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【駄文】新刊『〈絶望〉の生態学』の著者、山田俊弘先生との出会い:『絵でわかる進化のしくみ』はこうして生まれた

今月、『〈絶望〉の生態学 軟弱なサルはいかにして最悪の「死神」になったか』が発売になります。著者は広島大学の山田俊弘先生です。

この記事では、最新刊の簡単な内容紹介と、著者である山田先生との出会いについて書きます。大部分が、山田先生を担当する編集者T.W.の駄文なので、「ヒマつぶしの方法がなくなってしまった」という方におススメです。

ちょっとだけ最新刊の内容紹介

最新刊『〈絶望〉の生態学』では、現在の地球で進行中の大量絶滅について解説していただきました。

わたしたち人間(ホモ・サピエンス)は急激に増え続けていて、世界人口が80億人を超えたばかりです。その一方で、野生生物たちはどんどん個体数を減らしています。人間の出現以降、絶滅にいたった種の数は限定的ではあるものの、絶滅危惧種は動植物に限っても100万種以上という推定もあります。

化石記録から、地球では過去にも大規模な絶滅現象が起きたことが明らかになっています。その中でもとくに規模の大きかった大量絶滅が5回知られていて、それらを「ビッグファイブ」と総称します。

現在進行中の絶滅はスピードがあまりにも速いため、このままではビッグファイブに匹敵、あるいは凌駕する規模の現象になりそうです。「第六の大量絶滅」とか「六度目の大量絶滅」といった言葉を最近よく見聞きするようになった、という方もいらっしゃると思います。

それにしても、巨大隕石が衝突したり、巨大火山噴火が起きたりしたわけでもないのに、なぜ地球史上最大級の絶滅が進んでいるのでしょう? お察しのとおり、その原因は人間の活動にあります。「私たちは意図せず大量絶滅を引き起こそうとしている」という見方が、生物学の世界では常識になりつつあります。

とくに、生態学の知識をもって自然を観察することで、人間活動がなぜそれほど大きな影響をもつのか、理解が進んできました。本書では、その成果を解説します。

3度目のタッグ:山田先生とT.W.

この『〈絶望〉の生態学』は、弊社から刊行する山田先生のご著書として3冊目です。過去2作はこちら。

  1. 『絵でわかる進化のしくみ 種の誕生と消滅』

  2. 『〈正義〉の生物学 トキやパンダを絶滅から守るべきか』

山田俊弘先生による著書3冊のカバー。最新刊『〈絶望〉の生態学』の基調色は紫とゴールド! 本文に登場する生物たちのイラストが目印です

基本的にずっと同じ編集者(私、T.W.)が担当してきました(諸事情により一時期だけ担当を外れたのですが、これは後ほどちょっと触れます)。山田先生とは、かれこれ10年近いお付き合いになります。いちおう、編集者として信頼していただけたのかなと、少し誇らしく思っています。

これまでの2冊は、部数こそ地味ですが、こつこつと重版し続けています(どちらも現在4刷)。3冊目もロングセラーになってほしい! そんな願いを込めながら、この記事を書いています。

また、書籍編集者の仕事に興味のある方がいらしたら、ちょっと楽しんでいただきたい、というモチベーションで書きました。

ここからが本題。山田先生との初仕事、『絵でわかる進化のしくみ』の誕生秘話(ってほどの内容でもないですが)を披露します!

かつて「生物」を諦めた

私は高校1年生のとき、「生物」の授業(分子生物学的な内容だったと記憶しています)についていけなくなり、早々に「生物は諦めた」と胸の内で宣言しました。(いまならわかりますが、授業中寝てたら、そりゃあついていけません。諦める前に目を覚ませ!)

でも、生き物にはそれなりに関心があったので(むかしは人並みに恐竜図鑑を眺めたり、バッタやトンボ、カブトムシなどの昆虫を採集したり、カタツムリやヤモリを捕まえて飼育したりしました)、その後も生物学の読み物に触れることはありました。大学では、工学系の学科に入ったものの、理学への憧れがあり、とくに古生物学や“生命の起源”といった話題に関心をもちました。

ところが、高1にして生物を諦める決意をするようなおっちょこちょいですから、ちょっと深いテーマに首を突っ込むと、大混乱……。それはそれで楽しいものの、やっぱりもうちょっと勉強したくなるのが人情というもの。じゃあ、勉強したのかというと……さーせん、してません。

その後、「生物苦手マン」のまま講談社サイエンティフィクに入社し自然科学書の編集者となり、経験を積むうちにあることに気づきます。編集者は「本づくり」という名目で、自分の興味の対象を勉強する機会をつくれるのです。「わからないけれど知りたい」テーマの入門書ならば、読者目線で編集に臨めるというわけであります。

もちろん、「ボク〇〇に興味あるんで、〇〇の本つくりまっす」みたいな企画は通常ボツです。でも、諦めたらそこで試合終了ですよ(と、高1の頃の自分に言いたい)。企画会議でゴネて粘り勝ち、趣味的な入門書をつくらせてもらえることも、なくはないのです。最近は、加齢とともに〈ゴネ技〉が通じにくくなってきており、会議で冷や汗をかいています。

