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国有鉄道の宿舎【怪談・怖い話】

これは、私の知り合いが体験した話だ。

かつて国有鉄道の職員宿舎として利用されていた一軒家が、山の中腹にぽつんと佇んでいた。管理局からの転勤命令で、その家に父親が単身赴任することとなった。山といっても、その街の繁華街からほど近く、駅前の賑わいからは想像もつかない静寂がその家を包んでいた。斜面を少し登ったところにあるその宿舎は、昭和の終わり頃でも既に古びており、建物の木製窓枠や、屋内のどこかカビ臭い匂いが歴史の重みを感じさせた。

中学生だった私は、母と共にその宿舎に入った。荷物を運び込み、窓を開け放ち、掃除を始めると、家中の古びた木が軋む音が不気味に響いていた。掃除の途中、私はトイレに行った。和式のトイレで、天井近くに水タンクがあり、鎖を引くと水が流れる仕組みだった。用を足し終え、トイレを出ると、何故か誰かがすぐそばにいるような気配がした。母かと思い呼びかけたが、返事はなかった。不思議に思いながらも気に留めず、掃除を続けた。

夕方、街の火の見櫓から「良い子は家に帰りましょう」とのアナウンスが流れ、私は玄関を出て自販機でジュースを買って戻った。縁側に座っていた母が驚いた顔で「今までお前が家の中を掃除していたと思ったのに、いつの間に外に出たのか」と聞いてきた。私はそんなことはしていないと言い、家の中を再度確認したが、誰の姿も見当たらなかった。私がトイレから出たときの気配のことを母に話すと、不安を感じた母は「日が暮れる前に帰ろう」と言い、慌ただしく戸締りをして家を後にした。

それから三ヶ月ほどが過ぎ、父が「宿舎でおかしなことが起きる」と言い始めた。夜、電気を消すと障子に人影が映り、気になって障子を開けると誰もいない。気のせいかと思い電気を消すと、再び人影が現れるのだという。気味悪さから、父は夜電気をつけたまま寝るようになったが、今度は襖が誰かに叩かれる。開けようとしても、なぜか内側からは開かなかった。

その出来事からさらに日が経ち、夜8時過ぎに父から電話がかかってきた。「障子の向こうから、亡くなったはずの祖母が語りかけてくる」というものだった。さらに、襖が開かず家から出られないという。内容が内容だけに、母と私はすぐに寺に向かい、お札と御守りを手に宿舎へ向かった。

片道1時間半の道のりを経て宿舎に到着し、玄関を開けた。父のいる寝室だけが明かりに照らされていた。寝室の襖を開けると、何の抵抗もなく開いたが、父は「内側からは開かなかった」と青ざめた顔で言った。お寺で授かったお札を寝室に貼り、父はその夜も機関区の仮眠室で過ごした。その後、父が宿舎で過ごす日々に怪異は起こらなくなったという。

ある日、父が玄関脇を掃除していた時、土の中から白いかけらが現れた。それは、昔「生」で埋めた何かの名残のようであったが、その正体は今もわからない。父はその後、「あの宿舎は気味が悪かったが、職場の人々や街の雰囲気は素晴らしかった」とよく話していた。

時が経ち、私は自分の娘と共にその街を訪れた。街は発展し、当時の面影はなく、宿舎も既に取り壊され、ただの空き地になっていた。時の流れの速さを感じつつ、あの宿舎をもう一度見たかったと思うが、それは叶わなかったのだ。

[出典:942 :本当にあった怖い名無し:2022/01/06(木) 11:28:17.87 ID:YQdbeFq20.net]


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