犬の生まれ変わり

犬に生まれ変わりってあるのだろうか。

そう思ってしまうようなことが一年半程前に起こった。実際に私自身が経験したのではなく、家族から聞いた話だが。

今我が家にはオスの柴犬がいる。四年前私がペットショップでほぼ一目惚れした、ちょっと胡麻毛の小柄な子。ツンデレの甘えん坊で少し?いや、かなりわがまま。飼い主の言葉をだいぶ覚えていて、わかっているくせに聞いてないふりをする。覚えてくれて便利な言葉は「ぶるぶる」。犬が緊張を解きほぐすときやからだが濡れたときによくする、いわゆる柴ドリル。雨の日の散歩中、ぶるぶるしてって言ったらできるようになっていた。

そう、一年半前の話。久しぶりに知人が東京へ来ると言うので、自宅へ寄ってもらった。我が家の柴犬は、家に来る人に対して最初は警戒し低く小さい声で吠える。しばらく様子を伺い、相手が犬好きだったり敵対心がないとわかると、とたんにしっぽを振ってじゃれてくる。こうなるまでに少なくとも5分10分。今回も同じだろう、と思っていた。

ところが。会ってすぐ、見たこともないような全身から喜びが溢れっぱなしの姿。まるで大好きな人がやっと帰ってきた!くらいの喜びかた。おまけに、おすわりやお手まで。こんなことは初めてだった。思い当たるのは、知人が犬好きだということ。でも、今までたくさん会った犬好きの人達に対して一度だってこんなことはしなかった。

もしかしたら。この子は先代犬の生まれ変わりなの?あり得ないとは思いつつ、そんなことを思ってしまった。というのも、この知人は、先代犬の命の恩人だから。

私は、東日本大震災で福島から避難した。その時、先代犬を家に残してきた。まさか二度と戻れないなんて思ってもいなかったから。そんな事情を知った知人は、仕事柄町へ入ることができたので、先代犬の様子を見にいって無事を確認してくれた。その後も時々我が家へ行って人間のご飯を分け与えてくれていた。先代犬は保健所から譲り受けた雑種の中型犬で、可愛い顔をしたとても優秀な番犬だった。初めて家に来た人がどんな人なのか嗅ぎ分け、大丈夫だとわかると吠えずに大人しくしていた。この知人と先代犬が初めて会ったのは避難後だったので、私達家族が家にいなかったにもかかわらず、全く吠えず逆に喜んだと聞いた。

先代犬は、しばらく我が家の近所で生活していたけれど、犬の保護団体が町に入ってから忽然といなくなってしまった。避難先に連れてきて預かってくれる病院が見つかった直後のことだった。その後一度もその姿を見ることはできなかった。

生きていればこの春で16歳になる。きっと既に死んでしまっただろうと思いつつ、どこかで生きていてくれたらな、といつも思っていた。そんな時に、知人に会ってめちゃくちゃ喜ぶ姿を見せた我が家の柴犬。まるで会いたかったよー!と言わんばかり。当時の先代犬もきっとこんな感じで喜んでいたのかな。

思えば、二匹は似たところがあった。少しせわしないところ、話しかけると首をかしげるところ、甘えかた、そして何より顔の雰囲気。上目遣いにこちらを見る顔はほとんど同じ。これまではただ似ているだけと思っていたけど、今回のことで、え?!もしかしたら生まれ変わり?!と単純に思ってしまった。馬鹿げてると思いつつそうであってほしいような気もした。

また知人が会いに来てくれたら、今度はこの目でしっかりと見届けたい。とはいえ、最近年のせいか涙腺が緩いので、泣かないで見ていられる自信がないな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?