見出し画像

50年先100年先を考えるデジカメUXデザイン

フィルムからデジタルに移行するときに一番の課題は、「デジタル写真が50年先100年先まで残せるのか」という問題でした。

その場限りの遊びや、またはビジネス用の写真であれば、カメラの中だけで楽しんだり、パソコンに取り込めれば十分ですが、

家族写真や重要な記録では、長期保存やその再生環境も含めて、サービスを提供する必要があると考えていました。

−−−−−−

フィルム時代には、カメラメーカーはフィルムや現像/プリントと言った写真の活用領域には入り込むことができずに、数年に一度のカメラの買い替えだけでビジネスをおこなっていましたので、デジタル化の波に乗ってビジネス領域の拡大をしようと模索していました。

光磁気ディスクを使った新しい記録メディアを作ったり、クラウドサービスを立ち上げたりしましたが、結局デジカメ各社の取り組みは変化の激しいデジタル機器の世界では、上手く軌道に乗せることができませんでした。

そして生き残ったのは、SNSを中心とした「スマホサービス」として成長したブランドが、日常の写真活用を推進しながら、ライフログとしてのアーカイブを実現していくという方法でした。


全てのフォトライフが安心できる日を目指して

日常の出来事を友達にシェアするというSNSの特性から、撮影する写真の内容によってはこの仕組みの乗らないため、50年後に見つけることができなくなるという問題もあります。

仮に複数のSNSへ日常用と長期用など分散して利用している場合も、統合して扱うことが難しいなど、やはり問題が残ってしまいます。

SNSユーザーが50年先100年先をどこまで意識して写真を撮ったりシェアしているか分かりませんが、まだ全てのフォトライフに対して長期保存が実現できる状況では無いことには注意が必要です。

どんなハードウェアや電子メディアも、50年100年は博物館などの特別な環境でなければ維持・利用は不可能でしょうから、現在のクラウドサービスはその点でユーザーから見ると現実的なものだと言えます。

今後もインターネットに接続できるスマホ的なデバイスをもっていれば、自分が亡くなるその時まで、いくつかの写真にはアクセスできるでしょうから、分散やクラウド化で、全ての写真をまとめて失うリスクは減ってきているのもまた事実です。

あとは現在のSNSが「長期ライフログ」という価値をユーザーに提供でき、古いブランドほど運営・維持していくためのマネタイズができるようにUXUIデザインをおこなうしかないのだと思います。



生まれてから、子育て、孫との時間まで

長期間の保存だけでなく、デジカメの登場によって3世代が関わり合う「ライフステージモデル」がどのように形成されるのかを検討しました。

それまで、ユーザー任せになっていた「写真の活用」が、メーカーにとってサービス提供の場になり、カメラを含めたトータルソリューションを提供しブランド価値を上げようという考え方がありました。

具体的には、被写体の変化、表現の変化、目的の変化、シェアする相手の変化、それに合わせた、カメラや周辺機器の変化といったものタイムラインにマッピングし、ブランドとしてどのように対応していくのかを考えていきます。

自分が撮られた写真と撮った写真の枚数をタイムラインにまとめ、3世代で親子/孫の関係でまとめたフォトライフの基本モデル。
ここから、各世代でどんな写真と撮るのか、どんなカメラを使うのかを、ライフステージや趣味などのペルソナを作って議論をおこなっていた。

昔は、それをフルラインナップで対応していましたので「フォトライフ全体をデザインしている」という感覚が強くありました。

今は1社で全てをやる体力がなくなりましたので、どこかに特化しなければならないのが少し残念ですが、フォトライフの中で輝く時間を作るためにも、こういう視点で考えることがデジカメUXデザイナーには必要な作業となっています。



「走馬燈」を作り出す技術

「人は何のために写真を撮るのか?」という疑問への答えは、短期的な目的と長期的な目的の両方があると思いますが、

長期的な目的の一つとして、自分が死ぬ前に「もう一度見たい写真を走馬燈のように見る」というのがあると思います。

表示デバイスがスマホなのかVRゴーグルなのかは分かりませんが、大量に保存された写真の中から、10枚から100枚くらいを選び出して「自動」で表示する技術です。

デジカメによるフォトライフを考え始めたとき、この目標を実現するためにはどうしたらよいか考えました。

① カメラを持ち歩き写真を撮ること

② 撮影した写真を長期保存すること

③ 写真に写っているものとその人にとっての意味データと紐づけること

④ 死ぬ前のその人が見たい写真を選び出せ、表示できること

①は、いつも持ち歩ける小型で魅力的なカメラを開発し、撮影する動機と機会を提供することだと考えていましたが、現在のスマホ+SNSがほぼそれを実現しています。
また作画写真を追求しているのも、撮影動機・撮影機会を増やすために複数の切り口を作り、生涯を通じて写真を撮り続けるための一つと言えます。

②は、この記事の冒頭で書きましたクラウドによる保存が、墓ビジネスのように長期間維持されれば実現できそうです。
長期保存の話の中に、紙にプリントしてアルバムに貼る方法を入れなかったのは、それをおこなう人の割合が少ないことと、その時の価値観だけで残す写真が限定されてしまうからでした。
どうにかデジタルでおこなうことでこの後の③④につなげていきたかったのです。

③は、この話の中で最大の課題だと思っていました。逆にこれを解決できれば強い差別化ができます。
これも、画像認識技術の向上で自動タグ付けが実現し、SNSに上げる写真に記事が付いていることで写真の意味も推測できるようになりそうです。

④は、死ぬという状況でそれまで保存していた写真にアクセスし表示することと、見たい写真を選定する技術が必要です。
ユーザーはその後死んでしまうので、満足したかを直接聞くことはできませんが「良い笑顔で亡くなりました」と遺族が言ってくれると良いと思います。

−−−−−

「走馬燈」のようなアホな思考実験でも、実現するための条件や技術を考えると色々なことに気付くことができます。

デジタル技術はスピードが速く、次々と新製品が開発されるなかで、100年先の話を真剣にしているというのが、デジカメUXの面白いところの一つなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?