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【この熱い魂を伝えたいんや】(1976)上田正樹とサウス・トゥ・サウス 大阪人が醸し出すドギツい黒汁!

私がたまに顔を出す都内のロックバーがあるのですが、3年ほど前のことです。独りで飲んでいると、後客に関西訛りの男性が1人で入ってきました。年齢は60才前後でしょうか。常連っぽい。この店ではカウンター越しに大画面モニターが設置されていて、客のリクエストに応じて映像と音楽を流してくれます。その男性は馴れた様子で店主に何かリクエストしていました。

暫くすると、日本語でラグタイム調のブルースを演奏する古いバンドの映像が映し出されたのです。

「これ、誰ですか?」と店主に尋ねる私。
すると、すかさず関西訛りの男性が私に向かって一言、
「キミ、知らんのか〜?」

出た。ちょっと苦手なタイプの関西人だなぁ(笑)と萎縮していると、その男性はそこから私にやたら懇切丁寧に説明してくれました。
えっ?上田正樹?「悲しい色やね」の上田正樹?長髪なの?若いなー。そう言えば、上田さんは最初にバンドをやっていたと聞いたことがあった……私も話を聞きながら思い出していました。
男性曰く、上田さんの隣でギターを弾きながら歌っている有山淳司という方も凄い人らしい。ふーん、知らなかった。
「あとな、このあと上田さん、クスリで捕まるんよ」。へー、知らなかった。いや、それは聞いてない💦

結局、この日の夜は、店主と男性が関西ブルースの奥深さをあれこれ語るのを、私は黙って聞いていたのでした…。帰宅。


しかし、酒の席だったとはいえ影響は受けるものです。後日、気付いたら買ってました。

【ぼちぼちいこか】(1975年)

関西ブルースの最高峰だったサウス・トゥ・サウスの上田正樹と有山淳司の2人が1975年に出した作品。
有山さんの流暢なアコースティック・ブルース・ギターに上田さんが大阪弁で歌いまくる(しゃべくる?)名盤とされる1枚です。
気取るところが一切ない、大阪の兄ちゃんのちょっと下世話な普通の日常を描いた歌詞が笑えたりホロッときたり…。冒頭の動画「あこがれの北新地」もこのアルバムに収録されています。

中でも、私が一番笑ったのが「俺の借金全部でなんぼや」。

借金と返済を繰り返すのを歌っただけのブルースですが、これが笑えるんです。このセンス、東京人には絶対ないですね。関西人でなければ歌わない。はじめ、私は算数の問題なのかと、マジメに歌詞を聴いていましたが、途中からどうでもよくなりました(笑)

当時のサウス・トゥ・サウスのライブセットは、第一部が2人のアコースティック・ブルースのコーナーだったようで、それをスタジオ録音したのが【ぼちぼちいこか】。

そして、第二部のバンドによる熱いステージの様子を収めた作品がこちら。

【この熱い魂を伝えたいんや】(1976年)
Bourbonレーベル(徳間ジャパン)

サウス・トゥ・サウスがブルースだけではなく、ファンキーでソウルフルな演奏を叩きつける1975年9月、芦屋ルナ・ホールでのライブ実況盤。
これが無茶苦茶カッコイイのです。まさしく「ミナミから南部へ」の心意気。オーティス・レディングばりに吠える上田正樹とバックの演奏には、ただただ痺れます。

ライブのオープニングはバンドのテーマ曲とも言える「サウス・トゥ・サウス」。当時の貴重な映像がありました。カッコいい〜。

「最終電車」では跳ねまくるビートが炸裂。並のファンクバンドでないことを証明しています。当時の日本にこんなバンドが居たことにビックリしますね〜。
YouTubeも教則ビデオも無い時代です。全身でブラックミュージックのフィーリングを体得したのでしょう。昔のバンドは演奏が上手いですね。

しかし関西弁の歌詞って、ブルースやソウルに嵌まりますね。リズミカルなところが乗せやすいのでしょうか。私は、関西人のオープンな気質?も土着的な音楽と相性が良いように思うのですが、どうなんでしょうね。

個人的には上田正樹さんと言えば、今から20年程前にテレビの密着取材番組に出演した時の話が印象に残っています。
かつてBBキングともステージで共演されたそうで、その際にBBから「お前のブルースにはアジアが感じられる」と褒められたことが何より嬉しかったと仰ってました。あのブルースの王様、BBキングが観ても真似ごとに終わってないとは、(多少のリップサービスがあったとしても)最大級の賛辞でしょう。

サウス・トゥ・サウスの音楽もスタイルこそ借り物であっても、パフォーマンスからは大阪に住む人間の味わいや温もりが濃厚に伝わってきます。タイトルの「この熱い魂を伝えたいんや」がまんま詰まった、日本人にしか出来ないソウルミュージックですね。

話は変わって、今月私は初めて大阪に出掛けることになりました。出身は名古屋ですが、今まで一度も行ったことがなかったのです。何と初大阪。

サウス・トゥ・サウスの音楽に充満するディープな香りがあるのか探してみたいと思っています。勿論、美味しいものも食べたい!
あこがれの北新地ならぬ、私にはあこがれの梅田、道頓堀なのです。


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