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ヒミツミ 『熊野』『班女』 の感想

作/三島由紀夫 演出/坂本樹(wokome、オトズレ)
病の母の元へ行きたい女と手元に置こうとする富豪の会話劇『熊野』
一人の男を待つ狂女へ注がれる女流画家の歪な愛情を描いた『班女』

演劇ソムリエとしての活動もする女優、伊藤優花がプロデュースする演劇企画。第0回を経ての旗揚げ公演は三島由紀夫の近代能楽全集より2本を上演。
演出として抜擢したのは坂本樹、wokomeとオトズレという二つの団体で活動し演出家として視覚的ギミックを使って物語を増幅させる作品を作る。
その一方で詩人として、コトバスラムジャパン全国大会で優勝。フランス・パリで行われた世界大会では準決勝に進出するなど注目度上昇中。

舞台装置はシンプル。ベッドや『班女』では部屋の真ん中に女流画家のキャンバスが置かれるくらい。オーソドックスな演出で心情の機微を正面から上演。俳優陣の確かな演技。
客席の横を通って登場するが、そこをマンションの廊下になぞらえる小技も地味に良い。

シンプルな上演のラストに坂本の演出が冴え渡る。
『熊野』では、物語の反転後男女の微妙な心情を映像と音に仮託して詩情性を高め最後にタイトルがスクリーンに大写しされる。オーソドックスでありながら演出でキレ味を上げる。

『班女』では、待ち人への愛情より狂気が上回り女流画家との歪な関係が続いていくラスト。その瞬間、こちらもタイトルが現れる。部屋に置いてあるキャンバスの中に。
真ん中にあるもただの舞台装置以上で何の意味もないと思いきや。特に先ほどはスクリーンいっぱいに映像が使われていたのに対し、こちらはピンポイントにキャンバスの真ん中にタイトルが現れるよう調整されている。
その直後に、画家は歓喜の一言を呟く。
まさに彼女の描いた絵の通りの展開になったわけだ。彼女の願望がかなうということを女流画家のキャンバスの中にタイトルを映すという演出だけで意味合いを何倍にも増幅させる。
えげつないほど素晴らしい。 そこに至る道がオーソドックスに徹していたからこそあの一撃が決まる。

無理に再構築するのではなく、三島由紀夫の戯曲をしっかり上演しそこに上物を乗せる



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