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Eスポーツ産業におけるビジネスモデル(興行企業編)

※本ドキュメントのPDF版も用意しています。こちらからダウンロードしてください。PDF版には脚注を記載しているのでより完全な形でドキュメントをお読み頂けます。お問い合わせは但木のTwitter(@k_tadaki)までお願いします。

目次 
 
 1. 興行システムの構築
 
  1-1. 興行システムの目的
  1-2. 興行企業とマネジメント企業の役割
  1-3. 収益配分
  1-4. スポンサーとの協業
  1-5. 著作権許諾

 2. 具体的なビジネスモデル

  2-1. 伝統的な競技にならい進化させる
  2-2. 興行企業の分類
  2-3. チケット収入
  2-4. 放映権収入
  2-5. ゲーム内課金
  2-6. 統合ID

1. 興行システムの構築

1-1.  興行システムの目的

本ドキュメントは、日本におけるEスポーツ産業の発展に向けて、各ステークホルダー(メディア、スポンサー企業、興行企業、マネジメント企業)が持続的に投資並びに運営を続けるために充分な収益を上げるため、包括的な興行システム構築を目指すための方法論を模索するものである。

2018年2月の日本eスポーツ連合発足以降、国内Eスポーツ産業はめまぐるしく変化している。大手企業がスポンサーシップに名乗りを上げ、全国の高校生を対象としたEスポーツ大会が発表され、Eスポーツをテーマに据えたテレビ番組も多数開始された。”Eスポーツ”という言葉の一般的な認知度は41.1%であり、2017年から2018年にかけて約3倍に増加した 。

国内の注目度が高まり、ステークホルダーが増える一方で、産業がこれらのステークホルダーを支えるだけの収益性を担保できているかという問題については疑念が残る。

2017年時点での国内の市場規模は5億円未満と推定されている 。チケット、放映権といった興行を支える分野で収益を上げている企業が少なく、スポンサーシップにおける収入で興行に係る費用をわずかに補填しているばかりである。

高額賞金を設定し、大規模施設を借りて興行を開催している企業の多くはモバイルゲーム運営企業であり、プロモーションの施策として大会を開催している。これらの企業にとっては認知拡大・販売促進が主となる目的であり、収益性(黒字化)を追求せずとも大会を運営する動機がある。

しかし、産業を発展させるためには、収益性、すなわち“儲けること”が重要である。サッカー、野球、将棋、プロレスといった伝統的な興行においては、収益の源泉を確保し、そこからステークホルダーの隅々まで行き渡らせる“儲ける”仕組みが確立されている。これらの興行に倣い、規模を拡大し、広く人口に膾炙し、多くのステークホルダーをひきつける産業へと発展させるためには、ステークホルダーそれぞれが“儲ける”仕組みが不可欠である。

それでは収益性を伴った持続可能な仕組みづくりには何が必要だろうか。

本ドキュメントではその手がかりを包括的な興行システムの構築に求める。システムとはすなわち、産業に参画するステークホルダーが異なる役割を担いつつ、互いに連帯することで、興行価値を高め、収益を上げ、更に多くのステークホルダーを巻き込むことである。これは1社単体が収益の最大化を求めて行動するよりも、その収益をステークホルダーに配分することで、システムが成長し、結果として1社あたりの利益が最大化される、という仮説に基づく。この仮説は筆者独自のものではなく、先に触れた歴史ある興行並びに海外Eスポーツ興行の仕組みを紐解けば導かれる定石だと考える。

近年興行としての産声を上げた国内Eスポーツ産業ではこのような先人達の知見が共有されているとは言い難い。黎明期にある産業では多くの企業を巻き込んだ仕組みを確立することに着手すべきであるが、企業それぞれが十分な連帯をはからず、個別の収益を求めて行動している結果、どの企業も儲からないというジレンマに陥っている。

企業が個別の収益よりもシステムに寄与するよう活動すること、ステークホルダーを巻き込んだ水平統合型のビジネスを目指すこと、その方法論を本ドキュメント通じて詳らかにする。

