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静寂に潜む背信の霊章【怪談・怖い話】

これは、かつて私が勤めていた会社で実際にあった話だ。

その会社は中規模で、社長はワンマン、上司たちはイエスマンばかり。社内の雰囲気は悪く、陰湿なイジメが蔓延していた。そんな中で唯一の友人がいた。彼は30代の渋い男前で、どこか陰のある人物だった。飲みに行く仲になると、彼はかつて長い付き合いだった彼女を事故で亡くしたと話してくれた。婚約していたが、結婚前に彼女は死んでしまい、葬儀や墓の手配は彼女の実家が行ったという。「遠方で墓参りにもあまり行ってない」と言う彼は、彼女からもらったお守りを今でも大事に持ち歩いていた。

そのお守りは、和風の布袋に紐がついたものだった。彼女が彼に「これをあげるね。真面目に一生懸命努力してる人は、神様が守ってくれるんだよ」と言って渡してくれたものだったという。その話を聞いた私は、羨ましさと嫉妬から彼を冗談で蹴っ飛ばし、笑い合った。

ところが、その会社の人間関係の悪さは想像以上だった。友人は特に直属の上司との仲が最悪で、日々のイビリに耐えながら仕事をしていた。ある日、私が帰ろうとした時、喫煙所で例の友人と仲が悪かった連中に呼び止められた。彼らは友人のお守りを持ち出し、馬鹿にしていた。「これ見ろよ。女いないからカッコつけてるだけだろ」と言いながら、中身を見せてきた。お守りの中には、小さな錆びた十字架のペンダントが入っていた。それを見た瞬間、私は嫌な予感がした。

その後、友人は数日間落ち込み続け、私もそのことを話すべきか悩んだが、結局言えなかった。そして、お守りを盗んだ連中に次々と不幸が降りかかり始めた。一人は精神病院に入院し、別の一人はヤクザ絡みのトラブルに巻き込まれた。そして、会社全体が妙な雰囲気に包まれ、社員たちの間に不穏な噂が飛び交うようになった。取引先からも縁を切られる事態になり、会社はどんどん崩壊していった。

その頃、友人は私を飲みに誘い、彼女が夢に出てきた話をしてくれた。「ごめんね、ごめんね」と謝る彼女は、「あの会社から早く出て」と泣きそうな顔で訴えたという。友人は真剣に私にも会社を辞めるよう勧めた。私も半信半疑ながら、その言葉に不安を感じていた。

その後、泥棒グループの一人が「助けてくれ」と私に泣きついてきた。彼はお守りを手にした日から、黒人の中年女性の霊を見たと震えていた。その話を聞いた私は、友人の彼女とは全く無関係の存在であることに気づいた。結局、友人と共に彼女の父親に会いに行き、そこでようやく真相が明らかになった。

彼女が幼い頃に仲良くしていたアフリカ系の女性が、お守り袋を渡していたこと。その女性は、キリスト教徒でありながら、日本の仏教に改宗していたが、信仰に深い葛藤を抱えていたこと。そして、その女性が亡くなる前に彼女に託したものが、あの十字架のペンダントだったというのだ。

その後、泥棒グループの一人が遺体で発見され、会社も崩壊した。友人はクリスチャンとなり、彼女のために祈り続けたが、私の心には未だにあの不気味な出来事の痕跡が残っている。そして、ある日友人が見せてくれたロザリオは、泥棒グループが奪ったあのお守りの中のものとそっくりだった。しかも、彼の鞄には再びあの古びたお守り袋が下がっていたのだ。

私はその場で深く追及することはできなかった。友人が「目が覚めたらついてたんだよ」と笑いながら言う姿を想像してしまったからだ。恐怖は、時に無言のまま私たちの心に深く刻まれる。あの会社で起こった出来事も、友人が祈る姿も、すべてが不気味に私の記憶に焼き付いている。

[出典:714 :本当にあった怖い名無し:2009/03/12(木) 23:00:19 ID:Rxwynwh80]


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