10年前のソラニンとだらだらとセックスした後悔

アプリで好きになった男の部屋に着いて行ったせいで駄目になった話

夏の空はどこかくすんでいて、ぼおっと溶けていくなあと思った。

アプリで会って気になった人と、半年ぶりにひょんなことから2回めの食事を迎えた。話していたら楽しくて、つい時間を忘れて、朝までカラオケまで行って。お金の使い方も、時間の使い方も、頭が悪かった。多分、この何もないお盆休みにも、なんとなく目的の見えないこの時間にもやるせない思いがお互いにあったんだと思う。

決して嫌いじゃなかったはずだけど、過去に一度しか会ってなくて、やめたほうがいいと正しい忠告をする女友達の言葉には従えず、一番やってはいけない、寂しさに流された。

2次会までたっぷり飲んで、カラオケに行って。明け方始発が走っているのに、午後はアプリの別の人と一度目の約束をしたのに、私は家と逆方向の彼の家に行った。お洒落だけど狭くて、ごちゃごちゃしてて、でも男の家で嫌いじゃなかった。

言われるがままにコンビニで久々にメイク落としなんて買って、シャワーを借りて、リンスがないから髪はパサパサになった。こんなん許されるのは、大学生の若さがあるときまでだよ。10年前なら良かった。

それで流したのは、懐かしすぎるソラニンの映画。若かりし宮崎あおいが可愛すぎるあの。カラオケで冗談まじりで入れたら、すごく良くて、映画が観たくなったのだ。10年前の大学1年生夏、真昼から、あまりにもやることがないから、仲はいいけどまだどこか他人行儀な地方出身の男友達たちと一緒に観た以来。あの日も「今日のことはなんてことないけど多分忘れないな」って思った。そのことを、よく覚えてる。今日も忘れないだろう。

映画は知ってたけどだらだらと眠たくて、すぐに休みたくなった。もうすでに体力は限界だったし。でも眠たくなると、眠るのを許してくれるはずもなく、ゆっくりとセックスした。

女慣れしているだろうと勝手に思っていたけれど、いざ始めてみるとなんてことはなく、勝手に幻想は途切れてしまった。愛されるのではないか、なんて期待していたのだから、当たり前かもしれないけれど。大きいひとはそれに何故か自信を持っていて、なんの努力もしないから嫌いだなと改めて思った。

名前なんてひとことも呼んでくれない、キスするだけのセックス。2人でするのは初めてなんだから、もっと探らないとお互い気持ちよくなれるわけないのに。無言になればなるほど、全然気持ちは入らないし、酔いはすっかりさめて、二日酔い特有の胃のむかつきがすごかった。気持ちよくなんてなかった。でも久しぶりだったから、汗まみれになって、適当に声なんかだして、なんとか終えたのだった。

髪がびしょびしょになって、背中は汗が滴って。布団のシーツもあまりにもぐしょぐしょだったから、上にタオルを敷いて寝た。関係がない相手同士特有の、終わった後の距離がまた、遠かった。

家に着いたのが朝7時だったから、そこから寝たのは9時。アプリに断りの連絡を入れて、起きたら14時で、彼に優しく抱きしめられるものだから、勘違いしてもう一度セックスすることになった。相変わらず名前のひとつも呼んではくれなかったけど、生身で抱きしめ合うのは気持ち良くて、つい赦してしまうのだった。

また結局汗まみれになって終わったのは夕方だった。ハグしたまま寝落ちしたりなんとまあ、締まりのないセックスで、霞んだ夏の空気で満ちる知らない男の部屋と、2人分の湿気をたっぷり吸い込んだ布団。男の手作りの麦茶はうちと同じ銘柄で、喉はカラカラだったからただただ、美味しかった。

知らないTシャツに身を通して、下着を探しながらまた履いてつけて、そんで体育座りでメイク落としと一緒に買ったコンビニのゼリーを食べた。日差しはもう傾き始めてて、ニュースは天気の話を終えていた。特別でいて、それなのに何も代わり映えのしない1日。

この日に家にいかなければ、これからも気軽に連絡して、デートして、付き合えたかもしれないのにな。先に腹を見せ合いすぎると駄目。下手な恋愛映画でもやらないミスを犯して。10年前に観たのと同じソラニンの映画と、10年前とはあまりに違うわたしと、同じくらい変わらない私と向き合うことになった。

さて、これからどうしようかなんて、底抜けに明るく出した声が、最近始めた一人暮らしの部屋と、下手くそなセックスのせいで痛む身体に響いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?