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グランメゾン東京と王様のレストラン

いま、グランメゾン東京が面白い。
面白いだけではなく非常によくできている。

書きかけのワインの記事を多く残したまましばらくご無沙汰だったnoteだが
これは久しぶりに書きたい欲を刺激される題材だ。行ってみよう。

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それにしてもまさかこんな日がやって来ようとは、である。

我々の世代の料理人やサーヴィスマン、ソムリエにとって特別なドラマ、
その名は王様のレストラン。

当時演劇界を賑わせていた三谷幸喜さんの作品が初めて電波に乗ったモノで
その舞台であるレストランの中だけで全てのストーリーが展開されていく、
金にモノを言わせた当時のドラマ群の中では明らかに異質の存在と言えた。

その軽妙なストーリーと演者たちの時にコミカルで時にシリアスな芝居は
四半世紀前の本当に不真面目な学生だった自分の心を鷲掴みにした。
「いつか自分もレストランで働くんだろうな」と初めて意識させられた。

その後、時は流れ、レストランを題材にしたドラマは無数に生まれたが
王様のレストランに並ぶ作品にはついにお目にかかることはなかった。
それ程僕にとって(そしてきっと多くの同業者にとって)特別な作品だった。
これはもう実際に視聴してもらう以外に説明のしようがない。
※ちなみに僕と仕事でかかわる人々には必ず観るようにお願いしている。

さて、グランメゾン東京である。
冒頭で述べた通り、実に面白い。そしてよくできているのである。

主演が木村拓哉さん、しかも天才シェフ役ということを聞いて
「なんだまたいつものキムタク節か」と思った人も少なくないだろう。
実際その通りなのだが(笑)、今回はその役どころに対するサポートが凄い。

劇中で主人公たちが創る料理を監修しているのはカンテサンスの岸田さん。
もはや説明の必要すら感じない当代きっての名シェフである。
スペシャリテの「山羊乳のバヴァロワ」も惜しみなく登場させるあたり、
伊達や酔狂でサポートに取り組んでるわけじゃないことが窺い知れる。

対抗するレストランの料理はコペンハーゲンの伝説のレストランである
nomaの流れを組むINUAのトーマス・フレベル氏の監修によるもの。
よくもまぁこんなビッグネーム二人にオファーしたものである(笑)。
凄いぞTBS!

ストーリーとしては王様のレストランに通ずる「レストランあるある」や
クオリティを求めるあまり妥協を許さないプロフェッショナリズム、
それぞれの人柄やポジションなりの苦悩とそれを乗り越えるさまなどなど
うまく構成されており日頃レストランに縁のない人にも響きわたっている。

王様のレストランとの違いはミシュランやWorld's 50 Best Restaurantなどの
アワードを現代らしくうまく絡ませてきてるところだろう。
厳密に言えば王様のレストランでも星付きレストランという表現はあったが
当時日本にはミシュランすら上陸しておらず、いまいちピンとこなかった。

アワードをドラマに組み込むことでレストラン同士の仁義なき競争(笑)や
星を獲得、または保持するためにどれだけの犠牲を払っているのか等、
一般には知られざる側面も描かれていてなかなかに生々しいのである。

まだ完結したわけではないので今後の展開にも期待したいところだが
このドラマがすでに王様のレストランに並んでいることを強調したい。

僕と同じように王様のレストランを観て業界に飛び込んだ人は多い。
業界に入ってからもモチベーションが下がるたびに見返しては
松本幸四郎さん演じる千石さんに叱られた気分になったものである。

もうおわかりだろうか。
かつての王様のレストランが若者の心を動かし、将来をも決意させた様に
現代のグランメゾン東京が同様の役割を果たす可能性は極めて高い。
この飲食業界未曽有の人手不足の時代にあって、である。

そんなドラマはあとにも先にもなかった。王様のレストラン以外には。

僕にとって唯一無二の存在であった王様のレストラン。
誰かにとってグランメゾン東京がそうなってくれることを切に願う。

それにしてもまさかこんな日がやって来ようとは。
世の中まだまだ捨てたもんじゃない。

P.S.
とは言ってもやっぱり森本レオのナレーションの引き込み力や
場面ごとに切り替わる音楽とのシンクロの凄さを加味すると
やっぱり王様のレストランの方がちょっと上だな(笑)

P.S.2
ちなみにどちらの作品にも出演している唯一の人物、鈴木京香さん。
あのいかがわしいバルマンが時を経てシェフになろうとは。
Alors, mon bébé, Ta bouche ne marché pas !!

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