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第二のYちゃん【怪談・怖い話】

これは、大学で知り合った友人から聞いた話だ。

その子の名前はYちゃん。明るくて、どこか不思議な雰囲気のある子だった。彼女自身は特に奇妙なわけではないのだが、周囲に広がる噂や出来事が、まるで彼女を中心に何かが渦巻いているかのようだった。誰かが常に「Yちゃんって○○らしいよ」と、関係のない情報を流してくるのだ。頻繁にそんなことが起こるので、彼女の仲間内ではその現象を「第二のYちゃん」と呼んでいたらしい。

ある日、ゼミの先生がふと、「Yさん、埼玉方面だから○○さんと一緒に帰れば?」と言った。Yちゃんは困惑した表情で「私、千葉ですけど…」と返した。先生は戸惑いながら、「あれ?誰かがYさんの家は埼玉だって言っていたような…」と呟いた。誰がそんなことを言ったのか、先生も、周りの誰も思い出せない。まるで、その言葉だけが空から降ってきたかのようだった。

また別の日、彼女たちはケーキの会を開いた。みんなでお金を出し合って、ホールケーキをいくつも買い込み、わいわいと盛り上がっていた。しかし、Yちゃんだけがその場にいない。「Yちゃん、帰ったんじゃない?」と、誰かが言った。「最初は参加する気だったけど、気が変わって帰ったんだよね」とも。それに対してみんなも、「Yちゃん、またそういう気まぐれか」と納得してしまった。しかし、ケーキを食べ終えた後、Yちゃんが現れて、「私の分は?」と不満げに言ったのだ。

その場にいた全員が凍りついた。「あれ?帰ったんじゃなかったっけ?」と誰かが聞いたが、Yちゃんは「帰ってないよ!私もケーキ選んだのに、そんなわけないじゃん!」と訴えた。みんなは顔を見合わせたが、誰も、Yちゃんが帰ったと言った人物を思い出すことができなかったのだ。確かに誰かがそう言った。Yちゃんとも親しい人物だったはずなのに、その人物の顔も名前も、まるで霧がかかったように消えていた。

それ以外にも、Yちゃんには妙な出来事が付きまとっていた。「Yちゃんのお兄さんって幾つ?」と誰かが聞くと、Yちゃんは不思議そうな顔で「私、一人っ子だよ」と返す。「でも、確かにお兄さんがいるって話してたはずだし、皆もその話を聞いてたんだけど…」その瞬間、またしても誰もが「誰が言ったのか」を思い出せなかった。まるでその情報が勝手に共有されていたかのように、皆が同じ誤解をしていたのだ。

こんな些細な噂や誤解が続く中で、Yちゃん自身も気味悪がるようになった。彼女は特に目立たない学生だったが、なぜかいつも、周囲の人々の記憶や言動が捻じれてしまう。そして、それを語る誰もが「誰から聞いたのか」思い出せないまま、その場の雰囲気に流されるように納得してしまうのだ。

彼女の存在は確かに目の前にある。だが、時折その輪郭がぼやけ、まるで「もう一人のYちゃん」が彼女の周りにいるかのような錯覚を抱かせる。彼女は本当に一人なのだろうか、それとも…。

[出典:143 :1/3:2012/02/23(木) 01:30:11.17 ID:I4cGbcL90]



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