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謎の建物【怪談・怖い話】

これは、数年前に故郷に帰省した友人から聞いた話だ。

彼が最後に故郷を訪れたのは二年前のこと。今回のお盆に再び訪れると、少し風景が変わっていたという。特に、川沿いにあった廃工場が消え、代わりにステンドグラスが飾られた奇妙な建物が建っていたのが印象的だった。そんな彼が従姉と会い、世間話をしながら帰路についたとき、何気なく「廃工場はいつ取り壊されたのか?」と尋ねると、従姉は驚いたように「まだ工場はそのままだ」と言った。

二人の記憶に大きなズレがあることに戸惑いながらも、彼らは確認するために工場跡へ向かうことにした。そこにあったのは、彼の記憶通り、古びたステンドグラス付きの建物。築年数もそれなりに経っているようで、地元を離れてわずか二年ほどの彼には到底理解できない変貌ぶりだった。建物の前に立つと、ガラス張りのドアの向こうにロビー風の空間が見え、そこにはスーツ姿の青年がソファに座り、ペットボトルのお茶を飲んでいた。

青年は彼らに気づき、にこやかにドアを開けて「仕事でここに来たんだ。君たちはこの町の人かな?」と話しかけてきた。一見爽やかな印象だったが、彼らが地元民だと答えると、青年の態度は一変した。突然、彼を「汚れた民族の末裔」と呼び、従姉の服装や彼の眼鏡にまで侮蔑的な言葉を投げかけた。青年の言動は次第に狂気を帯び、意味不明な「穢れた蝶の血」について口走り始めた。

彼は逃げ出したい一心で、従姉とともに出口を目指したが、青年は異様な力で二人を押さえ込み、彼を殴り飛ばし、従姉の腕をひねり上げた。その瞬間、黒い蝶がドアにまとわりつくのを目にした青年は、何かに怯えたように「貴様だけは許さん!ひざまずけ!」と叫びながら外へと飛び出していった。

彼と従姉はその隙に逃げ出すことができた。翌日、恐る恐る再び工場跡を訪れたが、そこにはいつもの廃工場が佇んでいた。あの奇妙な建物はどこにもなく、まるで最初から存在しなかったかのようだ。地元の幼馴染に話をしても、誰もそんな建物を見たことがないと言う。

彼が心に引っかかっているのは、青年が口にした「穢れた蝶の血」という言葉だった。地元にはお盆になると、先祖が虫の姿をとって帰ってくるという風習がある。そして、彼と従姉の共通の祖父は、カラスアゲハの姿で現れると信じられていた。あの時、ドアにまとわりついていた黒い蝶は、祖父だったのかもしれない――彼はそう思わずにはいられなかった。

[出典:572 :本当にあった怖い名無し:2009/10/16(金) 12:25:17 ID:oBMalUeI0]



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