ヴェイパーフライ考察
最近の記録ラッシュの背景にあると考えられているこのシューズについて自分なりに考察してみた。
ヴェイパーフライについては相反するような2つの都市伝説がある。
「ある程度の競技レベルがないと履きこなせない」
「日本トップレベルの記録はそこまで変わっていない」
※ここでは5000mで13’30、10000mで28’00とかを指す本当にトップの話。主にトラック。
自分の考えでは、どちらもある程度正しいのでは思う。
以下憶測だが、結論から言うと、ヴェイパーフライの恩恵を1番受けられるのは5000mで14’00〜16’00くらいの層ではないかと思っている。つまり高校大学の部活でやっている選手から実業団レベルに該当する。
競技レベルがそれ以下の場合、生理的能力(いわゆる”体力”)がボトルネックになっていて記録が伸びていない場合が多い。また、筋力的にも使いこなせないこともある。
一方、超トップクラスの選手の場合、ヴェイパーフライを履かずとも効率よく身体を動かせていて、シューズが担うバネ機能も自分の身体で十分担えていると考えられる。つまりヴェイパーフライを履くことによるプラスはそれほど大きくない。
5000m14'00~16'00の層に関しては、「生理的能力は高いが、走りの効率が悪くて結果がついてこない」という人がかなりいるはずだ。体力レベルは十分に高いが、それを生かすだけの身体の動きができていない人。それらの選手のボトルネックを解消するシューズがヴェイパーフライであったと考えている。
なぜなら、ヴェイパーフライは「フォーム矯正シューズ」という面が大きいと考えるからだ。
ヴェイパーフライを履いた人の多くが、
「脚が自然と前に出る」
というが、まさに脚を前で捌いていく走りに変化していく。上から下に力を伝えて、後ろに蹴らない走りだ。短距離走ではこの走りを習得することが重要視されているが、長距離走ではそこまで重要視されていなかった。実際、論文でもヴェイパーフライが従来のシューズに比べて鉛直方向の力が大きくなったデータがあるので、あながち間違いな考察ではないだろう(Wouter et al., 2018)。
Twitterでもそれらしいことを呟いたことがある。
記録を大きく短縮した選手は、シューズ自体の性能はもとより、中長期的に使用することによるフォーム改善がかなり大きく働いていると考えている。
仮に、ぶっつけ本番でヴェイパーフライを履くとしたら、それに適したフォームの方が恩恵を受けられるだろう。蹴る走りの人はグリップが小さいぶん心地悪く感じるはずだ。ちなみに論文では「接地時間の短い人の方がヴェイパーフライの恩恵を受けやすい」というデータがある(Lain et al., 2019)。
(本題とはずれるが、一般には接地時間とランニングエコノミーの関係はそれほどないというデータもある(Thibault et al., 2018)。接地時間短い=絶対良いというわけでもなさそう。ケニア人は接地時間長めらしい。)
しかし中長期的に考えた場合、効率の悪いフォームだった人がフォーム改善されることで得られるプラスの方が大きくなると考えている。最初は自分の走りに合わなくても、シューズに走りを合わせていくだけで良い走りを習得できる可能性がある。
スパイクとヴェイパーフライどちらがトラックに向いているかという話も呟いたことがある。場合によるという話。
スパイクは走り方がうまい人(上から下に力を伝えてプレートの反発を生かせるタイプ)はうまく履きこなせるだろうが、そもそも蹴る走りの人は、ピンのグリップが蹴る動きを助長してしまうのでパフォーマンス向上は難しいのではないかと思う。同じ理由でフォーム改善も難しいように思う(本当は蹴ったらダメなんだけど、蹴りたくなってしまう作りになっているというジレンマ)。
一方ヴェイパーフライはグリップが小さい分不利に働くこともあるが、蹴る走りを脱却せざるを得ないのでフォーム矯正という点では優れていると思う。このことから、ヴェイパーフライでフォーム矯正してからスパイクに移行、という流れはうまくいくのでは?という気もしている。
「誰でも履けば速くなるシューズ」と言われているが、そもそも十分にポテンシャルがありながら結果を出し切れていなかった選手が、ヴェイパーフライによる技術レベル向上で体力レベルに見合った走りができるようになった。という見方が私の考えのひとつだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?