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馬名をつける全人類に捧げる、超簡単スペイン語表記講座

 スペイン語由来の馬名を見かけます。レイデオロ(Rey De Oro)とか、ディアデラノビア(Día De La Novia)とか、ミスエルテ(Mi Suerte)とか。スペイン語馬名ってカッコいいですよね。もしレイデオロを英語にしたら「ゴールドキング」ですよ。FFの噛ませ犬ザコボスみたいな雰囲気が出ちゃいます。スペイン語にして正解です。

 しかし、あえてスペイン語の名前をつけたのに、その表記が間違っていたら激ダサです。というか、スペイン語をつけたのに、スペイン語について何も調べなかったの?と、名づけ親の責任のなさに驚きます。これはスペイン語に限ったことではなくて、フランス語でもロシア語でもカンボジア語でも同じことが言えます。外国語をカタカナで表記する場合には、当たり前とされているルールがあります。そのルールにちゃんと従いましょう。"YUTAKA TAKE" が「ユターカ・テイク」でなく「ユタカ・タケ」と書かれるように。

 具体的な名前を出して申し訳ないんですが、今年の2歳牝馬にヴァレーデラルナ(Valle De La Luna)という馬がいます。馬名の意味はスペイン語で「月の谷」です。欧字を見ればスペイン語だと一目瞭然です。しかし、カタカナだけを見れば「これ何語?」と思いかねません。

 スペイン語で "Valle" は「谷」を意味します。スペイン語では "B" も "V" も「バ行」で発音・表記するというのが規則です。投げた石が地面に落ちるくらい当たり前のルールです。なぜなら、下唇を噛む「ヴァ」の音はスペイン語には存在しないからです。次の "lle" も「レー」とは読みません。"L" を2つ重ねる音は「リャ、リィ、リュ、リェ、リョ」、もしくは「ジャ、ジィ、ジュ、ジェ、ジョ」、アルゼンチン・ウルグアイ方言で「シャ、シィ、シュ、シェ、ショ」と決まっています。表記もそのように決められています。したがって、"Valle De La Luna" は「バリェ(バジェ)デラルナ」が正しいです。むしろ、これ以外の表記はありえません。

 たしかに、知らない外国語を正しくカタカナにするのは難しいです。僕もフランス語とかドイツ語に関しては適切な発音を知らないので、カタカナ表記するときはめちゃくちゃミスります。そこで、そうしたミスを少しでも減らせるように、今回は特に注意が必要なスペイン語の表記ルールを紹介します。


① "B" と "V" は同じだ!

 これはさっき書きましたが、どちらも「バ、ビボ」です。スペイン語には(同じく日本語にも)「ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォ」という下唇を噛む音素、専門用語でいうところの有声唇歯摩擦音が存在しません。


② "LL" の重なりに注意しろ!

 これもすでに述べましたが、"L" の重なりは「ラ行」ではなく、「リャ行」です。実際の発音では「ジャ行」に聞こえることもあるので、「リャ、リィリュリェリョ」「ジャジィジュジェジョ」の2つの表記が認められています。


③ "G" は "GE" と "GI" に気をつけろ!

 "G" で注意したいのは "GI" と "GE" です。"GI" は「ヒ」"GE" は「ヘ」になります。したがって、GA, GI, GU, GE, GO は「ガ、ギ、グ、ゲ、ゴ」ではなく「ガ、ヒゴ」です。では、「ギ」と「ゲ」はどのように書くのかというと "GUI" , "GUE" となります。Guerrero をゲレーロと表記するのはそのためです。


④ "J" は「ジャ行」ではなく「ハ行」!

 "J" は「ハ行」で表記します。JA, JI, JU, JE, JO と書いて「ハ、ホ」です。「ジャマイカ」のことをスペイン語では「ハマイカ」と言います。じゃあスペイン語で "HA" は何て読むの?と思うかもしれませんが、スペイン語では "H" を発音しないので、HA, HI, HU, HE, HO と書くと「ア、イ、ウ、エ、オ」になります。


⑤ ザ行はない!

 "Z" を見ると「ザ行」で書きたくなりますが、スペイン語では濁りません。SA, SI, SU, SE, SO, も ZA, ZI, ZU, ZE, ZO も「サ、シ、ス、セ、ソ」です。スペイン発のブランドに ZARA がありますが、厳密には「ザラ」ではなく「サラ」です。"Z" が出たついでに "C"  も確認しましょう。CA, CI, CU, CE, CO, は「カシクセコ」になります。"CI" と "CE" は「シ」と「セ」なので注意が必要です。では、「キ」と「ケ」と読みたい場合にはどうしたらいいのか。"QUI" と "QUE" と書きます。


 他にも、特殊文字の "Ñ" は「ニャ行」とか、"GUE" は「ゲ」だけど "GÜE" だと「グエ」になるなどのルールはありますが、上の5つを押さえておけばほぼOKです。

 スペイン語の発音と日本語の発音は非常に似ています。アルファベットをカタカナ読みすればいいのです。だから、日本人の話すスペイン語はめちゃめちゃ発音が上手で、むしろドイツ人とかフランス人の話すスペイン語は悲惨です。逆の場合も当てはまって、スペイン語圏の人の日本語はかなり発音が良いです。いくつかのトリッキーなルールさえ覚えてしまえば、スペイン語はもっともカタカナ表記しやすい外国語なんです。

 スペイン語の馬名をつけたいけどカタカナ表記が合ってるか自信がない、という方がいらっしゃればお気軽に連絡ください。アドバイスします。


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木下 昂也(Koya Kinoshita)
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