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【読書メモ】いつも「時間」がないあなたに 欠乏の行動経済学

さいきんまた行動経済学熱が高まってきました。お値段の割にとてもおもしろかったです。

ざっくりまとめ

・欠乏とは、自分の持っているもの(時間、お金、人脈、実力...)が必要と感じるものよりも少ないことである
・トンネリングとは、目先の欠乏に対処・対応することだけにひたすら集中することである
・処理能力とは、問題解決や論理的推論などを担う「認知能力」と計画立案や衝動の制御などを担う「実行制御力」の2つの要素がある
・トンネリングによって処理能力に負担をかかり、他に重要かもしれないことを意識の外に追い出してしまう
・スラックとは、ゆるみ・たるみを意味し、欠乏を吸収することで影響を最小限にとどまる効果がある(お金のスラック、時間のスラック)
・スラックは無駄でもあるが有益でもある(その区別はときには難しい)
・個人だけではなく、組織もまた欠乏の罠・スラックの不足・処理能力の低下に陥る

感想

発展途上の科学とはうってるものの、この本を読むと以下のことがわかります。

・消防隊員の交通事故による死因の原因でシートベルトを占めていないことが原因であることが高いのはなぜか
・貧困者はなぜより安全な金融商品を利用せずに借金することを選択してしまうのか
・いつも手術室が一杯状態の病院で残業時間を減らした意外な策とはなにか

たとえば8時間労働する場合に、みっちり8時間の工数を記録しているしたら、それは時間のスラックが全くない状態=処理能力に負荷がかかっていることになるので、あまり良い状態とは言えないようです。

最近は週休3日制や6時間労働を取り入れる企業があったと思いますが、これらはスラックを増やすことになるので、実はかなり効果があるのかもしれません。

ちなみに個人的に当てはめると以下のような感じでした。

・転職したことでお金と時間のスラックが増えた
・リモートワークが増えたことで時間のスラックが減った(仕事しがち)
・マルチタスク量が増えたことで日々の処理能力への負荷が増えつつある

メモ

欠乏は、持っているものが足りないという不満だけではなく、無意識に思考と注意を占拠してしまう。限定的な強みを発揮するため、差し迫ったニーズにはうまく対処できるかもしれないが、それ以外のことをほったらかしにしてしまい、他の面の能力が低下する。

貧困について考えるときに金銭に注目してしまう、あるいは孤独について考えるとき、時間や友人関係の不足について考える。しかし、もっと抽象的なレベルで欠乏が処理能力の不足を引き起こしている。処理能力は行動のあらゆる面に影響する。

締め切りが有効なのは感覚ではわかっていたが、その時間の欠乏によるものだというのはとても腹落ちする。実際に締め切り1週間前より締め切り前日の方が圧倒的に時間の欠乏状態になる。結果的に集中はできるものの、他のことは一切できない。トンネリングを引き起こすと、それ以外のこと(もしかしたらもっと重要かもしれないこと)を、トンネルの外へ追いやってしまう。マルチタスクはトンネリングの調光である。時間の節約はできるが、代償が伴う。

誘惑に抵抗する能力、注意を払う能力、賢明な判断をする能力などを包括して処理能力という言葉を使う。処理能力はトンネリングに寄って負担をかけられる。外的な要因(騒音やテレビなど)だけではなく自身の思考(これは無視ができない)によって、欠乏による内因性の混乱を生み出す(マインド・ワンダリング)。

処理能力に負荷をかけられると、衝動が抑えられなくな流動性知識の低下だけではなく、自制心を弱める可能性もある。そして貧困は処理能力への負担を大きくする。貧困者は富裕者よりも処理能力が低いが、これは彼ら自身の能力が低いわけではなく、欠乏によって処理能力に常時負荷がかけられているからである。負荷をかけられると、少ない心的資源でなんとかやりくりしていかなくてはいけない。

スラックは、スーツケースの余った部分のスペースを意味する(本来はゆるみ・たるみ)。時間のスラックやお金のスラックがあり、貧困者はこのスラックが少ない。あまり忙しくない人は、スラックが間違いを吸収するので、影響は最小限にとどまる。それに引き換え多忙な人は、そう簡単にそこから抜け出すことはできない。追加の1時間を捻り出すにしろ、同じ間違いにしろ影響が大きくなる。

欠乏状態にあると失敗できる余裕がないだけではなく、失敗する場面が多いとも言える。スラックがあると豊かさを感じられる。スラックはたんなる非効率ではなく、心のぜいたくでもある。お金のスラックがあれば、何かを買う場合、他の何かをあきらめなくてはいけないと感じることがない。時間のスラックがあれば、他のタスクに気を取られずにタスクをこなすことができる。スラックは無駄であるとともに有益でもある。その区別はとても難しいい場合がある。

貧困者の方が経済学のモデルにより近いが、人がたびたび経済学の予測通りにならないからこそ行動経済学が誕生した。専門知識をもたらす集中はトンネリングを伴い、さまざまなマイナス影響を及ぼす。

欠乏を経験する人は、今経験するだけではなく、たいていは後でも経験する。今起きている欠乏がトンネリングを生み、人を近視眼的な行動に導くが、これは個人の怠慢や特性ではない。怠慢が貧困を引き起こすのではなく、貧困が怠慢を引き起こす。欠乏を改善するには環境を変えたり、人の心理作用への理解が解決への道となる。

人は時間やお金については考えるのに、処理能力については考えない。知力のリズムについて知らない。一見無駄とも思えるゆとりが欠乏から守ってくれることを理解しなければならない。

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