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デジタル人民元はAliPay・WeChatの競合となるのか

いよいよデジタル人民元の社会実装に向けての実験が本格化してきましたね。中国政府は2022年開催予定の北京冬季オリンピックまでに実用化を目指しているとのこと。

今回の実験ではデジタル人民元を1人200元(約3100円)ずつ抽選で配り、総額1000万元分が同区のスーパーや飲食店など3389店で使えるようだ。

中国と言えばAliPayにWeChatPayもあり、国民のほとんどがキャッシュレスサービスを使いこなし、街中の屋台や物乞いまでもQRコードをぶら下げているというのは有名な話だと思います。しかしなぜ、中国政府はデジタル人民元の本格運用を世界に先駆けて実現させようとしているのでしょうか。本日はそのあたりの話を少し考えてみたいと思います。

まずデジタル人民元とは何か

デジタル人民元とは、CBDC(Central Bank Digital Currency)と呼ばれるデジタル通貨となりますが、昨今様々なところで報道されているので、なんとなく概要はご存じかと思いますが、一般的な定義として以下となります。

①デジタル化されていること
②円やドルなどの法定通貨建てであること
③中央銀行の債務として発行されること

AliPayやWeChatとは何が異なるのでしょうか。

まず①はデジタル化されているのでクリアしています。②法定通貨建てであること、ということですが法定通貨とは

その国の政府に認められた通貨のことで、納税に利用できる。その国の中では、額面で表示された価値での決済の最終手段として認められている。

日本でもそうですが、中国でももちろん納税にAliPay、WeChatは使えますし、基本的には元と等価交換できる価値を持っています。正式にはどう政府側が捉えているのかはわかりませんが、②もクリアだと思っています。

それでは③中央銀行の債務として発行しているかどうかですが、ここがデジタル人民元とAliPay、WeChatの大きな違いであると考えています。以前のnoteでも書きましたが、基本的にはAliPay、WeChat含め民間企業が発行しているポイントシステムのようなものだと思っています。

デジタル人民元は中国政府が発行する通貨、ということが最も抑えておくべきポイントです。

また、AliPay、WeChatはスマートフォンのアプリを通じて元と等価交換を行って発行されていますが、デジタル人民元の場合は中国人民銀行(中国の中央銀行。日本で言う日銀)から発行されます。直接個人に配布されるわけではなく、民間の中国四大銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)や決済サービス会社(銀聯やAliPay、WeChat)のアプリを通して配布されるのではないかと報道されています。

AliPay、WeChatの競合となるのかどうか

既に中国ではスマートフォン決済2社が、キャッシュレス決済のほとんどを握っています。そんな中、デジタル人民元は彼らの競合となるのでしょうか。

競合ではなく共存となってくると思う。ただし、ある一定程度のシェアは取りに来るのではないでしょうか。ここで言うシェアは、小口決済におけるシェアのことを指しています。また共存ということなので、何かしらのインセンティブを与えて決済データの共有を図る可能性もあると思っています。

まずある一定のシェアを取りに行くという話ですが、政府主導となるのか民間委託となるのかはわかりませんが、小口決済用の仕組みの準備は考えているのではないだろうか。ですが、ユーザや事業者によほどのインセンティブを与えない限りシェア奪取は難しいでしょう。このインセンティブ設計には今後も注目していきたいと思います。(決済手数料がかからない、オフラインでも使用可能となるので、十分なメリットはあるものの、実態がまだ見えないため何とも言えません)

また共存についてですが、デジタル通貨のメリットとして

①現金の発行や輸送、管理などのコスト削減
②お金の流れのデータ化により、脱税やマネーロンダリング対策になる

と言われていますが、結局最終小口決済の段階で、AliPay、WeChatに換金されてしまうことで、最終的な決済データは民間事業者の懐に入ってしまいます。デジタル通貨の技術として、どこまで換金後もデータの流れを追跡できるのかはわかりませんが、AliPayWeChatとのバーターの中で中国政府が追跡できるようにしてくるのだと思います。いくつかのニュースソースをチェックしていますが、デジタル人民元は追跡可能と書いてありますが、結局AliPayWeChatの中でAliPayWeChatポイントへ換金されるので、そこでデータの流れは断ち切られるのでは?と考えています。正しい情報をご存じの方いらっしゃったら教えてください。

デジタル日本円の動き

日銀もデジタル日本円の発行に向けて、急速に動きが加速してきています。一年前は否定的な姿勢ではありましたが、先行する中国はじめとする諸外国の動きに追随する形で、「みんなやってるからうちもやらないとマズいね!」といった感じでなのでしょうか。

CBDCのデファクトスタンダードを中国に先に握られては脅威となる、ということなのですが後追いかつ日本と言う国において、早期での普及は難しいのではないかと考えています。キャッシュレス自体の普及も進んでいない中で、デジタル日本円なんて何年先の話となってしまうのでしょうか。

そもそも中国でのキャッシュレスが急速に進んだ理由として、紙幣に対しての信頼性の低さ(偽札など)と、銀行窓口が全国津々浦々に無いといった金融インフラにおける課題を抱えていたことがあります。一方日本はどうでしょうか。既に盤石な(?)な金融インフラが国民の生活を支えているため、現金からキャッシュレスに移行するメリットが多くはありません。

私個人としてはキャッシュレスやデジタル通貨の更なる普及を待ち望んでいますが、あまりにもこの日本においてはメリットが乏しいので、まだまだ先の話になってしまうでしょう。

近い将来、我々も中国へ旅行やビジネスで訪れた際には、デジタル人民元への登録を義務付けられ、中国内においてはお金の流れを通じて全て監視される日も近いのではないでしょうか。

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