フェミニズムに対話は要らないのコピー

フェミニズムに対話は要らない ~対話すべき相手はひろゆきさんではありません~

※ひろゆきさんとのやり取りは見ずに、フェミニズムにおける対話不要論だけを読みたいという方は、「(6)対話で成功した社会運動がありますか?」までワープしてください。

(1)強引な単純化はネット論破勢の常套手段

本題に入る前に、まずは先日炎上したハフポストの企画「 #私たちのフェミニズム をみんなで語ろう」についてまとめたいと思います。専門家でなくともフェミニズムを語るという視点自体は私も大賛成です。

ですが、この記事でインタビューを受けたひろゆき氏は「フェミニズムって言葉を使わないほうがいい」「専業主婦はラク」のようなミソジニー発言を連発。それって思いっ切りアンチフェミニズムです。フェミニズムをテーマにしているのに、何故そんな人を呼んだのか?しかも初回に。

たとえば気候変動サミットで、石炭業界団体のトップや化石賞受賞者を基調講演に呼ぶでしょうか? 呼びませんよね。それくらいおかしなこと。批判が殺到するのも当然でしょう。私もその旨の批判をTwitterに書き込みました。

ところがこれに対して、ひろゆき氏は以下のように私に引用リプをしてきました。

男女平等にするには、男性も含めて多数の支持が必要です。
「こういう奴の話は聞かなくていい」が成立しちゃうと、
「女の話は聞かなくてもいい」とか
「女性の権利主張する人を呼ぶな」というのも成立しちゃうので、
平等派に損ですが、
故意にやってるのか、
頭が悪いのか、どちらなんでしょうか?

成功した様々なマイノリティ運動を長らく妨害してきた「マジョリティの支持が無ければ目的は達成出来ないぞ!」という脅迫的態度を見事にトレースされています。

おそらくご本人はダブスタを突いたつもりなのでしょうが、「フェミニズムの企画でアンチフェミニズムを語る人を呼ぶな」という趣旨の主張が成立したら、自動的に「女性の権利主張する人を呼ぶな」も成立するのでしょうか?んなわけありませんね。

彼は、前半部分の「○○という企画で」という前提部分をすっ飛ばし、後半の「○○な人を呼ぶな」だけを裏返している。こうやって物事を強引に単純化し、レンジやレイヤーが異なるものを同じ土俵に乗せることで、あたかもダブスタであるように見せるのは、アンチフェミニズム(というかネット論破勢)の常套手段です。

(2)イジメを無くすのに多数派の支持が必要ですか?

すると今度はこんな返信がやって来ました。

おいらの知る限り、民主主義の国は多数決の投票で法を決めるのですが、多数の支持者を集めるのが脅迫的態度であるという国の例を教えて貰ってもいいですか?

男女平等はとっくに日本国憲法に掲載されていますが、現実社会で平等化は遅々として進んでいません。また、既に多数派が支持している選択的夫婦別姓は法として実現していない。逆に多数派は支持していないはずのIRがガンガン進められてされています。

彼も民主主義や多数決が常に機能通りに動かないことくらい分かっているであろうに、男女平等の話になるとこうやって多数決という原則論を持ち出して突っぱねる態度が脅迫的なのです。

そもそも、石川優実さんがご指摘されているように、「男女平等って多数の支持がなくても達成しなきゃいけないもの」です。

たとえば、先生が生徒のイジメの現場を見て、被害者に対して「イジメをやめて欲しかったらクラス内多数派の支持が必要ですよー」って言ったらどう思いますか?

「いや、多数派支持とか関係無くイジメはダメだろ」ってなるでしょう。被害が発生している状況の中で、多数派の必要性を殊更に強調する態度は加害者擁護に他なりません。

というか、こうやってわざわざ他の人権問題を用いて説明しなきゃいけない時点で、女性の人権が軽視されて重要な社会問題として認識されていないってことなんですが。

(3)繰り出した反論がコラッタレベルで草も生えない

ここで話は終わりかと思ったのですが、あろうことか、ひろゆき氏はこのように「レディースデイの撤廃」や「男性専用列車の実現」の話を持ち出した記事を提示して、返信を求めて来ました。

男女平等を目指すのであれば、「レディースデイの撤廃」や「男性専用列車の実現」に賛成してくれると思うので、書いてみました。お返事お待ちしてますー。

今さらレディースデーと専用車両というコラッタレベルのお話を出すとはすごすぎます!「周回遅れが酷い」「Twitterでも底辺レベルの戯言」との批判が殺到していましたが、それをドヤァと繰り出せるとは…

あ、コラッタとは初代ポケモンで一番弱い野生ポケモンの一つですよ。賃金格差や痴漢問題という前提にある事象をまるっと無視した暴論には、もう飽きれて反論する気にもなりません。というか多くの方がコラッタ言説を瞬殺しておりましたので、私が出る幕はありません。

それに、私は映画館や飲食店のメンズデイも男性専用車両も別に反対しません。「現状が不利益だ」と感じた当事者の男性がやれば良いだけです。当事者ではない女性運動家が、運動を主導して「レディースディを辞める運動を一緒にやりましょう」とか「男性専用列車を作る運動に参加してください」と呼びかけないのは当然です。

