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01:問い合わせから撮影までのプロセス ー 撮影スタジオ運営メモ ー

レンタルいたばし管理人です。

スタジオ運営メモと題しまして、レンタルスタジオ・ハウススタジオの運営に関するあれこれや、撮影にまつわるなんだかんだを書いていこうかと思います。


さて今回は、撮影に使われるまでのプロセスです。スタジオの特性や制作会社の進め方によって異なるかとは思いますが、一般的には次のような流れでしょうか。

1.問い合わせが来る

2.担当者によるロケハン

3.監督やメーンスタッフを交えたロケハン

4.予約確定

5.カメラテスト、スタッフによる下見など

6.飾り(下準備)

7.撮影

8.ばらし(あと片付け、原状復帰)


私のところでも、おおむねこんな感じです。

撮影というと、すぐに予約がきてあとは撮影当日を待つのみ、と思われる方もいるかもしれません。もちろんそういった場合もあります。特にバラエティー番組の再現VTRなどはその傾向が強いかもしれませんが、映画やドラマ、CMなどの撮影ではじっくり時間をかけてロケ地を選びますし、準備も入念です。スタジオを運営する側も、それに合わせた対応が必要です。

では撮影までのプロセスをひとつひとつ見ていきましょう。


1.問い合わせが来る

最初のアプローチは、ほとんどの場合で作品を制作している会社の担当者からきます。電話が8割、メール2割といったところでしょうか。問い合わせがあったら、こちらも撮影内容や、特に対応を要する事項がないかを確認しておきます。電話は日を選ばず突然かかってくることもあるので、スタジオの予約状況は常に把握しておいたほうがベターです。

ちなみにこの担当者は「制作部」という部署に属し、撮影が決定したあとも折衝窓口となります。基本的に、交渉や問い合わせはすべてこの担当者を通して行います。製作部はいわば縁の下の力持ち。撮影に関する、ありとあらゆるバックアップを行う部署です。


2.ロケハン

ロケハンとは、ロケーションハンティングの略。良い撮影場所がないか探して回ることをいいます。

日時や撮影内容などが条件に合えば、たいてい先方から「いちどロケハンをさせていただきたいのですが」と言われます。ロケハンは実際にスタジオを知ってもらうまたとない機会ですから、喜んで受け入れましょう。ロケハンに来たからといって必ず撮影に使われるわけではありませんが、次につながるかもしれません。

ロケハンには、最初にアプローチしてきた担当者が来る場合がほとんどです。スタジオを見せ、詳しい利用内容も聞きつつ、こちらからも条件などを伝えておきます。利用規約や注意事項などがあれば渡しておきましょう。

作品の内容にもよりますが、最初のロケハンは30分から1時間程度。じっくり写真を撮っていく方もいれば、必要な部分だけ撮ってさっと帰っていく方もいます。なかには周辺の景色も見たいという方もいますので、私も時間のゆるす限り案内します。ただ、担当者が熱心だから、気に入ったからといって撮影に使われる可能性が上がるではありません。撮影に使われるか否かの判断基準は「作品のイメージに合うか否か」。ですから、逆もまたしかりです。


3.監督やメーンスタッフを交えたロケハン

ロケハンから帰った担当者は、撮影した写真を監督以下メーンスタッフに見せ、判断を仰ぎます。監督が興味を持ち、ほかのスタッフの異論がなければ「いちど見に行こうか」となり、電話がかかってくるわけです。「監督などを交えてもう一度見せていただきたいのですが」と。

このロケハンは「メーンロケハン」、「監督ロケハン」ともよばれ、だいたい10人前後で見に来ます。監督以下それぞれのスタッフが、イメージに合うか、カメラアングルはどうか、撮影の支障になるものはないかなどを見に来るわけです。この時点では、他にも撮影場所の候補がいくつかある状態です。1日かけて数カ所の候補地をまわり、最適な場所を選ぶ場合が多いようです。


4.予約確定

メーンロケハンが終わり、スタッフ一同のOKがでてようやく予約確定となります。場合によっては暫定的な料金や見積もりを必要とすることもありますので、日時や撮影内容、注意事項などをしっかり確認しておきましょう。正式な予約の際には、あらかじめ利用規約などに署名をもらうようにすれば安心です。

予約が確定する前に、「とりあずキープしておきたい」と言われることも少なくありません。そいった際は、「仮予約」という扱いにしておきます。1週間前までに決定してもらうことを前提に、ほかに予約希望者があらわれた時点で予約確定か仮予約解除かを判断してもらいます。ちなみに仮予約の段階ではキャンセル料はいただいていません。


5.カメラテスト、スタッフによる下見など

これも作品によりますが、撮影日より前に再び下見を行う場合もあります。カメラ写りや照明位置、室内の飾り、監督以下が陣取るベースの位置、支度部屋や控室、車の同線や駐車場所など、ロケハンでは確認しきれなかった部分を補うものです。めったにありませんが、2度、3度と見に来ることもあります。もちろん毎回立ち合います。