1-2.  興行システムの目的

Eスポーツ産業の主たるステークホルダーは興行企業(パブリッシャーや興行専門企業)とマネジメント企業(チーム運営企業)である。この2つの主体がそれぞれの役割を担って事業を展開することで、興行が機能する。

2つの主体が達成すべき目的は「コンテンツ価値の最大化」である。競技の質を高め、競技を観る人を増やし、その集客力を武器により多くのステークホルダーをひきつけることで、興行が成長する。

マネジメント企業の役割は集客である。卓越した技術を持った選手に活躍の機会を提供し、ファンをひきつけ、オンライン(主に動画配信サービスを通じて提供される)・オフライン(大会会場で提供される)コンテンツに誘導する。

興行のファンは競技そのものより、チームや選手にひかれてファンになる。調査会社のニールセンによれば、中国・韓国・日本において「Eスポーツファンになったきっかけ」を調査したところ、図表1.1の通り、日本では競技者(プロ選手のみならずストリーマーも含む)を通じてEスポーツのファンになる、という傾向が顕著であった。韓国では「友人や家族」、中国では「特定ゲームへの関心」の項目が順位の先頭にくる。

 図表1.1: Eスポーツファンになったきっかけ

興行企業の役割はチーム・選手に活躍の機会を提供することである。競技ルールを設計し、チーム・選手が露出できるようメディアにパイプを作り、興行に収益が流れる源泉を確保することを目的として活動する。パブリッシャー自体が大会を運営するケース、パブリッシャーからライセンスを許諾してイベント企画・運営企業が運営するケースのいずれにおいても、この役割に大きな相違はない。

2つの主体は興行を機能させるための車輪であり、それぞれがシャフトでつながっている。チーム・選手の供給なくして興行は成り立たず、ルールや露出機会なくしても興行は成り立たない。韓国の『Ongamenet Starleague』の成功はイム・ヨファン(BoxeR)やそのあとに続くスター選手たちの活躍なくしてなりえず、『Intel Extreme Masters』の成功もFnaticといったチームの活躍なくしてなりえなかったのである。

1-3. 収益配分

興行企業とはコンテンツ価値の最大化を図る源泉としてマネジメント企業と一体となってシャフトを回転させ、興行を運営していかなければならない。その手段として伝統的な競技では利益配分の方法を採択している。

例えばアメリカンフットボールリーグの参画チームはリーグ全体の媒体収入、放映権収入、入場料収入といった項目の配分を受けることができる。財務上のセーフティーネットを設けることで、マネジメント企業が選手強化に注力できる仕組みである。選手強化が進めば全体的な競技レベルが向上し、より多くのファンを引き付ける魅力となる。

日本における代表的な競技であるJリーグについても、「Jリーグ配分金」や「強化配分金」と呼ばれる項目で配分金が支給される。DAZNを運営するパフォーム社による高額な放映権契約締結により、配分金額は増加している。

Eスポーツ産業においては、アクティビジョン・ブリザードが運営する『Overwatch League』において、リーグ・チーム間での利益配分の仕組みが存在する。アメリカンフットボールやバスケットボールといった伝統的な興行にならった高度なリーグ設計は多くのチームのリーグ参画を誘引しており、リーグに参画するフランチャイズ権の獲得には2,000万ドル以上の費用を要すると言われている 。

興行の黎明期にある日本のEスポーツ産業においては、マネジメント企業の多くが副次的な事業としてチームを運営している。つまり、収益をもたらす主要な事業を持ちながら、プロモーション施策の一つとしてチームを保有している。副次的な事業に投下可能な資本は限定的であるため、伝統的な競技のリーグ参画チームと比較できるような規模で収益を上げているチームは国内には登場していない。集客、つまりファン獲得に対する投資もままならず、それが結果として興行全体の成長を阻害している。

チームの財務力の引き上げ、そして財務力を駆使した集客機能の強化という興行のシャフトを回転させるには、収益を配分する仕組みが不可欠である。『League of Legends Japan League』、『PUBG Japan Series』といったリーグ式の大会においては、参加チームが固定され、チームに対する補助金が支給されるなど、財務面でのサポートが行われているが、この動きを更に強化していく必要があるだろう。

