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【Tatoo You(刺青の男)】(1981) Rolling Stones 80年代を宣言した優秀なアウトテイク集

ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツが亡くなりましたね。ついに世界最強のR&Rバンドにも来る時が来てしまったか、という残念な気分です。

ストーンズの日本公演ではメンバー紹介で誰よりも長い拍手を貰っていたチャーリー。あの照れ屋な笑顔が印象に残ります。走り続けてきたエンジンが止まってしまいましたね。

さて、ここ暫くのストーンズは、過去の作品のアーカイブ作業に熱心です。今年は秋にも【刺青の男】の40周年記念版が発表されるようで、巷でも大きな話題になっています。

私自身初めて本作を聴いたのはレンタルレコードでした。数多い旧作の中でもポップで聴きやすいなぁ、という印象が強かったです。

高校時代、厳しい部活動が休みの土曜の学校帰り、カセットテープで「友を待つ」を聴きながら一人解放感を満喫してたことを思い出します。

こちら米国アトランティックレコード配給のUS盤です。

レコードの話になりますが、私の盤は両面の内周無音部に「RL」という刻印があり、これは有名なボブ・ラドウィックというエンジニアによるマスタリングというサインで、音質に非常に定評があります。

実際にこのUS盤、スッキリしているのに音圧、鮮明さがあって素晴らしい音です。
中古市場でもそれ程高くないのでオススメです。

さて、手持ちの国内盤CD(94年発売ヴァージン版)と収録時間を見比べてみました。マニアなファンでご存知の方がいるかもしれませんが、全曲中唯一A-③「Slave」だけ長さが違うのです。

アナログ盤では4:39
CDでは6:32

2分近くも違っています。
聴き比べて確認した所、CDバージョンの幾つかの箇所を編集して切ったものが、元々のLP収録のショートバージョンでした。

いつ頃発売のCDからロングバージョンになったのかは忘れましたが、ストーンズは配給元が変わると稀にこういったテイクの差し替えをしているようですね。

アルバムの中でも異色のジャム・セッションのこの曲。コンパクトでスピード感を重視した本作の方向性から、当時は短く編集されたと思われます。

さて、本作は80年代のストーンズを強烈に印象付けた作品ですが、実際には過去に録り溜めていたボツ曲を集めたアルバムとしても知られています。

手直しを加えた上、名匠ボブ・クリアマウンテンのリミックスによるアッパーでエッジの立った音像に仕立て直され、聴いていると洗練された音は統一感があります。

A-①「Start Me Up」
 ②「Hang Fire」
 ③「Slave(奴隷)」
 ④「Little T&A」
 ⑤「Black Limousine」
 ⑥「Neighbours」

B-①「Worried About You」
 ②「Tops」
 ③「Heaven」
 ④「No Use In Crying(泣いても無駄)」
 ⑤「Waiting On A Friend(友を待つ)」

キース・リチャーズのギターリフが爽快なA-①はまさしくストーンズの代表作。会心の1曲ですね。

この曲独特のグルーヴは、前奏のチャーリーのハイハット後に入る1拍目のスネアドラム!と続くバスドラではないかと思ってます。
スタジオでは緻密なグルーヴがあるんですよね、ストーンズ。ライブではステージ仕様の雑なアレンジになってしまうのが残念…。

A面はA-②、A-④(キースボーカル)、A-⑥とストレートな楽曲が目白押し。とにかくアッパーで前のめりです。どれも【女たち】【エモーショナル・レスキュー】期音源とのこと。チャーリーのドラムも硬質な音に処理されて聴こえます。

個人的にこの辺りのサウンドには、往年のアメリカン・オールディーズの香りを仄かに感じます。時代的にも50'sの雰囲気が再評価、ヒット曲やファッションにも見受けられ、その辺りを参考にしたのかもしれません。

B面は一転してスローな曲が並びます。私は学生時代、これが退屈で眠くなりました笑 
しかし今聴くとブラックミュージックからの影響が濃厚なストーンズがこれまた魅力的。

B-①なソウルフルでメロウな人気曲。「愚か者の涙」直系のミックのファルセットボイスとエレピの音が冴えています。やはり【ブラック・アンド・ブルー】の頃の音源。

B-②もアーバンな黒人ソウルを感じますが、古い音源で【山羊の頭のスープ】のアウトテイク。ギターソロは何とミック・テイラー!そのまま収録したため(ストーンズらしい)裁判沙汰にも成りかかった話が有名です。

B-⑤はリズミカルなギターのコードストロークが心地良い、私も大好きな2ndシングル。ニッキー・ホプキンスのピアノがアクセントになってますが、途中から入るサックスソロは何とジャズの巨匠ソニー・ロリンズ。

チャーリー・ワッツの無茶振りをミックが本当にスタジオに連れてきたそうです。ロマンチックで余韻を残す素敵なソロですね。

昔、私の職場にいたジャズ狂の先輩に聞かせたら酷評されましたが…笑 

ストーンズは調子のいい時に、纏めて曲の断片なりを録音してしまうとよく聞きます。
その後のアルバム制作に合せて、それらを引っ張り出す事は往々にしてある様です。

本作が急場凌ぎの極端なアルバムだったとはいえ、それでも粒揃いの作品集です。
A面はアッパー、B面はメロウといった棲み分けも見事。80年代的な軽いノリも新鮮に聴こえます。

時代にフォーカスしたプロデュース力が優ったストーンズの名作と言えますね。

ただ、アルバムを売り、ヒット曲も出し、真にロックの最前線にストーンズが居られたのはこの作品の頃までかな、と個人的には思ってしまいます(その後も好きですが)。

【刺青の男】は現役バンド・ストーンズとしてある種バブリーな魅力も感じる作品です。

チャーリー・ワッツの遺作とも言える今回の40周年記念版には9曲のアウトテイクが収録されるそうです。その中には、昔から噂に聞く「スタート・ミー・アップ」の初期レゲエバージョンもあるとか!私も楽しみにしています。

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