人類学に触れ、混乱する

あ、そうそう、ちょっと脱線しますが、T.W.の趣味的企画のひとつである『つい誰かに教えたくなる人類学63の大疑問』も、細々と売れ続けています(以下、『人類学の大疑問』と略す)。

現在、第9刷です。この本も思い入れがあるので、さらなるロングセラーになってほしいぞい。

この『人類学の大疑問』をつくっていて、混乱したことがあります。

「種(しゅ)って、なんだ?」

『人類学の大疑問』ではおもにヒト(ホモ・サピエンス)を扱いましたが、進化の隣人たちも登場します。チンパンジーをはじめとする類人猿はもちろん、ネアンデルタール人やデニソワ人といった絶滅してしまった人類も。

生物学を早々に諦めた私だって、ネアンデルタール人やデニソワ人が私たちとは別系統の人類だってことくらい、知っていましたよ。絶滅しちゃったんですよね、むかし……

えっ、現代人が彼らのDNAを受け継いでいるって??? 取材した人類学者からそんな最新研究の成果を聞かされ、驚きました。

種と種のあいだには、生殖隔離があるんじゃなかったの? 交雑してたってことは、ヒトとネアンデルタール人は同一種なの? そもそも、ヒトとネアンデルタール人が共通祖先から分岐してきたっていうなら、どの時点で別の種になったの? 混乱してきました……(その後、私のような者が混乱するのも当然の理由があることを学びました。本のネタバレになるので、伏せておきます。)

幸運をつかむ:著者候補発見

種についてモヤモヤを蓄積していたある日、なんとなしに広島大学のシラバスを見ていた私の目に飛び込んできた「種生物学」の文字。「あまり見ない科目名ですぞ(気になる)」。科目名をクリックして講義内容を確認した直後、私はその科目を担当する先生にメールを送っていました。

そのメールの送信先こそ、『絵でわかる進化のしくみ』の著者、山田俊弘先生です。この人は私の疑問を解決してくれるにちがいない——そう感じていました。そして、「生き物の種とは何か」を解説する本を書いてほしい、といきなり依頼したのです。

シラバスを見ただけで執筆依頼をするのは、いささか早計だったかもしれません。しかし、幸いにして、山田先生は「超」がつくほどのナイスガイ。なぜか前のめりな、得体の知れない編集者の研究室訪問の申し出を受け入れてくださいました。

広島での初会合では、「種」にまつわる疑問をぶつけました。きっと素人の的外れな質問ばかりだったはずですが、山田先生は「いい質問ですね!」「それはむずかしい質問だなあ」と、好意的に受け止めてくださったことをよく覚えています。執筆もご快諾いただきました。

さらなる幸運:企画成立と優れた原稿

山田先生に執筆をご快諾いただいたといっても、それだけで本づくりを進められるわけではありません。この時点では、社内での承認を得られていなかったからです。厳しい「企画会議」を無事に通過できるかは、私のがんばり次第!

もうだいぶ記憶が薄れてしまいましたが、まあ、それなりにがんばったのでしょう。幸運なことに、このいかにも私の趣味的な企画を上司が認めてくれました。ただ、当時の企画会議の議事録を見返すと、一時は「ボツ決裁」を受けかけていました。しかも、当初の提案は「絵でわかるシリーズ」ですらなかったようです(忘れてた!)。本当に危なかった……当時の私、よくぞ粘った。

幸運はここで終わりません。企画が承認されたあとで、最大の幸運が訪れました。

最大の幸運とは、すなわち「すぐれた原稿」です。執筆依頼の時点では、山田先生の筆力はまったく把握できていませんでした。講義は面白いけど文章を書くのは苦手、なんて可能性もあります。でも、いただいた原稿は期待に違わぬ面白さ、読みやすさを備えていました。

生物学者に「種とは何か?」を問うと、こういう答えが返ってくるのか……深い! その深い話を知りたい人は、こんな駄文を読むのはやめて、『絵でわかる進化のしくみ』を手に取ってみてください。

(じつは、企画会議をなんとかクリアし、正式に執筆依頼を差し上げた後、他社のフリーペーパーに山田先生が寄せたエッセイを偶然発見していました。そして、この時点で、私が「勝ち」を確信していたことを、ここで明かしておきましょう。というのも、その山田先生の文章が、独特なリズムを刻みながらも、読者を夢中にさせ、というか爆笑させる素晴らしい出来だったからです。なお、そのエッセイのボリュームアップ版が、文一総合出版のWebマガジン『BuNa』で「連載」として読めますので、リンクを貼っておきます。)

私自身は一時的な部署異動にともない、校了を前に担当を外れる(原稿完成までは携わりました)という不運もあったものの、経験豊富な先輩に引き継ぐことができ、無事刊行にいたります。出版後、講談社ブルーバックスの編集者であるT.K.さんやN.I.さんに「面白かった」と褒めていただいたのが、うれしい思い出です。

おわりに:Web記事をどうぞ

「もうすこし本の中身を知りたいぞ」という、そこのあなた! ずいぶん前になりますが、山田先生にご執筆いただいたブルーバックスWebの記事がおススメです。ここで『絵でわかる進化のしくみ』のエッセンスが読めます。

大量絶滅期に突入したいま、ぜひ「種」についても考えてみましょう。

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