「事後購入」でゲーム販売の利益を最大化する

 ゲームの適切な販売額はいくらか。安過ぎれば売り上げが落ち、高過ぎれば販売数が落ちる。あらゆる売り手、あらゆる市場が、利益を最大化する価格を探り続けている。

 コンシューマ市場でパッケージ販売が中心だった頃、ゲームの価格は一本5千円以上が当たり前だった。その後、ダウンロード販売が本格化したことでソフトの幅が広がり、数百円から3千円程度の小・中規模タイトルが増加した。金額は様々だが、基本的にはソフトの価格は固定というのが一般的だ。
 一方で、基本無料形式がゲームの売り方を根本的に変えた。特にスマホゲーム市場が台頭したことで、ダウンロードは無料、課金額は青天井という構造が珍しくなくなった。1つのゲームに対して支払う金額が、プレイヤーによって大幅に異なる時代が到来した。
 プラットフォームによって性質が異なるので単純には分けられないが、昔から続く市場ほど値段が固定的で、新しい市場ほど可変的なのは間違いないだろう。この柔軟性を進化と捉えることもできるが、基本無料ゲームの過剰な収益性が批判されることも多い。

 コンシューマの世界でも、コンテンツを追加して一本のゲームの収益性を高めようという試みはあった。しかしゲーマーの間では「有料追加コンテンツはがめつい」という認識が今でも強いように感じる。良くも悪くも、企業の過剰な収益性を抑止する風潮がある。しかしそもそも、一本のゲームが高い金額を取ることは果たして悪なのだろうか?
 例えば世界中で絶賛された「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」の定価は7千円強で、追加コンテンツを含めても1万円程度だ。数百人規模のチームが何年もかけて作った大作がこの金額で売られる横で、基本無料ゲームが1人数万・数十万円を吸い上げることもある。単純な比較はできないとは言え、「コンシューマのソフトは高くとも1万円以内」という評価が妥当なのか、再検討が必要だろう。
 ゼルダのような有名シリーズは世界中で売れるので利益も出るだろうが、中規模の企業・タイトルがこの売り方についていけるとは限らない。また、この環境でリスクの高い新規タイトルに挑戦するのは厳しいはずだ。ゲーム愛ありきで採算を無視しがちなインディー開発者たちも、利益が出なければ次が続かない。

 かと言って価格帯を引き上げればそもそもソフトが売れなくなる。固定的な価格には相場が付き物で、市場によって厳しく上限が敷かれるものだ。
 逆に可変的な価格には市場からの不信感がつきまとう。基本無料で利益を上げようとすると、プレイヤーにストレスを与えて払わせようという欲が働くからだ。
 これらの問題を乗り越えた、新しい売り方が必要とされている。すなわちプレイヤーの気持ちに寄り添った可変の金額を提示する仕組みである。

プレイヤーの評価を反映する「事後購入」

 僕は個人でゲームを開発していて、App Storeでプシュプというアプリを配信している。このゲームで提案しているのが「事後購入」方式だ。

 プシュプは無料でダウンロードでき、広告や回数制限などもなく好きなだけ遊べる。その上で、ゲームを気に入った人に任意のタイミングで支払ってもらう仕組みだ。ゲームを購入してから遊ぶのではなく、遊んだ後で購入する、という意味を込めている。

 事後購入の際には金額を定価・半額・倍額の3つから選ぶことができ、これがそのままゲームへの評価になる。定価を基準としつつ、軽く楽しんだ人には半額を、たっぷり堪能した人には倍額をお勧めしている。
 一律で定価を取る既存の販売方法は、冷静に考えてみるとかなり歪だ。数時間だけ遊んですぐに飽きたプレイヤーと、何百時間もやり込んでいるプレイヤーが同じ金額を支払っている。プレイヤーの好みを反映しているとは言い難い。

 別の見方をすると、今までの手法は収益を上げるチャンスを逃していたとも解釈できる。「このゲームちょっと興味あるけど、定価だと高すぎるしやめとこう」「このゲーム値段以上に楽しめてお得!」といった具合に、見えないところで過不足が生じているのである。
 事後購入は本当の意味で利益を最大化する。そのゲームを気に入る可能性のある全てのプレイヤーから、適切な金額を広く深く受け取るチャンスがある。ゲームの中身を確かめてから支払うこの形式なら、プレイヤーの評価と価格がずれることもない。
 プシュプが事後購入で目指すのは、この作品の身の丈に合った過不足のない利益を得ることだ。この試みがどこまで受け入れられるかは未知数だが、興味のある方は手に取ってみてほしい。

後から払う、を当たり前に

 基本無料形式が一般化する前、ゲームは最初に全額支払って遊ぶのが当たり前だった。売り手はその一度きりで利益を出さねばならず、なるべく価格帯を下げないよう必死に守らざるを得ない。結果的に、支払額を柔軟に変えられる基本無料ゲームに収益性で差をつけられた。
 基本無料ゲームは最初に支払う金額を最小化することで客層を広げ、プレイ後に支払う金額を増やすことで利益を巨大化させた。しかし無制限に大金を支払うこともできる課金システムは様々な問題を孕む。固定的な価格と可変的な価格、双方の良し悪しを見極めた上で、新しい構造を確立すべき時が来ている。

 例えばコンシューマの場合、今まで7千円で売っていたゲームをいきなり無料にするのはなかなか難しいだろう。そういった大規模なソフトを2〜4千円くらいで販売し、客層を広げてみるのはどうか。
 その上で、後から追加で支払える仕組みを整える。数千〜数万円の範囲でプレイヤーが金額を選び、ネット上で決済することで作品を評価する。追加支払いに対してちょっとしたおまけコンテンツを配ってもいいが、基本的には軽いお礼の範囲に留め、プレイヤーの任意性を保つようにする。
 重要なのは、そのソフトにどれくらい払ってほしいかを売り手が明確にすることだ。ゲーム内ではっきりとプレイヤーに訴えかけ、ゲームは安ければ安いほど良いという認識を変えていかなければならない。

 一般的に、ゲームの価値と売り上げは比例しない。「いいものを作れば売れる」といった言葉は幻想だとよく言われる。
 だがいいものに対してお金が集まる構造を作れば、ゲーム開発者が商品の中身に注力しやすくなる。プレイヤーの評価がダイレクトに売り上げに結びつけば、モチベーションも高まるだろう。

 当たり前だが、こういった任意の支払い方式はプレイヤーが積極的でなければ成立しない。優れたゲーム文化はお金があってこそ成り立つ。利益への認識を買い手にも広めていく必要がある。
 ずっと好きだった作品の続編が出ない、挑戦的なゲームになかなか出会えない...そんなモヤモヤを抱えているゲーマーになら、この記事の意図を理解してもらえるはずだ。

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