そもそも、そうやって女性に重荷を背負わせるのも使い古された女性差別の言説です。男性である私に対して「平等目指すのに何でフラワーデモを主導しないのか?結局男性優遇だろ!」と言う女性は見たことありませんが、女性に対して「平等目指すのに何でレディースデー撤廃を主導しないのか?結局女性優遇だろ!」と言う男性は杉花粉の如くいます。「女は男のお世話をして当然」という彼らの家父長制意識が見え見えです。

そもそもそもそも、給料も男性社員に倍近く配分されるこの社会は毎日がメンズデーですし、医学部の入試も点数増し増しにしてくれるメンズデーですし、性暴力から身を守る自衛コストがほぼ不要な毎日もメンズデーですし、日本の社会のあらゆるところにメンズデーばかりなのに、僅かなレディースデーをやり玉にあげちゃうのはやはり視点が女性差別者だからでしょう。

(4)不平等是正を優遇と捉える既得権益の心理

そうするとさらにビックリな返信が届きます。

つまり、男性が男性だけを優遇する措置をやるのは賛成と。

えーっと、専用車両が優遇、つまり女性専用車両は優遇ということでしょうか? 痴漢被害をまるっと無視したこの言説にも非難轟々でしたが当たり前でしょう。

それにしても「優遇」という言葉の使い方がいかにも昨今のポピュリズムっぽい。インセルや「在日特権ガー!」と言っているレイシストにも非常に近しいものを感じます。いわゆる「相対的剥奪感」というやつですね。

ところが、これに対して彼の支持者と思われし人々から、「つまり僕ら男性はフェミニズムを支持しなくて良いんですねwww」と歓喜のクソリプが殺到します。

一瞬彼らが何を言っているのかよく分かりませんでしたが、ここでもまた物事を単純化するひろゆき氏の論法が、彼らの単純な思考回路には見事にハマっていることに気が付きます。

つまり、『(男性専用車両の導入等は)不利益と感じた当事者の男性が始めればいいだけで、当事者ではない女性運動家が「やりましょう」と言わない』という私の発言を、ひろゆき氏は『女性の問題は女性だけがやり、男性の問題は男性だけがやれば良い』のようにガラッと置き換えているのです。

社会運動というのは当事者が中心となり、非当事者も巻き込んで活動するもの。男性である私もフェミニスト(男女平等主義者)だし、こうして構造的な問題を指摘する役割は担えるものの、決して運動を主導的立場で行う「フェミニズム運動家」にはなり得ません。

「やりましょう」や「参加してください」のような呼びかけをする主導的立場に就くべきはあくまで被害当事者だという話なのに、それを「非当事者は参画そのものをしなくて良い」と捉えるなんて、彼は読解力もコラッタレベルなのか、読解力コラッタレベルな人々のために意図的にやっているのか…

とりあえず、こういうちゃぶ台返しして勝った気になれるための論法を「ひろゆき弁」と名付けて、一人で勝手に使うことにしました(※「詭弁」というのをかけています)。

(5)彼らがしているのは論破じゃなくて論理的に破綻

こうして、ひろゆきさんが発言すればするほど、何の革新性もない使い古された性差別主義者の言い訳や偏見をトレースしているだけで、むしろフェミニズム的にも社会運動的にもどんどん破綻していて、自爆にしか見えないんですが、彼による私や石川優実さんへのリプライを「論破ダー!」と捉えている人がめちゃくちゃいます。

そうしてこの見解にすら、「破綻しているのはお前らだー」とクソリプが付く始末(笑)そしておそらくこの記事についてもクソリプがたくさん付くことでしょう。「あー、これが反知性主義というやつか…」というのを改めて感じた次第です。

「論破」の意味を「議論の際に的確な"論"証をすることで相手の説を打ち"破"ること」という意味ではなく、「内容も文脈も構造も無視して良いから、何かしら相手を否定することを言って、議"論"や会話そのものを"破"綻させること」だと思い込んでいるから、彼らは今日もクソリプ送るんだろうね。これならどれだけ頭悪くてもできるもんね。

でもまぁ弱々しいクソリプに私が晒されるくらいなら全然構わないのですが、今回の一件でフェミニズムを全然分かっていないはずの彼らが、ひろゆき氏の記事を読んで、「これこそ分かりやすいフェミニズムの記事だ!」と称賛して、「お前らは全然ダメ」的にフェミニストを称する女性を叩く材料として利用するバックラッシュ現象が多々生じています。

今回の企画者である髙崎順子さんは「現代日本のフェミニズム周辺には、(中略)バックラッシュもあります。私自身(中略)それを非常に残念に思っています」と書いているものの、ご自身の記事がバックラッシュの材料にされてしまったことをどう思っているのか、お伺いしたいところです。

(6)対話で成功した社会運動がありますか?

さて、今回例示したハフポストの企画は、「どんな意見もいったん否定せず、耳を傾け合う」という趣旨のもとに、対話を試みる企画だと思うのですが、フェミニズムをはじめ、社会運動に対話は必要無いというのが基本だと思います。

ここから先は

3,046字

¥ 150

現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱っています。社会がちょっとでも良くなることを願って、今後も発信に力を注いで行こうと思うので、是非サポート頂けると嬉しいです。