収益の源泉すらままならない現状の興行システムでは、マネジメント企業の財務力を底上げし、各社が選手強化・集客に注力できる環境を提供しなければならない。例えばアメリカンフットボールリーグでは、チームの収益全体に対する分配金の割合はおよそ70%であり 、興行とマネジメントが単一事業体のように経営していく形態は“シングルエンティティ”とも呼ばれる。リーグ参画の条件を明確に定義した上で、護送船団を組み、チームと興行が一体となって成長するモデルを確立する必要がある。

1-4. スポンサーとの協業

興行企業とマネジメント企業が一体となり利益を配分して成長すべきという議論と同様に、利益配分並びに関連ビジネスをリソースとした興行企業とスポンサー企業の協業の形を模索していくべきである。興行というコンテンツに対して複数の企業で取り組み、それぞれの企業がコンテンツを用いたビジネスを展開することで、興行規模は拡大する。

Eスポーツチームの名門Fnaticは2004年に設立され、『Quake』や『Painkiller』といったタイトルのコミュニティ大会に参加する小規模なチームから、『Counter Strike』や『League of Legends』といったタイトルの世界大会に参加する世界屈指のチームに成長した。その源泉となったのはブランドイメージのコントロールと、そのブランドを元にしたビジネスの展開である。Fnaticはユニフォームといったアパレルから自チームのロゴを冠したPC周辺機器まで販売しており、ブランド力を武器にさまざまな事業を展開している。

オイルライターの製造・販売を行うZippoは2018年5月に格闘ゲームを中心に活動しているチームPANDA GLOBALとスポンサーシップ契約を締結した 。ZippoはPanda Globalのロゴを付したオイルライター製品を販売し、自社のTwitterアカウント(@Zippo_Gaming)で販売促進を行っている。

Eスポーツの興行はゲームタイトルを用いた二次コンテンツではあるものの、興行が拡大するにつれて、興行そのものがコンテンツとして魅力を増していく。活躍するチームや選手が人気を獲得すれば、コンテンツを利用した多様な製品・サービスの開発ができる。興行企業はコンテンツ価値を把握し、副次的なビジネス可能性を企画し、スポンサーと協業の形を見出す必要がある。興行企業が単独で行うのではなく、他の企業に対して機会をオープンにする(興行をもとにしたビジネスを許諾する)ことで、より多くのビジネスイノベーションが期待できるだろう。

1-5. 著作権許諾

伝統的な競技においては、プロ選手が活躍する大規模大会のみならず、アマチュアのプレイヤーも参加可能な小・中規模大会の開催数を増やすことで、興行を支えるコミュニティを形成してきた。野球であれば少年野球から社会人の草野球まで全国各地で草の根の大会が開催され、これらの大会がプロ野球というハイレベルな大会への導線となり、日本有数の興行へと成長した。

Eスポーツにおいても、企業や団体による小・中規模大会の需要が高まりつつある。とくに、首都圏から離れた各地方がEスポーツ団体を立ち上げ、大会開催へと動き始めている。北陸、九州、北海道といった地域で草の根のEスポーツ活動が注目を集め、地元の新聞社、放送局といったメディアがこぞって彼らの活動を報道している。

パブリッシャー以外の企業がEスポーツの大会を開催する際に直面する課題が著作権の許諾である。大会を企画する際には、企画書をもってパブリッシャーと交渉し、許諾を獲得しなければならない。複数のゲームタイトルを使用する場合はそれぞれのパブリッシャーに対して同プロセスを踏まなければならない。

これはパブリッシャーが配慮しなければならない課題である。ハイレベルな大会のみならず、ファン形成の基盤となる中小規模の大会にも目を向け、彼らが運営しやすい仕組み、つまり明確な著作権許諾のプロセスを提供する。裾野を広げる作業は、興行システムの根幹であり、結果としてビジネスの重要な顧客を育てることにもつながる。スポンサーとの協業と同じく、システムをオープンにすることが重要である。

