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青黒い犬【怪談・怖い話】

これは、青森県にある弘前市の奥深くに佇む烏森家にまつわる、異様で陰鬱な話だ。
かつては地元で名を馳せた地主の家系だったが、今ではその一族は解散し、家名も忘れ去られた。しかし、家系に伝わる忌まわしい運命だけは、今もなお消えることなく語り継がれている。

烏森家の男たちは、代々《青黒い犬》と呼ばれる怪異に取り憑かれていた。これは、ただの噂話や子供を脅かす作り話ではない。

誰一人として逃れることができず、例外なく追い詰められ、そして消えていった。青森の寒風が吹き荒ぶ山間にあるその屋敷に、今もその怨念が漂っているかのようだ。

最初にその異変を体験したのは、当時の家長であった祖父だった。彼は厳格で、人々から恐れられる存在だったが、《青黒い犬》に出会ったその日から、次第に狂気に囚われていった。

祖父はある晩、突然姿を消した。そして、青函トンネルを渡り、二年後に北海道から帰ってきた時には、別人のように憔悴しきっていた。

彼がその間に何を見、何を体験したのかは誰にも語らなかったが、その瞳に宿る恐怖の色だけは、生涯消えることがなかったという。

次に犠牲となったのは叔父だった。叔父は家系の期待を一身に背負い、東京の大学で学び、将来を有望視されていた。

しかし、ある日突然、彼もまた《青黒い犬》に追われ始めた。彼はそのまま行方不明となり、一年後、群馬県の山間部にある薄暗い布団工場で発見された。

音楽を愛し、挫折を知らなかった彼は、再会した時には完全に無気力で、かつての輝きを失っていた。何かに怯えるように暮らし、決してその恐怖を口にすることはなかった。

そして、最も衝撃的な事件が起こったのは、家に婿入りした勝男さん(仮名)の場合だった。彼は他家から迎え入れられた身であり、烏森家の血筋ではなかったため、最初は安心していた。

しかし、《青黒い犬》の呪いは彼にも容赦なく降りかかる。勝男さんは電話で「《青黒い犬》が近づいてきた」とだけ言い残し、その後、富山県の山中で首が異常な角度に折れ曲がった状態で発見された。

彼の死は、事故として処理されたが、誰もがそれが普通の事故ではないことを理解していた。

烏森家に起こる怪異は、男衆だけを狙うという奇妙な特徴を持っていた。女性や婿に出た男たちには一切影響がない。

家系の外に出た者たちは呪いから逃れたが、家を継ぐ運命にある者たちは、《青黒い犬》から逃れることはできなかった。

《青黒い犬》とは何か、それを知る者は少ない。だが、家族の間で囁かれるその姿は、真っ黒な体に青白い炎をまとった獣であり、荒々しい息遣いと共に金属を引きずるような音が鳴り響くという。それは狼のようでもあり、犬のようでもあり、人々の想像を超えた存在だった。

この怪異が、何世代にもわたり続く原因として考えられるのは、家がかつて犯した罪にあるのではないかと言われている。

かつて烏森家が所有していた土地には、神聖な山や森があり、それを汚したことで神々の怒りを買ったのではないか。

もしくは、日蓮宗のお寺から本尊を売り飛ばしたという罰当たりな行為が、その後代々にわたり災いを呼び込んでいるのかもしれない。

しかし、このような推測が正しいとしても、《青黒い犬》の正体やその目的は今も謎のままだ。祓いを試みた者は誰もおらず、あるいは試みたとしても、その結果は語られることなく闇に葬られてしまったのかもしれない。

いずれにせよ、この呪われた家系は、今や親戚の解散を迎え、家名は途絶えたかのように思える。

しかし、呪いが終わったのかどうか、それを知る者はもういない。ただ、風が冷たく吹きすさぶ青森の山中には、今もその影が忍び寄っているのかもしれない。

次に誰がその《青黒い犬》に追い詰められるのか、それを知る術は、誰にもないのだから……

[出典:887 :☆青黒い犬:2009/08/10(月) 00:02:20 ID:WwmgenYaO]


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