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先生、大好きよ

先生、先生、元気? 私は元気。
小学生の頃と違って、目上の人には丁寧な言葉でって知ってるのに、先生の前だと昔の喋り方に戻っちゃうな。
でもそんな親しみやすさが先生の良さなんだよ?

私が大学生の頃、帰省したときにいっぱいお話したでしょう? 今そのときのこと思い出してたの。12年ぶりだったのよね。
私を見て「全然変わってない」って言ってくれたけど、そうだよね。私、相変わらずちっちゃいままだし、お母さんやお友だちにも「大学生になったのに垢抜けない」って言われたもの。
でも先生も変わってなかったね、ずっと綺麗なままだったからびっくりしちゃった。……うそ、ほうれい線だけ目立ってたかも。きっと毎日いっぱい笑っていたのね。

あのときは長かった教育実習がやっと終わったってタイミングで、何度もメールで相談に乗ってもらったお礼をしに行ったんだっけ。
初めて一人の教員として子どもたちと触れ合って、授業して、時には叱って、で叱り方が悪いって指導教員に叱られて……。
実習を通して先生の苦労がわかった気がしたの、ちょっとだけね。


私がそう言ったら「あたしこそ苦労かけさせてごめんね」って言ったでしょ。「試行錯誤しながらの日々だったから、あたしのせいで上手くいかなかったことも多くて。でもクラスのみんなはいい子だから、自分たちに責任があるって思ってくれて。だからごめんね」って。

私はね、絶対そんなことないって思う。絶対に。だって先生の授業楽しかったんだもん。私たちのために、私たちにわかるように、考えて教えてくれてるんだなってみんな気づいてたよ。子どもの勘は意外と鋭いんだから。今はもう、みんな立派な大人だけどね。

それになんといったって、先生の結婚式いっしょにお祝いしたでしょう? 披露宴でビリーブ歌ったの、よーく覚えてる。そのときの先生の表情もね。一生に一度きりの舞台だもの、クラスのみんなと張り切っちゃった。
先生の花嫁姿かっこよかったよ。もちろん綺麗とか可愛いっていうのも思ったけど、それ以上にかっこよかった。ああ、人はこうやって幸せに生きていくものなんだって、その生き方を見て、かっこいいって思えたの。先生はただの先生じゃない。私たちにとって、人生の先生ね。


でも一つだけ、謝らなきゃいけないことがあるの。それは私が先生にならなかったこと。先生に憧れて教育学部に入って、教育実習も終えたけれど、途中でね、もっとやりたいことが見つかって、今はその仕事をしているの。
とっても楽しいのよ、どうしたら読んでくれたみんなが笑顔になってくれるんだろうって考えながらお話を作るのって。
もちろんいいことばかりじゃなくて、時々ものすごく心ない言葉を浴びせられることもある。「ここの会社のシナリオはクソ」「ストーリーなんか誰も見たくない」って。


でも私は平気、大丈夫。だって12年前、毎週私が書いた日記の作文、先生は面白いって褒めてくれたんだもの。今思うと、それが最初のきっかけだったのかもね、書くことが好きになったのって。
国語副免の先生が太鼓判を押してくれたのだから、もっと頑張って、それに応えてみせる。それで私を悪く言う人を見返す……のはよくないな、みんなで笑顔になれるくらい、面白くて素敵な作品を作ってみせる。今は無理でも、いつか必ず。
だから先生にならなくて、ごめんなさい。……それでもきっと、先生は私の仕事を応援してくれるのでしょうね。先生は優しいから。


先生、下の子が小学校に上がったら、臨時講師として復帰するって言ってたのよね。そのために勉強してるとも。
先生すごいよ。やっぱり先生は、いつまでも私の中でいちばんの先生だ。
いつも見守っててくれてありがとう。先生の教え子になれて、本当に幸せものね。月並みだけれど、心からの私の思い。

だから先生、大好きよ。また会いに行くからね。





ありがとうございます、おいしいチーズを買います。