脳神経外科に
高校三年生の二月になると、学校は自由登校になる。授業は当然ないので、登校しようがしまいが単に自学をすることになるのは変わらない。だから、自宅では集中しづらい人や教員に添削を依頼する人だけが集まって、暖房のあまり効かない教室で黙々とペンを動かし続けることになる。その日はS、D、K、と私の4人はいたが、そのほかに誰がいたのかは覚えていない(たぶんほとんど誰もいなかったのだろうと思う)。
SとDが廊下側の席で何か話していた。この二人は同じ名字で、ともに理系の秀才で、よく前後の席で話し合っていた。脳神経外科……というような言葉が聞こえた。
「脳神経外科?」
窓際の席にいたKが振り向いた。Kは医学部を志望していた。
「私、脳神経外科をやりたいから」
Sが笑って答える。
「いや、脳神経外科に行った方がいいよっていう話をしてた」
私たちは少し笑って、それからまたそれぞれの勉強に戻った。
この三人はその年、全員第一志望の大学に受かった。現在、Sは博士課程で情報工学の研究をしている。Kはしばらく会っていないが、無事に大学を出て医師になったらしい。Dとは連絡がとれなくなってしまった。
あの教室にいた日々から、もう十年近くが過ぎた。
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