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地元に根付いた情報収集のためにコツコツと蒔いてきた種が実を結んだ時が何よりの醍醐味~報道カメラマン・芦崎秀樹さんインタビュー

「ライターになりたい!」とくしろフィスさんの「ライター養成講座」を昨年から始めたかわぐちりなさん。今回生まれて初めてのインタビュー記事を執筆しました。実はライター講座の講師を務めさせていただいたのが私でした。つたない講師によくついてきてくださったと、私の方がりなさんに感謝しています。これからライターとしてもっともっと成長していく彼女の最初の一歩を、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。

カメラに興味を持ち、趣味で回していたビデオ撮影がきっかけで切り拓かれていったカメラマンという世界。芦崎さんだからこそ撮れる映像の秘訣など、報道カメラマンというお仕事についてお話を伺いました

芦崎 秀樹 (あしざき・ひでき)

1956年生まれ。地元の高校を卒業後、実家の個人商店を手伝うかたわら結婚式のビデオ撮影に携わったことがきっかけでカメラマンの道へ。地元に密着した独自の情報を伝える北海道文化放送株式会社(以下uhb)専属の地方カメラマンとして活躍中。

“報道カメラマン”は事件や事故を撮影するのが基本。一方で“地方カメラマン”は映像を撮影するだけではない


根室港で三機関(根室海上保安部・根室警察署・根室市消防本部)の合同救助訓練を撮影する芦崎さん

報道カメラマンは事件や事故などの現場へ駆けつけ、ニュースにするための映像を撮るのが基本です。事件や事故以外では記者がいて取材するテーマがあり、そのテーマにあった映像を撮影します。どこのテレビ局のカメラマンもこの基本は同じです。撮影した映像は根室市役所の2階にある「記者室」から札幌のuhb本社に送り私の仕事は完了となります。

大きな事件などの場合、日本全国の系列テレビ局から応援部隊が駆けつけチームを組んで取材することもあります。

一方地方カメラマンの仕事では地元の人しか知り得ない情報をたくさん持っていると強みになります。特に漁業の町では陸にいて漁場で起きている情報を取るのは難しいのですが、地元だからこそ知り合いの漁業関係者などから貴重な情報が入ってくることがあります。

その意味で地方カメラマンは情報を集める記者とカメラマンを兼ねている「記者カメ」と言われることもあります。

情報が無く依頼されただけの映像を撮るのと、地道に集めた情報をもとにして撮影したものとでは中身がまったく異なります。これまで積み重ねてきた人脈づくりなど、昔蒔いた種が今になり実を結び、より良い映像を撮ることができるようになったと感じています。

きっかけは「お兄ちゃん、結婚式の手伝いしない?」という妹の言葉

――根室市で生まれ、その後羅臼町で育った芦崎さん。後に世界自然遺産に登録される知床半島のふもとで、豊かな自然に囲まれて芦崎少年は育ちました。
中学2年生の時、根室市で個人商店を経営していた高齢の祖父母を手伝うため一家で戻ってくることになりました。当時の根室市ではイカ釣り漁が特に盛んに行われ、船の入港に合わせて夜中の12時に開店するほどでした。またまとめて仕入れた卵を10個入りパックに詰める作業を手伝ったのをいまだに覚えていると言います――

東京にあるコンピューター関係の専門学校に進学し21歳の時に根室市に帰ってきました。その頃からカメラマンに興味を持ち始め、実家の店を手伝いながら出席した結婚式のビデオ撮影を頼まれてやっていました。

そのうちプロとしてビデオ撮影をしていたカメラマンの事務所に出入りしていた妹を通して「手伝いをしない?」と声を掛けられたことがきっかけで、本格的にカメラを触るようになりました。

当時のカメラはとても重たいレコーダーを持ち歩かなくてはなりませんでした。私の最初の仕事はカメラとレコーダーをつなぐケーブル持ちでした。

23歳か24歳までアシスタントのような仕事を続けていたところ、当時のuhbの担当者から「カメラマンをやらないか?」と声をかけてもらいました。
それから40年以上カメラマンの仕事をしていることになります。

カメラマンになりたての頃は家族が営んでいた個人商店も手伝っていました。平成4年12月にセイコーマートとフランチャイズ契約を結びコンビニをオープンさせました。比重はあくまでもセイコーマートでしたが、カメラマンと並行しながらよくやったと思います。

失敗もたくさんあるし報道されているニュースの裏側では過酷なことも


撮影のため、真剣な眼差しでカメラを覗き込む芦崎さん

失敗もたくさんありました。
逆シュートと言い撮影中にカメラのON/OFFを逆にしてしまい、撮れたと思った映像が映っていなかったこともあります。
寝坊して映像を撮り損ねたこともありました。北方四島交流事業の一つであるビザなし交流の船が根室港から出港するところを取材する際に寝坊してしまい、慌てて港に行きましたがすでに出港したあとでした。あの時の船のいない港の風景は苦い思い出としていまだに蘇ることがあります。

