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X100Vとストリートスナップを考える

ネットで富士フイルムのX100Vのプロモーション動画が非難され、その後削除したことが話題になっています。これはカメラのデザインに関わる問題でもあるので私の個人的な意見として書いておきます。

私の第一印象は「GRの攻勢に焦ったか富士フイルム、お前らしさを忘れたのか!」というものです。

私が考えるストリートスナップの作法(ルール)

①カメラを構えて写真を撮っていることを周囲に伝える
②場の状況(風景)を主題とする(人物を主題にしない)
③人物主題はストリートで撮るポートレートであり了解を得る
④撮影した画像で人物が必要以上に明瞭なものは外部には出さない

今回問題になっているのは③の部分だと思います。明かに人物を撮っているのに「了解」を得ていないことが問題です。ただ了解の種類には事前に書面で了解するレベルから、アイコンタクトで済むものまで多くあり議論の余地があります。

私はストリートで歌ったり踊ったりできる寛容な世の中が良いと考えているので、公共空間でポートレートを撮るときは、相手の行動を変えないのであればカメラを見せてアイコンタクト(否定的でない)で撮影自体は成り立つと考えていて、視線をもらうなど撮影のために行動して欲しい時は声を掛けるというのが基本です。

以前の記事で鈴木氏がYoutuber(その方も写真家ですが)と一緒に街を歩きながら撮影していく動画をカッコいいとして紹介したことがあります。その動画は撮影していることが周りにもハッキリ分かりそれほどパーソナルゾーンにしつこく入り込むようなことはなく、撮っていることをアピールし声を掛けて相手とコミュニケーションをとっているように見えました。

これまでストリートでポートレートを撮る場合は、声を掛けてポーズをとってもらい撮影するスタイルが一般的でしたが、派手な「撮影パフォーマンス」をしながら声を掛け、歩きながら撮影していくスピード感がカッコ良く見えました。もちろんその動画は富士フイルムの公式ではありませんが、世界観として今回の動画に影響を与えていると思います。

プロダクトが持つストーリー

まずリコーのGRはプロダクトデザインを存在感を消す忍者のような黒子の佇まいにすることで、誰にも不快な思いをさせずに空気のように撮影を実行できる教科書通りのスナップシューターです。(公共空間での風景としての撮影が基本で、人物が写った画像の扱いは十分な配慮が必要です)

それに対して富士フイルムのX100シリーズのプロダクトデザインはカメラの存在を主張し、そのほっこりとした外観から、ストリートで撮られても嫌な気分にならないキャラクターを持った数少ないカメラだと思っています。つまり堂々と撮影することで撮影された人と暗黙のコミュニケーションが取れる、「OK?」という感じでカメラをちょこっと持ち上げれば済むカメラなのです。(逆に相手が嫌な顔をできるコネクションを作れているということでもあります)

私の中では、性格の良い人が似合うカメラNo.1

GRとX100のストリートスナップに対するアプローチは真逆ですが、どちらも正しいアプローチです。

今回、そのプロダクトが潜在的にもつデザインストーリーを無理やり変えてしまい、X100で相手との暗黙のコミュニケーション無しに派手な動きで撮影するスタイルと組み合わせてしまったことが製品のプロモーションとして問題だったと思います。

もしプロモーションムービーが、撮影した後でカメラをちょっと動かしたら相手が笑顔を見せてくれるものだったら、すごくX100らしいと私は思うわけです。(そしてそんな風にしたいと憧れます)

ワルでアバンギャルドなイメージが欲しいという気持ちは良く分かります。でも、苦しんでいる子供の涙が流れる瞬間を、客観的で暴力的なジャーナリスト、自己中心的なアーティストの写真じゃなくて、共感し抱擁するように優しい視線で撮れるカメラは貴重です。ヤンチャだけど憎めない、優しさのあるキャラクターのカメラだからこそ、ギリギリの状況で許されることを証明して欲しかった。

カッコいいストリートスナップとはどういうものなのか、ぜひ富士フイルムにはこれからも追求していって欲しいと思います。

今回のことは製品が持つUXコンセプトをしっかりと理解していれば起きなかったかもしれませんし、あえて競合製品の領域を奪いにいったのかもしれませんが、後味の悪い結果になってしまいました。

せっかくクラッシックネガを入れたんだから「10年後に息子に譲るオヤジの趣味カメラ(だから15万でも高くない)」でも良かったんじゃないかな。

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