ロケハンや下見は、基本的に無料で受けています。あとで撮影料金をいただく際、金額を上乗せするスタジオもあるかもしれませんが、あまり一般的ではないようです。スタジオの料金を設定する際は、このようなロケハンや下見にかかるコストも見込んでおいた方がいいかもしれません。


6.飾り(下準備)

撮影日の前日になると、スタッフさんたちがスタジオ内を装飾します。作品の設定に合わせてセットを組むわけです。これを「飾り」といいます。大掛かりなものでは1日以上、小規模なもので数時間。荷物だけ先に持ち込み、撮影当日に飾り付けることもあります。

飾りの際、釘打ちなど原状復帰できない飾りつけは不可とします。のちの撮影にも差し支えますし、建物も傷みます。事前にしっかり伝えるのはもちろんですが、大勢のスタッフにいきわたっていないこともありますので、作業中もときどき確認しましょう。どうしてもという場合は、別途料金を支払ってもらうか、あらためて業者を呼んでもとの状態に戻してもらうようにします。

また、大掛かりな撮影でスタジオの近隣に影響が及ぶ可能性がある場合は必ずあいさつ回りをします。製作会社の担当者に言えば簡単な挨拶状をつくってくれますので、これを持って担当者とともにご近所を回るわけです。まれにテレビ局や番組のグッズ、場合によっては菓子折りなどを用意してくれることもあるので、これを配って歩きます。担当者にまかせることもできますが、私は可能なかぎり一緒にあいさつ回りをします。撮影には、人や車の出入り、音や照明の明かりなど、近隣へ迷惑をかける可能性のあるものがそこかしこに潜んでいます。事故のないよう気を配るのはもちろんですが、撮影そのものがご近所さんのご理解がなければなりたたないということを忘れてはなりません。

大半のスタジオでは、この「飾り」から使用料が発生します。これまでは単にスタジオを見に来ていただけですが、ここからは実際にスタジオを使っている、というわけです。私の場合は、作業にかかった時間分を請求しています。


7.撮影

いよいよ撮影です。人の出入り、車の出入りが最も多いのはこの日ですので、事故のないよう気を配ります。撮影の規模によってはガードマンがつきますが、基本的に車両の誘導はスタッフが行います。スタッフの多くはスタジオに来るのが初めてで慣れていませんから、誘導や安全確保、動線の案内など、できるかぎり協力します。

いざ撮影が始まるとスタジオの管理人はあまりやることがありません。突発的に呼ばれることがありますし、トラブルを防ぐためにもその場にいるべきではあるのですが、基本的にはいるだけ、見ているだけ。とはいえ撮影中の凛とした空気はなかなかいいものです。カチンコの音がなると、気が引き締まります。

撮影中、通りかかる歩行者や車には必ず挨拶します。多くの人にとって映画やドラマの撮影はイレギュラーなもの。迷惑をかけないよう、常に気を配ります。


8.ばらし(あと片付け、原状復帰)

撮影が終わったら、あと片付けと原状復帰です。撮影用語で、いったん組んだものをもとに戻すことを「ばらし」といいますが、撮影をキャンセルしたり、予定を白紙にしたり、解散したりすることも「ばらし」といいます。撮影用の装飾を片付け、もとに戻すのも当然「ばらし」です。

ばらしは、きちんともとの状態に戻っているかを確認しつつ、建物に傷がついていないか、無くなったものはないか、スタッフの忘れ物がないかなどを確認します。機材の撤収だけでも30分から1時間半、大掛かりな飾りをした撮影の後は1日かけてばらすこともあるので、これも必ず立ち会ってチェックします。作業が夜間に及ぶ場合は特に忘れ物などが増えるので、ライトを持って特に入念に見ておきます。

何か問題があった際、特に建物の傷などはその場で担当者に伝え、対応を協議しておきます。業者の専門的な修理が必要と思われるものものはその場で結論をださず、業者に見せた後に見積書や請求書を送るなどの対応が必要です。写真も撮っておくといいでしょう。

ばらしの対応も終わったら、料金をお支払いいただきます。しかし撮影は、全ての車両が敷地を出るまで続いています。最後まで油断せず、気を配りましょう。そして最後は掃除です。なかには掃除をしてくれる場合もありますが、やはり撮影終了後は少し荒れた雰囲気が残ります。次に備え、掃除をして、新たな撮影隊を迎えましょう。



撮影の流れ、ご理解いただけたでしょうか。あらためて読み返してみると、やらた手間がかかるような気がしてしまいますね。

映画やドラマの撮影って、いまだにマンパワーに頼って成り立っているんです。技術の発展はあれど、自動化や省力化には程遠い世界です。多くの人が素敵な作品に出合えるようにするために、やれることはまだまだありそうですね。

とりあえずマンパワーで、ですけど。





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