「香水」が売れたのは、やっぱりあのせいですよね。

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

年末は紅白を鬼滅の刃まで見て、そのあとはサザンの年越しライブを見て過ごしました。去年話題だった瑛人さんの「香水」という歌を聞いて、夫が「これこういう歌詞なんだー。いいね」と言ってました。私もあの歌はかなり好きで(「クズになった僕を」ってところが特に)カラオケで歌えるくらいには復唱しているのですが、やっぱりあの歌詞の最もキャッチーな部分は「ドルチェ&ガッパーナ」という固有名詞じゃないでしょうか。

え、そんな実在するメーカー名を入れていいの? それも「シャネル」とか「ブルガリ」とか香水として有名なブランドではなくドルガバ。ドルガバの香水を使っている人を私は見たことありません。しかしだからこそ、なんというかあの歌の「実話感」がぐっと高まるというか、そういう女の子が本当にいたのかなあという気持ちになって切なさも倍増する。

コピーライターをしていてよく思うのが、言葉って具体が大事だということ。具体的に話せばとてもいい話なのに、それを抽象化したり、一般論でまとめてしまうと急につまらなくなることがあります。

まだ20代で若手だった頃、某着物メーカーの広告の仕事で、

シャネルのドレスが勝てないもの。

というコピーを書いたことがあります。

これは上司やデザイナーにめちゃくちゃいいねと褒められたのですが、いややっぱりシャネルは出せないな。絶対に出せない。この良さを生かしながらシャネルの代案を考えろと言われて、いくつも考えたんですが、ちっともいいコピーにならなかった。

一流ブランドが勝てないもの。

とか、

高級ドレスが勝てないもの。

とか、

あのメゾンが勝てないもの。

とか、まあいろいろ考えたんですけどね。全然ダメですよね。

やっぱりこのコピーはシャネルじゃなきゃダメなんですと若気の至りでめちゃくちゃ主張しましたが、プレゼンにも持っていってもらえませんでした(当たり前だけど)。

その後、何年かして、今度は某きもの教室のコピーを手掛けたこともあって、そのときもこの「シャネルのドレスが勝てないもの。」というコピーを打ち合わせに持っていってみたのですが、そのときもまた別のスタッフにめちゃくちゃ褒められたんですけれど、やっぱりシャネルは無理だから代案を考えろと言われました。

(ちなみに、そんな風に別の仕事で書いたコピーを使いまわそうとしても何故か通ることは滅多にありません。やっぱりその都度きちんと考えないとダメなものなんですね)

まあ、広告ですからね。無理なんです。こうしてnoteに「シャネル」という言葉はいくらでも書けますが、広告に「シャネル」と出すことは決してできない。それがコピーや広告制作の難しいところです。商業活動であるがゆえに具体的な固有名詞を入れることが難しく、ましてやシャネルのような海外一流ブランドはほぼ不可能。やるならシャネルに許可を取ってOKをもらうという方法はあるかもしれないけれど、そこまでしてこのコピーを通す労力なんか誰もかけたくないわけです。

「君のドルチェ&ガッパーナのその香水のせいだよ」

という歌詞を聞いて、そんなことを思い出しました。あの歌詞の場合はドルガバにとって得することしかないわけですし、広告じゃなくて歌だからもう少しハードルは低いかもしれませんが、それにしても海外ブランドってうるさそう。(ちょっと調べてみたところ、あの歌は瑛人さんの自主レーベルで出されたものでそこまで売れるとも思っていなかったから当時は許可など取ってなくて、曲が売れたいまはドルガバも喜んでいるから大丈夫、という記事が出てきました。本当かどうかは知りませんが)

あの歌のドルガバの部分の代案を考えろ、と誰も言わなかったのは、もしくは言われたけど変えなかったのは、そしてあのNHKでもちゃんと歌詞を変えずに放送されたのは、すばらしい判断だなあと思ったわけです。

つまりあの曲が売れたのは、やっぱりドルチェ&ガッパーナの香水のせいだよってことなんじゃないでしょうか。知らないけど。




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