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映画『スイング・ステート』を観て

アメリカの政治システム、特に大統領選での「お祭り」のような民主党・共和党の争い、そして本質的な政策を明らかにせずスキャンダルを煽り立てるマスコミ、「ノブレス・オブリージュ」を果たす(と見せる)ために政治セレブたち、そしてその状況を許してしまう市民自体までも、鋭く批判した作品。

アメリカ大統領選は、民主党・共和党の自分が支持する党が相手側に「勝つこと」だけが目的になってしまっていて、「勝つ」ためにウソをついてでも黒人やヒスパニックなどの層を取り込み、お互いのスキャンダルを暴きあうネガティブキャンペーンや、寄付を集めてカネをばらまく競争になってしまっていて、本来議論すべき解決する課題や政策がなおざりにされているということが問題になっている。

特に問題なのが、映画でも出てくる「スーパーPAC(政治行動委員会)」という仕組みで、本来はいわゆる政治献金は年間5,000ドルに抑えられているのだが、こうした仕組みを使うことで形式的には特定の政治家や党への献金でないという立て付けにして、無制限に大金を集めるという仕組み。

もちろん背景としては、最近のアメリカ社会および映画のテーマである「分断」という問題がある。支持政党での分断、貧富の分断、人種の分断、そして地域の分断。この映画ではそれぞれがきちんと描かれ、特に地域の分断、都市と地方の分断が強調されていると思う。

この映画はアメリカの地方都市の町長選挙が、民主党と共和党の代理戦争になるというストーリーが展開されていくのだが、こうしたテーマ・問題を隠すことなくかなり直接的に批判しているのに驚いた。制作はブラッド・ピットの「PLAN B エンターテインメント」。もともと社会問題を取り上げて、批判や風刺をする作品が多いが、かなり政治色というか意見色が強い作品になっている。

テーマは重いし、本当はアメリカの政治の仕組みや大統領選挙戦のことをよく知っていて、さらに、実際に体験しているアメリカ人でないと、分かりづらいジョークやエピソードも多いのだが、それを割り引いても日本人でもしっかり楽しめる映画だと思う。

脚本的にもいわゆるsuprise endningで、かなりどんでん返し感がある。映画としてはよく使われる展開ではあるけど、自分はこの展開は予想できなかったし、逆に言うとそれだけこの映画に引き込まれていたのかもしれない。

邦題『スイング・ステート』は「激戦州」という意味で、映画でも何度も飛び交うセリフでもあり、違和感はない。「『激戦州』だからといってワシントンのやつらは4年に1回大騒ぎするだけで、何も地方には残されない」という問題は、劇中でもある人物がはっきり言うシーンがある。

原題は『Irresistible』。抵抗できないというのが直訳だが、たぶん、こうした状況が良くないと気づいていながら、誰も変えられない、変えないということを示唆しているんだと思う。

映画『スイング・ステート』のあらすじは別サイトで詳しく(ネタバレで)紹介しています。よかったらご覧ください。

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