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2. 具体的なビジネスモデル

2-1. 伝統的な競技にならい進化させる

Eスポーツはサッカーや野球といった伝統的な競技と同様に「コンテンツ価値を最大化」することで、競技を観る人を増やし、より多くのステークホルダーをひきつけることができる。興行企業は伝統的な競技が採用してきた様々な手法を学び、それらを用いたビジネスモデルを構築していく必要がある。

図表2.1はSuper Dataが試算したEスポーツ市場規模並びに各収益項目が全体に占める割合である。「スポンサー&広告収入」は74%を占めるが、これは野球、サッカーといった伝統的な競技興行と比して高い割合といえる。言い換えると、伝統的な競技興行が確立している興行のマネタイズ手法(チケット販売などのその他の収入項目)がEスポーツ興行では未だ十分に実現できていない。

図表2.1: Eスポーツの収益項目

Eスポーツはゲームを用いた競技であるから、ゲーム特有のマネタイズ手法をビジネスモデルに組み込むこともできる。ゲーム産業がパッケージの売り切り販売モデルから、Eコマースを用いた多角的な販売モデルへと進化したように、ゲームというデジタルコンテンツの特徴を生かした手法をEスポーツ興行へ応用できる。例えば『Dota 2』の世界的な大会である『The International』はユーザーからのアイテム課金をプールすることで高額賞金を実現している。

Eスポーツの興行企業は伝統的な競技興行の手法とゲームの特徴を組み合わせたビジネスモデルを構築することができる。多くの企業がEスポーツ興行に興味を示し、投資を行っているのは、これらの手法を組み合わせたビジネスモデルが大きな成長可能性を秘めているからに他ならない。

2-2. 興行企業の分類

興行を行う企業は主にパブリッシャー、興行専門、協会に分類される。それぞれの代表的な大会は図表2.2の通りである。

図表2.2: 興行企業の分類と代表的な大会

アクティビジョン・ブリザードやテンセントといった巨大資本を有するパブリッシャーはEスポーツ興行に多額の投資を行っている。世界各地で専用のアリーナを建設し、定期的に大会を開催してきた。

ゲーム産業がより高度で複雑な技術を用いてタイトルを制作するようになると、タイトル1本あたりの制作費は高騰、伴って、タイトルを販売するためのプロモーション費用も高騰した。パブリッシャーはテレビCM、ソーシャルネットワーク、動画配信サービスといった多様なチャネルを駆使してユーザーの興味をひきつけ、マネタイズを図るようになる。パブリッシャーにとってEスポーツは話題をつくり、ユーザーをひきつける強力なマーケティング手段の1つである。

興行を専門とする企業による大会も多く開催されている。『World Cyber Games』や『OnGameNet Starleague』といった黎明期のEスポーツ大会はパブリッシャーではない企業によって運営されてきた。ゲームというコンテンツを競技化し興行にまで発展させてきたのはこれらのコミュニティや中小の企業であり、彼らの草の根の活動である。

ESLが運営する『Intel Extreme Masters』は興行専門企業による代表的な大会である。半導体メーカーであるインテルが出資し、ESLが運営を行っている。Eスポーツはスペックの高いPCを用いて行われるため、興行が普及しプレイヤー人口が増加すると、高価な半導体の需要が高まる。インテルのみならず、NVIDIA、サムスンといった半導体メーカーがEスポーツに多額の投資を行っており、興行専門企業がそれらの資本を用いて大会を開催している。

近年注目を集めているのは協会主導型の大会である。2018年8月にはインドネシアで『第18回アジア競技大会』が開かれ、『ウイニングイレブン 2018』、『クラッシュ・ロワイヤル』、『StarCraft II: Legacy of the Void』、『ハースストーン』、『リーグ・オブ・レジェンド』の5タイトルがデモンストレーション競技として採用された。

オリンピック種目への採用についても議論が進んでいる。国際オリンピック委員会により採用に否定的な意見が提出されるなど 紆余曲折はあるものの、オリンピック種目への採用はEスポーツの競技的な地位を高めることが期待されるため、業界の待望論も根強い。

