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輪廻の風 第3章

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2022年10月の記事一覧

輪廻の風 3-68

死の淵に立たされたルミエルの人体に、人類史上かつてない異常が生じた。

なんと、生まれつき目の見えないルミエルに、視力が宿ったのだ。

しかしそれは人智を超えた奇跡などではなく、人為的なものだった。

ヴェルヴァルト大王は封印される直前に、ルミエルの人体に闇の力を与えたのだ。

その力は、魔族が扱う特有の能力ではなく、また不老の肉体でもなく、視神経を共有するためのものだった。

ヴェルヴァルト大王

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輪廻の風 3-67

滅亡した神国ナカタムの上空に、どこからともなくヴェルヴァルト大王が降臨した。

それはまるで、なんの前兆もなく自然発生した未曾有の大災害が形を成しているようだった。

体長30メートルを超える巨体の周囲には、黒い蒸気のようなものが纏わりついていた。

突如浮かび上がった巨大で悍ましいシルエットに、トルナドは震撼した。

この時の衝撃はトルナドの脳裏に深く焼き刻まれ、500年後の自身の転生者であるエ

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輪廻の風 3-66

ルミエルの放つ聖なる光が治癒以外に退魔の力を宿している事。
天生士屈指の暴れ馬のトルナドが風の力を有している事。
また、この2人が行動を共にしていること。

ルキフェル閣下は、これらの事をヴェルヴァルト大王に報告した。

ヴェルヴァルト大王は、冥花軍及び現段階で1000体ほどいる魔族の戦闘員全名に、トルナドとルミエルの抹殺指令を下した。

ルキフェル閣下を筆頭に、魔族達は血眼になって2人の捜索を始

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輪廻の風 3-65

トルナドの傷口は、ルミエルの懸命な治療により完治した。

しかし、失血した分の血液が補給されたわけではないため、まだまだ安静にしている必要があった。
それでもトルナドは、ルミエルの前では虚勢を張って強がっていた。

「ワッハッハー!全快だぜ!まさかお前が天生士だったとは思わなかったぜ!」

トルナドは天生士になっても問題ばかり起こしていたため、神牢に投獄されていることが多く、ルキフェル閣下以外の天

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輪廻の風 3-64

「ワッハッハー!聞いたぜ?ルキフェル、お前よ…魔族になったんだってなぁ!神国ナカタム随一の剣豪と謳われたお前が魔族とはなぁ、笑っちまうぜ!」
トルナドはルキフェル閣下を挑発したが、ルキフェル閣下は毅然とした態度で一切挑発に乗らなかった。

ルキフェル閣下は元々、天生士のリーダーの様な役割を担っていた。

しかし、その危険な思想と歪んだ人格故にユラノスからは一切信用されていなかった。

だからユラノ

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輪廻の風 3-63

「トルナド!?トルナドって、あのトルナド!?天生士きっての暴れん坊で有名な??」

ルミエルは高揚して尋ねた。

「はっ、なーにが暴れん坊だよ!俺ぁただ好きな様に生きてるだけだ!俺は誰よりも自由なんだ!」
トルナドは胸を張ってそうに答えた。

「えー!すごい!貴方、超有名人よ!私ね、いつか貴方に会ってみたいと思ってたの!こんなところで会えるなんて…感激!」
ルミエルは両手でトルナドの右手をギュッと

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輪廻の風 3-62

「ちくしょー!人っ子一人居やしねえ!」
空を飛ぶトルナドは、大声で独り言を言った。

誰かを殴りたくてウズウズしながら、しらみつぶしに破壊された街の跡地を徘徊していたが、どこもかしこも人間が住んでいる形跡が無かったのだ。

破壊衝動に駆られても、街という街は魔族により破壊され尽くされていたため、壊し甲斐もなさそうだった。

人から感謝されて喜ぶ自分を気持ち悪く思い、どこにもぶつけようのない怒りを胸

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輪廻の風 3-61

トルナドが神牢を脱獄したのは、神国ナカタムが滅亡して10日後の事だった。

ユラノスの死後、神牢に施された魔術は緩やかに効力を失っていき、丸10日経って完全に効力を失ったのだ。

魔族によって蹂躙された神国ナカタムは、見るも無惨な姿に変わり果てていた。

王都の美しい建築物は軒並み破壊され、人々が住む家屋は焼き払われ、所々に焼死体が転がっていた。

以前は雄大な自然に囲まれた緑豊かな美しい国だった

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輪廻の風 3-60

昔々の遥か大昔、ある巨大な国の滅亡をきっかけに1つの時代が終焉し、新たなる時代が産声をあげた。

これは今から500年も昔の、誰にも語られることのなかった真実の愛の物語。

栄華を極めた神国ナカタムが、冥界より出現した悪魔の王により滅ぼされた。

国を治めていた全知全能の唯一神ユラノスは無惨にも呆気なく殺害された。
神に仕えていた神官も神隊も滅ぼされ、生き残った者たちは滅びた都市を捨てて須く逃げ出

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輪廻の風 3-59

絶対におかしい。
変わり果てたラーミアの姿を見たロゼは強くそう思った。

魔族は500年前、当時の対魔の天生士によって須く封印されていた。

2年前にユドラ帝国でその封印が解かれるまで、ずっとだ。

その2年の間に、魔族がバレラルク王国に第一次侵攻を果たすまで、天生士もバレラルクの民も、魔族と接触する隙など1ミリたりとも無かった筈だ。

それでは、なぜ現代の対魔の天生士であるラーミアが魔族になった

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輪廻の風 3-58

各国の戦士と悪党により結成された連合軍は鬨の声をあげながら、続々と魔界城へと押し寄せた。

対する魔族の一般戦闘員達は、それらを食い止めるべく、大慌てで一階へと雪崩れ込んでいった。

世界の命運を賭けた巨大な戦いは、ついに第二幕を迎えた。

一方5階では、ベルゼブが魔界城そのものを破壊しかねない程の威力を秘めた攻撃を繰り出していたが、隔世憑依したノヴァとエラルドはそれらを食い止めつつ、ベルゼブの迎

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