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古民家の解体工事【怪談・怖い話】

これは、奈良県で家屋の解体業を営む山田さん(仮名)から聞いた話だ。

十数年前、彼が手掛けた古民家の解体工事は、他の現場とは一線を画す異様な雰囲気に包まれていたという。解体する家は、奈良の田舎にぽつんと佇む、時の流れを忘れたかのような古い家屋だった。天井が高く、木造の梁がむき出しになったその屋内に、一歩足を踏み入れると、何かしらの不穏な気配が漂っているのを感じた。山田さんとその仲間たちは、まず屋根瓦を落とすために二階の天井をぶち抜いた。だが、その瞬間、彼らの目に飛び込んできた光景は、言葉を失わせるものだった。

天井裏の柱という柱には、びっしりと貼られたお札が目に付いた。墨と赤い絵の具で描かれた目の模様が、不気味に睨み返してくるかのようだった。お札には何かしらのお経のような文字がびっしりと書き込まれており、その数は一つや二つではなかった。さらに梁には、神社の御幣に似たものが突き刺さっており、その上に「封」という大きな文字が力強く記されていた。

「これはただ事じゃない」そう思った山田さんは、施主や近隣住民に連絡を取って、お祓いや御祓いの必要性を話し合った。しかし、「工期がない」という一言でその提案は却下され、工事は予定通り進められることになった。山田さんたちは、安全確認を普段以上に徹底しながら作業を進め、最終的には無事に工事を終えることができた。

後日、山田さんは近所の住民から奇妙な話を聞かされた。その家はかつて、強力な霊能者の住処だったらしく、彼が自身の力で祓いきれない「何か」を天井裏に封印していたのではないかというのだ。山田さんはその話に、得体の知れない不安を覚えたが、もう後の祭りだった。

彼がその話を当時付き合っていた彼女に伝えると、彼女は「霊感のある知り合いに相談した方がいい」と言い出した。深夜のファミレスで待ち合わせたその人物は、まるでキャバクラ嬢のようなけばけばしい化粧をした若い女性だった。彼女は山田さんを一目見るなり、「あんたはいいことをした」と告げた。

その女曰く、あの赤い目のお札は程度の低い呪詛で、数を増やしても効果はほとんどないものだという。御幣に記された「封」という文字も、恐ろしく粗雑で、何の効力もないようなものだったらしい。つまり、封印された「何か」が本当に存在したとしても、それを抑え込むには到底及ばないものだったと。

その女は、あの家屋の天井裏に封じられていたものが、何か生まれたての神のような存在だったのかもしれないと語った。それはタイの象使いが小象のころから小枝で叩き、成長してもその小枝を怖がり続けるように、「何か」が自身を封じる力があると錯覚していたのかもしれないと。

山田さんは、その話を聞いた後も、特に呪われたと感じることも、奇怪な出来事に遭遇することもなかった。ただ、あの不気味なお札まみれの家屋を解体した日のことは、今でも彼の記憶に鮮明に残っているという。恐怖の実感こそなかったが、彼の心には何か深く刻まれるものがあったのだろう。

[出典:865 :本当にあった怖い名無し:2022/07/01(金) 02:04:05.24 ID:/Lpu3p+U0.net]


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