2-3. チケット収入

競技興行の収入で大きな割合を占めるのがチケット収入である。世界のEスポーツ興行ではチケットを販売し、試合を観戦させるEスポーツ大会が多く開催されている。図表2.3は主な大会とチケット価格をまとめたものである。

図表2.3: 主要な大会のチケット価格

SuperData社の試算によれば、2016年のグローバルでのEスポーツに係るチケット収入は3,600万ドルになるが、これは北米の競技興行におけるチケット収入の0.2%程度に過ぎない 。Eスポーツの興行は成長軌道にあるものの、興行の中核となるチケット収入において、大きな果実を得られていない。

世界の興行企業はオフラインでの集客拡大並びにチケット収入拡大を目指し、大規模スタジアムを借り切った大会の開催、専用アリーナの建設といった方向に舵を切り始めている。『Intel Extreme Masters』はポーランドのカトヴィツェにある多目的アリーナを借り切って行われている。テンセントは韓国のソウルに『リーグ・オブ・レジェンド』専用のアリーナである『LOL PARK』をオープン。また、アメリカテキサス州のアーリントンにはEスポーツ専用のスタジアムが誕生した。

競技興行においては土地や建物がファンを引き付ける大きな要因となる。具体的には“スタジアム”がファンにとっての聖地となり、チームや選手に対する愛着を生み出す。プロ野球におけるフランチャイズ(地域保護権)やサッカー、バスケットボールにおけるホームタウン制度はこの愛着を生み出すための仕組みである。

イギリスでEスポーツアリーナを複数展開するBelongは、支店を作る際に各所に紐づくチームを組成する。2018年8月にロンドンでの支店オープンにあわせてチームLondon Stratfordを組成した。Belongの各チームは同社が運営する『Arena Clash』に参加し、頂点を競う 。

大規模スタジアムの建設には多額の投資を必要とするが、Belongのように都市型の小規模なアリーナを複数建設し、それぞれをチームの“ホームタウン”として機能させることで、ファンの愛着を生み出し、またアリーナを訪れるファンにチケットを販売することもできる。大小問わず、興行企業はファンにとっての“聖地”を生み出す施策を講じていかなければならない。

オフラインでのチケット販売のみならず、オンライン視聴に対するチケット販売を模索する企業もある。アクティビジョン・ブリザードが運営する『BlizzCon』は6,000円でバーチャルチケットを販売している。チケットには、近日リリースするゲームのデモプレイ権、大会のマルチチャンネル化、オリジナルコンテンツといった特典が含まれている。『BlizzCon』の会場に訪れることができないファンに対してオンライン上での特別な体験を提供することでマネタイズを行うという先進的な事例といえるだろう。

2-4. 放映権収入

2007年に始まった『Championship Gaming Series』はNews Corp.傘下のDirecTVによって運営され、同じくNews Corp.傘下のBritish Sky BroadcastingとSTAR TVを通じて全世界に放送された 。リーグ運営者はテレビ放送によって競技人気を高めるという手法をポーカーとエックスゲームズから学んだという 。ゲーム業界に存在するコミュニティへの配慮(例えばコミュニティで人気のある人物のキャスティング)を行いながらも、テレビというマスメディアの力を用いて、Eスポーツ興行を一般社会に浸透させるべき戦略を講じていた。

興行企業の多くはテレビの放映権販売を大きな可能性として認識している。アクティビジョン・ブリザードはディズニーと『Overwatch League』の放映に係る契約を交わし、ESPNを含むディズニー傘下のチャンネルでのテレビ放送を行っている。アクティビジョン・ブリザードはTwitch、Twitterとも放映権契約を交わしており、テレビとWEBの両媒体を通じた包括的な放送スキームを構築しようとしている。

監査法人PwCによれば、競技興行の収益項目において向こう3~5年でもっとも高い成長率が見込まれているのはデジタルメディア著作権の取引である 。視聴者層が若くなるほど、テレビ以外のスクリーンデバイス(スマートフォンやPC)を用いてコンテンツを楽しむ傾向にあるため、WEBを通じた競技コンテンツの著作権許諾ビジネスが益々発展していくとみられる。Eスポーツは他の競技と比して、動画配信プラットフォームをはじめ、WEBを通じた配信、消費、共有される機会が多く、先頭を切ってこのスクリーンシフトをけん引していくコンテンツといえるだろう。

