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システムモデリングで擬人化プロトタイピング

システムエンジニアリングで扱う対象を、人や環境のように文章では記述しにくいものを含めていく方法としてシステムモデリング(SysML)の記述手法は発展してきました。

文章は全ての情報が同時に存在しているように見えて、人がそれを認識する過程では音声やビデオと同じように「時間」が存在してしまいます。同時に起きる複数の状況(視点)を一度に記述できないのです。

それに対してシステムモデリングでは、同時に起きることを一度に書き表すことができ、さらに複数の時間の出来事をまとめて記述することもできます。

システムモデリングの得意領域

物事を小さい単位に切り分けて、単純な時間軸方向の変化まで記述することができれば、それをソフトウェアやハードウェアで実現することができるため、従来のシステムエンジニアリングは「動作という時間軸方向の事象」を扱う意識がどちらかと言うと強く、不具合の原因分析なども近い視点でおこなわれたいました。

それに対してシステムモデリングでは、これまでシステム(≒製品)と考えていたものが、より大きなシステムとして他のシステム(人や環境など)との関係を考えていく方向に意識が向けられ、社会や人の体験価値を中心としたデザイン領域が重要になってきている現在「意味や役割という関係性の事象」を扱う手段になっています。

システムモデリングでは、小さな世界から大きな世界まで、モノゴトをオブジェクトとして記述し、人も機械も同列に扱うことで柔軟なスケーラビリティを持つことができます。特にこれまで設計手法が明確に存在しなかったビジネスデザインのような大きなシステムの開発に使えることが特徴になっています。

 

SysMLがプロトタイピングに使えるか?

システムモデリングは、開発初期の概念設計から、開発中盤、また開発後半の不具合解析まであらゆるフェーズ、あらゆる対象範囲で利用することができます。

これまでのモノ作りを中心としたプロトタイピングでは、開発中盤になって具体的なハードウェアやソフトウェアがある程度完成しないと、正確な良し悪しの判断ができないという問題がありました。

システムが提供する体験価値を評価するためには、細かい操作や画面の雰囲気も多少影響することもありますが、より本質的な体験価値はむしろ開発初期のモノが無い段階に評価するべきだと考えています。

開発初期にあるのは企画やコンセプトと呼ばれるもので、よく評価に使われるのがフォーカスグループへのインタビュー法などですが、感想を聞いても体験評価とは言えないと思っていました。なぜなら過去の体験を引用した想像評価になってしまいイノベーティブなものには使えない手法だからです。

そこで、企画やコンセプトからもう少し作業を進め、システムモデリングをおこない各オブジェクトを擬人化してロールプレイすることで「体験」に変換し、システム要素の役割の明確化や文脈的な価値(意味)の確認をおこなえるのではないかと考えました。

システムモデリングの全てを同列に扱うという特性を逆手に取り、全てを人に置き換えてしまおうという訳です。

 

ロールプレイでシステムを「体験」する

システムの各オブジェクトは、知的であろうが機械的であろうがインプットに対してある振る舞いをおこないます。ロールプレイでは他のオブジェクトの振る舞いに対して、ゼスチャーやセリフを使って振る舞いを返します。これを繰り返していくことで各オブジェクトの役割や相互の関係性を体験することができます。

システムモデリングの図を見て頭の中で想像するだけでは気付かなかったことを発見できれば、体験設計のプロトタイピングが成功したといえます。当初の企画やコンセプトが目指していた体験価値を本当に実現できるのか、そもそも本当に価値があるのか、それを実現するための要件は何かをロールプレイによって複数の視点で体験し判断することに役立ちます。

ロールプレイを実際の業務でやる場合はどうすれば良いか困ってしまう場面もありすが、これからは「演じられるデザイナー」が求められるようになるかもしれません。どんなものにも擬人化し成りきれる能力です。

また大きなシステムになると何十何百というオブジェクトが登場します。それぞれに人を割り当てると大きな劇団ができてしまいます(笑)。結局一人何役かやることになるため極端に言えば一人でもロールプレイができる訳です。ただ重要なのは演じている人が体験する(感じている)ことと、別の人の視点で体験する(感じている)ことの2つは同時に体験できないので、最低でも二人か三人で実施するのがお勧めです。

物事のプロトタイピングを通してでしかできなかった体験のプロトタイピングから、大きく飛躍し開発上流(PoC)において体験設計のプロトタイピングが実現するとすればこんな感じなのかなと思います。

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