人には届かない。もどかしい心と体。性同一性障害だとカミングアウトすることで、この恋愛の歌詞が押し殺した生命の叫びに思える。

性同一性障

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『それから』

共感は簡単に起こり得るものではないと思っていた。

夏目漱石『それから』に、なんで今更、泣かされるのだろう。後半以降、他に無関心に見えた高等遊民の代助が、友人の妻への愛を明確に表してから、ページを捲る手が止まらない。共感が、止まらないのだ。

代助は、親の金で生活し、世間から見れば優雅な学問・芸術中心の精神生活を営んでいる。自分が乱されること、金に困ること、労働に苦しむことなど無いと思って

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どんな性的指向?!

カミングアウトします。

私はバイセクシュアルです。
男性も女性も好きになるし、性的に求めることがあります。

きっと男性でも女性でもない人も好きになると思っているので、というか性別がオマケみたいなものだから、バイセクシュアル以上かと捉えています。

あるとき女子大に通っている人に、「なんで女子大を選んだのですか?」と聞いたら、
「女子大っていうの気にしてなかったなーやりたいことができ

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二年半前の自分を慰めに行きたい。あのとき、大好きになった光景をずっと独りで見ていて、ああ死ぬんだなと思った。何もなかった。苦しかった。孤独はずっと続くよ。でも今幸せだ。大切な人が、あのとき見ていた光景を、ドイツまで、飛んできてくれるって。今度こそ一緒にいれるよ。

それまで君はずっと淋しいよ。初めて同性を好きだと自認して、一年間現実に向き合えずにいて、それでも色々な場所へ体当たりして、踠い

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成人式に行かなかった話

今実家にいるんです明日も休みだから、あっ成人式か、そうです、…まだ19だね?と笑った後、
ああそっか、この愛しい人はこの前誕生日を迎えたばかりだけどまだ19歳、私がドイツから日本へまた行くことがあったとしてもまだ20歳にならないんだ、愛おしい、守りたい、生きよう、濁流のようにとりとめのない愛が浮かんできて、さて、そうか、成人式ってものがあったんだなーと思い出した。

暇なので、成人式について書

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素敵な女の子でありたい

彼女は私をよく知らないし、私は彼女を知らない。まともに出会って言葉を交わしたことはたった三度しかないのだから。

やけに大きなイヤホンをつけた彼女を、友人の紹介で知った。夏、月曜日、五限後のことだった。絵に描いたようなサブカル女子の風貌でありながら、古典も評論もよく読んでいる読書家だとわかった。

初対面の印象はそれほどのことでもなかったから、すり抜けるように私の記憶から抜けていった、はず

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していいですか

どうしていいかわからない

近くにいればいるほど

怖くて

もっと触れたい
もっと知りたい
離したくない

でも?

踏み出せなかった
臆病だ

例えば映画『キャロル』『アデル、ブルーは熱い色』なんかのように
片側が上手いお姉さんだったら
誘惑できるのかも

私はそんなに美しくない
するりとコトを運べない

もしも貴女が
どれほど私を好きだと言っても

身体的

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終着、延長。

あなたが管で繋がれている。点滴の音だけが、聞こえる。これほど近くにいるのに、あなたの鼓動が世界から途絶えたようなのです。それを打ち消すように、私はひとりで窓の外を見る。向かいの塀の無彩色が、鮮やかな世界を遮断する。

呼吸器の下に見えるあなたの整った鼻は、凛として生きている。あなたは、生きているのだ。

私は看護師に事情を話し、あなたの個室に長く滞在することを許された。家族でも恋人でもない

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#友達が泊まりに来た

カフェ&バーのあえてくすんだ壁に、商品の広告がある。暗い樹海に佇むギネスや雲の上に描かれたコロナだって、アルコール界でいうアイドルなんだろう、威風堂々、ファンタジック、けれど修正多めで。疲労で泡を噴き出しそうだ。

渋谷に集まる人々よりずっと、そんなアイドルビールがオフになったときにどこかのバーで出会って、名前も聞かずにお疲れ様~と乾杯し合いたい。ワンナイトはなしで、終電で帰宅するのだ。

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ゲイじゃないけど。

よし行きたい、と寝ぼけた頭が目覚めたのは、たまたまバーの広告にLGBTQの文字を見つけたからだった。

背景の色は自明のごとく6色のレインボーだった。こう、恥ずかしくなるくらいにモチーフをこじつけなくては世間に認知されることもないのだから、自らを大多数と信じていられている人々が少数派と見込んだ奴らに一瞥をくれるにも、長い忍耐期間が求められるしかないことの証明らしい。

その日限りLGBTQ

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ポリアモリーを辞めるとき

大切な人と、同居している。

付き合おうという契約を交わしたわけでも、いわんや結婚しているのでもない。

結婚以前に戸籍上同性なのだから、ベルリンの壁に負けない障害がある。乗り越えようとすれば人の心を解さない役人に撃ち落とされ、大切な人と決別しなければならないのだから、闘いは苦しい。大切な人の側にいたい、というだけの、恋愛至上主義で最幸福と崇められてもおかしくない状態が、雲の遥か彼方で瞬く

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勧誘

人恋しい季節といってもちっとも虚言じゃない証拠にあっちの寮のビルではもうイルミネーションが出てる、秋は存在しなかったんだよもう冬だ、と言おうとする。拙い英語は喉に痞えてしまうから、それより先に、でもあのイルミネーションは何かのサプライズに違いないよだってまだクリスマスには2ヶ月以上ある、と慣れた英語で台湾人の友人が指摘する。まあそっちの方が可能性ありそう。

ただし、既にドイツでは息が白くて寒

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あれから

貞操帯欲しくなって買いました。


押し上がる困惑を、どう返せばいいのかわからないから、また大切な人を傷つけてしまうのではないかって、いつも不安に震えます。

性差に絶えず振り回されているだろう人が、自ら貞操帯を欲する気持ちは推しはかれなくて、こんな困惑は自分の考え過ぎかもしれないとわかっていても。

初めて電話をもらったときも、電話越しの一言では到底片付けようのない話だと直感したか

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