興行企業は (潜在・現在含めた)ファンのデモグラフィック・サイコグラフィックの傾向を把握し、幾多有るコンテンツの配信方法を俎上に載せ、それぞれのメリットを検討しなければならない。複数チャンネルでの配信(いわゆるサイマル放送)を行うが、チャンネル毎に異なるコンテンツを配信するといった方法もある。大会生放送のみならず、アーカイブのダイジェスト放送、選手・チームへのインタビューなど、コンテンツに付加価値をつけ、オンラインチケットなどの方法を通じてマネタイズを図るといった方法も考えられる。

2-5. ゲーム内課金

ゲームはパッケージの売り切り販売モデルから、1つのタイトルを長期間遊んでもらうために追加コンテンツを提供する多角的な販売モデルへと変化を遂げている。ゲームの課金要素は以下のように整理できる 。

・ゲーム内アイテム
・ゲーム内通貨
・ルートボックス(ガチャ)
・キャンペーンモード
・マルチプレイモード
・シーズンパス
・バトルパス
・MODの公式化

ゲーム内課金は他の競技興行にはまねできないゲームならではのマネタイズ手段であり、更に強力である。Valveが運営する『Dota 2』の大会では、バトルパスを販売し、その販売金額をプールすることで高額賞金を実現している。2018年の大会では1億ドル近くの収益を出し、その25%を賞金プールへ加算した。

Eコマースを介することで、全世界のプレイヤーが同時にゲーム内課金を行うことができる。日本の地域で行われる大会にあわせたDLCに対して、世界中のプレイヤーが課金する可能性もある。『Shadowverse』は新しいカードパックの販売にあわせてEスポーツ大会である『RAGE』を開催し、大きなプロモーション効果を上げている。リアルイベントを通じて話題を作り、DLCでマネタイズするというモデルを確立できれば、デジタルコンテンツは制作原価を安く抑えられるため、グッズ販売に収益性の高いマネタイズ手段になる。

2-6. 統合ID

2016年に立ち上がったバスケットボールのプロ大会であるB.LEAGUEでは顧客データを興行企業に集約する統合データベースを構築した 。顧客は1つのIDを用いてチケット購入、ファンクラブへの入会といったB.LEAGUEに関するサービスを受けることができる。B.LEAGUEではこれらのユーザーIDに紐づくデータを分析することで、顧客の体験を可視化し、隠れたニーズを見つけ出し、リーグ運営に活用している。

Eスポーツ興行のファンはパブリッシャー毎のユーザーID、動画配信プラットフォームのIDといった様々なIDを保有し、興行コンテンツを消費している。パブリッシャーはゲームのプレイ体験を一つのプラットフォームで実現することに対して多額の投資を行っているが、Eスポーツの体験(ファン活動)をプラットフォームに統合することはできていない。『ESL Play』、『Battlefy』、『smash.gg』といったマッチングサービスが大会へのエントリーやコミュニティ形成といったサービスの統合をはかっているが、未だ覇権を握るようなサービスは登場していない。言い換えれば、興行企業はEスポーツ体験に係る統合的なID・サービスを構築することでユーザー体験を自由に設計できる。

前述の通り、Eスポーツはスクリーンシフトをけん引するコンテンツであり、WEB、とりわけスマートフォンとの親和性が高い。スマートフォンを軸としたファン活動に係るサービスの統合を行えば、ユーザーにとっては利便性が大幅に向上し、更に興行企業にとってはファン活動の実態を時系列に沿ってトラッキングできるようになる。統合IDの実現はデータを駆使したマーケティング分析、そして分析を通じた打率の高いビジネスモデルの形成に不可欠な要素といえるだろう。

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プロデューサー。WIREDで『ゲームビジネスバトルロイヤル』を連載中。

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