干潟

    干潟では大規模な開発事業が企画されている。目玉になるのは、大きなこけしを立てることだ。普通に大きいだけではいけない。見るものが卒倒するほどの大きさでなければ、わざわざ造る値打ちがない。
 全国から集められたこけし職人たちは首をひねった。それほどまでに大きなこけしは、だれも造ったことがなかったからだ。
 とにかく首が造られることになったが、絵付けの段階で意見が分かれた。目の直径を何メートルにするかで印象はまるで違ってくる。こけしの顔は優しくも恐ろしくもなるのだ。
 事態は紛糾し、乱闘で幕を下ろした。何人かが殺され、何人かが逮捕された。
 干潟には、こけしの首だけが残された。もう完成することのない顔は、目も鼻も与えられぬまま、いまもそこで穏やかな波に洗われている。

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