負けているときこそ、アグレッシブに動く。

「やばい、連敗の沼にハマってしまった」

半年ぶりに大学の友達3人とオンライン飲み会を開いていた。もうかれこれ付き合いは10年以上で、4人で旅行にもよく行った。大学生のころ、だれかの家でダラダラとお酒を飲んでいるとき、旅先の旅館でワイワイ楽しくしているとき、決まってぼくたちはトランプゲームの大富豪をする。地域によっては大貧民と名前を変えるそのゲームは、シンプルだが奥が深く、カードの出し方や残し方で勝ち負けが大きく左右する。強いカードをもっているからといって、必ず勝てるわけではない。

特徴的なのは、大富豪(1位であがった人)に対し、大貧民(最下位)が次のゲームが始まる前に手札にあるもっとも強いカードを上から2枚献上しなければならない点だ。逆に大富豪は大貧民に対して、手札からもっとも不要なカードを2枚あげるという仕組みになっている。つまりもっとも強いカードと弱いカードを交換して、大富豪はより強く、大貧民はより弱くなる。なんとも残酷なルールが存在する。

たった一度でも大貧民になると、奇跡的に最強カードのジョーカーが2枚手札にまわってきたとしても、それを大富豪に献上しなければならない。だから、ちょっとやそっとじゃ、大貧民から抜け出せない仕組みになっているのだ。いい大人になってトランプやってるの?と思うかもしれないが、これがなかなかに深く、おもしろい世界なのである。

で、久しぶりの大富豪でぼくは大貧民の沼から抜け出せなくなってしまった。

5連敗くらいした頃だろうか。カードの出し方を思い切って変えることにした。とにかく自分の番がきたら、本来最後に取っておいたほうが勝ちやすいとされているカードを序盤からアグレッシブに出してみることにした。どうせ強いカードを残したところで、他の3人の方がより強いカードをもっていることが明白だったからだ。だから出せるカードがあれば、最初のターンであろうとなんだろうと関係ない。出し惜しみをせずにとにかくカードを減らしていく戦法に変えた。

それでもそれから数回は負け続けたのだが、明らかに負け方が変わった。というのも、カードが複数枚残った状態で圧倒されるのではなく、あと一歩のところで負けてしまうような惜しい戦いに変わった。そしてこれにはちゃんと理由があった。序盤からぼくが積極的に攻めるものだから、他の3人に少なからずプレッシャーを与えていたのだ。

大富豪が強いカードをもっていたとしても、大貧民が序盤から積極的にカードを減らしている姿をみると、本当はあとにとっておきたかったカードを序盤に出さざるを得ない状況になる。つまり大富豪であっても動揺する。大富豪は下剋上を恐れているのだ。

序盤からアグレッシブにカードを出す戦法に変えてからしばらくして、ぼくは下剋上に成功した。大富豪に成り上がった。

そんなこんなで久しぶりのオンライン飲み会を楽しんだあと、ぼくは大貧民から大富豪に下剋上したシーンが頭から離れずにいた。よくよく考えてみたら、「負けているときに、アグレッシブに動く」というのは現実世界でも使えるんじゃないか?そしてそれは成功法則のひとつとして成立するんじゃないか?と思ったからだ。いや、成功しなくてもいい、物事がうまくいかないときに、少しでも良い流れにするための戦法として使えるんじゃないか、と思った。

現実世界は、トランプゲームの大富豪とは違い、「7渡し」や「10捨て」「革命」などの一発逆転要素が少ない。当然チートカードのジョーカーなんてものも存在しない。だからアグレッシブに動いたところで、それが空振りに終わるなんてことの方が多いのかもしれない。

しかし、「自分が動けば必ず相手も動く」という点においては、大富豪でも現実世界でも変わらない事実だ。実際に何者でもないサラリーマンのぼくがこうして文章を書けば、少なくてもぼくが知らない10人の目に留まることになる。そこから何かが始まることだってゼロではないからだ。

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