2022年4月に起きたオホーツク管内斜里町の知床半島沖の観光船沈没事故では、現地に3日間滞在し帰ってきて2日間休んでの繰り返しを、約一か月間も続けたので体力的にきつかったですね。

小さい町で事件や事故が起きると、大変なのは宿と弁当です。
観光船事故の際はuhb本社からヘルプで来てくれたスタッフらと協力し取材を続けました。

宿泊は冬季休業中だったホテルの別館を使わせてもらうことができました。素泊まりという条件で開けてもらい、朝起きたら弁当がロビーに積んであり驚いたのと同時にホッとしました。

⁽※)豊浜トンネル事故があった際もたくさんの取材陣が駆けつけ、小さな町のコンビニでは真っ先に無くなったのが弁当と下着だと聞きました。そういう情報を教訓みたいに覚えているので、知床半島の事故の時にも食事に困らないように早めに用意していただきました。

※1996年2月北海道余市郡余市町と古平郡古平町とを結ぶトンネルで、古平側のトンネル入り口付近の岩盤が崩落した事故

昔は無駄のように思えたことが今になって花開く


終始リラックスムードでインタビューに答えてくれました

40年以上もカメラマンをやっていると、昔やっていたことが今になり実を結んでいることがたくさんあります。

役員を努めている根室市の三吉神社でお祭りの出し物を故・宮本隆志氏(新根室プロレス創設者・サムソン宮本)らにやってもらっていたところ、ある時「プロレスをやりたい!」と言い出しました。当時の実行委員長が「好きなことをやっていい」と返事をして、これが今は全国的な人気となった新根室プロレスの始まりです。

三吉神社のお祭りのたびに新根室プロレスを見るために遠方から人が来るほど人気になり、気がついたら“アンドレザ・ジャイアントパンダ”が登場し更にブレイクしたんです。
ただ最初にアンドレザ・ジャイアントパンダを放送したのが他局だったので、新根室プロレスができる前から関わってきただけにuhbで放送できなくて悔しい思いもしました。

アンドレザ・ジャイアントパンダが全国各地の放送局から呼ばれるほど大人気になり、ついにuhbでも新根室プロレスのドキュメンタリー番組を制作することになりました。東京まで新根室プロレスの興行を取材したことはいい思い出になっています。

新根室プロレスの歴史を知っている私とプロレス好きな編集マンで作った番組には、2人の財産が融合していたと感じます。このドキュメンタリー「無理しない ケガしない 明日も仕事 新根室プロレス物語~」は(※)ギャラクシー賞奨励賞を受賞することができました。
この番組に関われたとことはカメラマン人生の中で一番と言えるほどの幸せです。

カメラマンとして人に注目されないことや見たこともないようなことを見つけた時の喜びが大きいです。「こういうのもあるんだよ」という事柄を、私の映像でお知らせすることができ実を結んだ時が嬉しいです。

※ギャラクシー賞:1963年NPO法人放送批判懇談会が日本の放送文化の資質的な向上を願い、優秀番組・個人・個体を顕彰するために創設した。
・TV・ラジオ・CM・報道活動の4部門制

NPO法人 放送批判懇談会

“報道カメラマン”は苦しさにも勝る楽しい取材や役得もあるから面白い


根室市役所の記者室から撮影した映像を送る作業をみせていただきました

この仕事は事件・事故がメインの取材が多く「葬儀屋みたいだ」と言われることもあります。人の苦しみや悲しみを取材して賞をもらうこともありますが素直には喜べません。
しかし、こういう仕事をしている人がいないと事実を伝えられないと思います。

苦しく過酷な取材も多いですが、それ以上に楽しい取材や役得もたくさんあります。
人の行けない場所に行く乗れないものに乗る、一般の人は立入禁止のところを取材だからと入らせてもらえることもあります。

根室には地元の人が知らないことがたくさんあります。私が紹介しているのは本当に僅かですし、大きな事故や案件ではなくても小さい何気ない事象を見つけて紹介することができると心からやりがいを感じます。

取材後記

今回芦崎さんを取材させて頂いてまず感じたのは、人柄です。気さくでとても親しみやすさを感じました。同行させて頂いた「三機関(海保・警察・消防)合同救助訓練」では、手袋をしていてもかじかむ手でカメラを構え、ところどころ凍って歩きにくい雪道を、時にカメラと一緒に三脚も持ち、よりよいアングルを求めて移動して歩く。凍てつく寒さの中での取材に過酷さを感じるとともに、長年のキャリアと撮影のこだわりに一切手を緩めない芦崎さんはカッコ良かったです。

最新情報

第59回ギャラクシー賞テレビ部門ギャラクシー賞奨励賞受賞作品
ノンフィクション北海道「無理しない ケガしない 明日も仕事 ~新根室プロレス物語~」が期間限定で有料配信中。レンタル料330円(税込) ※マルチデバイス
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ライター:かわぐち りな
撮影:こやま けいこ

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