無料・有料の垣根をなくす「事後購入」システム

 無料で始められるゲームと、一定の金額を支払わないと遊べないゲーム。今のゲーム市場は、概ねこの2つの販売形式に分かれている。
 追加コンテンツや広告など、いかにしてゲーム内に収益源を用意するかという点では多様な手法があり、一概には分類できない。しかし無料で始められるか否かが、そのゲームのビジネスのあり方を大きく変えることは間違いない。
 特にスマホゲーム界隈では基本無料ゲームが主流だ。ゲームにそこまで熱心でないユーザーが多いこの市場では、自然な流れとも言えるだろう。

 無料ゲームで収益を上げたい販売側の目論見は、しばしばプレイヤーとの軋轢を生む。有料アイテムを買わないとストレスを感じるゲームバランス、しつこい広告。プレイヤーの中にはタダで遊べることを当然とみなす層も一部に見られ、双方の溝を深める原因になっている。
 お金の匂いを隠すため、課金システムは複雑で曖昧になりがちだ。「結局課金した方が勝つ」「いや無課金でも行ける」など、レビュー欄で不毛な言い争いを何度も見てきた。
 どれだけ広告を出す頻度を調節しようが、広告を嫌うレビューはなくならない。広告をたくさん表示したい売り手と、広告を一切見たくないプレイヤーの都合の押し付け合いは続く。

 無料ゲームは課金システムに神経を使う必要がある上に、レビューが荒れやすい。だからゲームを愛する開発者ほど有料での販売を好む。最近ますますこの傾向が強くなっていると感じる。
 無料ゲームしか触らない人と、お金を払ってでもゲームを遊びたい人では、見ている光景が違う。同じゲーム文化でありながら、無料と有料の間に大きな壁が存在しているのである。

「事後購入」の提案

 僕は個人ゲーム開発者で、App Storeでプシュプというゲームを配信している。この作品は無料で全編遊ぶことができ、広告や回数制限なども一切設けていない。その代わりに提示しているのが「事後購入」システムだ。
 通常のゲームは購入してから遊ぶものだが、それとは逆に、遊んだ後で購入してもらうのが事後購入の趣旨だ。プレイヤーは好きなだけゲームを触ってから、任意のタイミングで支払うことができる。
 支払いを強制する仕組みもなく、気に入った人だけが購入する。形式としては寄付・サポートなどとほとんど同じだ。スマホ市場では比較的珍しいが、厳密には目新しい方法ではない。

 それでもわざわざ独自の名前を付けたのは、「購入」という言葉を強調するためだ。開発者をサポートするための支援金ではなく、あくまで商品の売り買いであると定義している。
 ゲーム内に事後購入の説明文があるのだが、その中に「このゲームに価値があると感じたら必ず購入してほしい」という表現を含めている。恐らく、これだけはっきりと支払いを要求する無料ゲームは少ないのではないかと思う。
 自分が価値を感じたものはきちんと購入すべきだ。その上で、どのように価値を感じるかは人それぞれなので、実際に支払うかどうかは各自で決めてほしい...これが事後購入の意図するところである。

無料と有料を一体化する

 基本無料形式が台頭し、ゲームの課金構造は複雑化した。過剰な金額を吸い上げる一部のゲームへの批判も根強く、基本無料という考え自体を不健全とみなす向きもある。
 ただ、無料で遊べることそのものは本来歓迎すべきだ。売り手は自分のゲームを広く知ってもらえ、買い手はゲームの中身を気軽に確かめられる。無料ゲームをどう扱うか、再考すべき時期が来ているのではないか。

 事後購入はゲームの売り方を単純化する。有料買い切りと同じ感覚で無料ゲームを配信でき、開発者はゲームの中身に注力できる。こういった任意の支払い方式は今後存在感を増していくと予想している。
 有料での販売にこだわっていた開発者が無料の世界に参入し、無料ゲームしか知らなかった客層が有料ゲームの世界に魅了される。無料・有料の境目が消え、多様なゲーム文化が広まる未来を期待したい。

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